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「え、そうか?」
冬華からの唐突な指摘に、思わず声が出た。
「ポテトって、温かいほうが美味しいのに。ハンバーガーを半分くらい食べるまで、ポテトに全然手つけないじゃん?」
「……あっ、本当だ」
そう言われてみれば、その通りかもしれない。
俺は食べる順番を決めてるつもりは無いけど、無意識にいつも同じ様に食べていたかもしれない。
「あと、ナゲットも一口目は何もつけないもんね。どうせソースは途中からつけるつもりなんでしょ?」
「冬華って、なんでも分かるよな!」
「ふふ、そうでしょ?」
冬華は、少しだけ得意げに微笑む。
「はいどうぞ。マスタードソースが好きなんだもんね」
そう言って、冬華は自分のマスタードソースを俺のトレーにそっと置いてくれる。
「よく分かったな……冬華」
「上原さんと藍沢くんって、よく一緒にハンバーガー食べたりするの?」
「いや? 初めてだけど?」
冬華とは学校で昼食を一緒に食べているが、外でこうやって食べるのは初めてだ。
だが、それがどうかしたのか?
姫川さんはなにかひっかかることでもあったんだろうか。
「え? じゃあ、上原さんって……なんでそんなに藍沢くんのこと詳しいの?」
「……? 見てれば分かると思うけど……」
「見てたって、ここまで分からないって!」
「そうだよな! でも冬華っていつもこんな感じなんだよ。すごいよな」
冬華は超能力でも使えるのかっていうくらい気が利くんだよな。……健気っていうかさ。
だが、俺の説明が腑に落ちないのか、姫川さんはイマイチ納得できないような顔をしている。
もっと上手く説明できたらいいんだけど、本当にいつもこんな感じだから……他になんて説明していいかわからない。
バーガーも半分くらい食べたし、とりあえずポテトでも食べるか……
「はい。そろそろ欲しくなる頃でしょ?」
「ありがとう、冬華」
ビックリするくらい完璧なタイミングだった。
俺が手を伸ばした先に、冬華がポテトを差し出していたのだ。やっぱり冬華はすごい。
「なにそれ! 上原さん、怖っ!!」
姫川さんが目を丸くして驚いている。
まあ、慣れないとそういうリアクションだよな。
「上原さんって……藍沢くんのこと、どこまで把握してるの?」
「えっ、これくらい普通でしょ? 一緒にいれば大体分かるし」
「いやいや、こんなの普通じゃないよ! ねえ、藍沢くん?」
「俺も初めは驚いたけど、もう慣れちゃったなぁ。ははは」
俺は笑ったけど、姫川さんは少し引いてるみたいな感じで俺の方を見ている。
……なんか変なこと言ったかな?
次はお待ちかねの大好物、コーンを頂くとしよう。
「あのさ……藍沢くん、上原さんってさ――」
「姫川さん」
なにかを言いかけた姫川さんに、冬華が被せるように呼んだ。
「陽太がコーン食べてる時に話しかけても、答えは返ってこないよ」
「えっ?」
「コーン大好きだから、夢中になり過ぎて人の話なんて聞こえてないの」
……何か言っているみたいだな?
俺はとりあえず、コーンを一度トレーに戻した。
「だから、今はそっとしておいてあげて」
「…………」
ん? ……そっとしておいてってなんの話だ?
よくわからないけど、姫川さんは言葉に詰まっている様子だ。もしかして、ケンカでもしてるんだろうか?
俺が不思議に思って2人を眺めていると、姫川さんが笑顔に戻って笑い出す。
「そ、そうなんだ! ごめんごめん!」
明るく言ってはいるが、視線がチラチラと冬華に向いている。
なにかを測るような、疑り深く相手を探るような視線……俺の考えすぎか?
冬華はというと、まったく気にせずジュースを飲んでいる。
多分、気のせいだろうな。
「あっそうだ、陽太。コーラは氷少なめにしておいたからね」
「まじか! ありがとうな」
「上原さん……どういうこと?」
「氷多いと、味薄くなるから嫌かなって……」
いやほんと、そのとおりです。冬華はよく分かってるな。
俺はコーラを飲みながら、コクコクと頷いた。
「……すごいね。上原さん」
「そう?」
「うん、私も負けてられないかも……」
ボソッと姫川さんがなにかを呟いたが、声が小さ過ぎて、うまく聞き取れなかった。
多分、冬華にも聞こえてないだろう。
◆
腹ごしらえを済ませた俺たちは、食後の運動を兼ねて園内を散策することにした。ついでに未消化のアトラクションをこなしていく。
メリーゴーランドでは、白馬に跨った冬華が絵になりすぎて、通りがかりの客が思わず立ち止まって見とれていたり……
シューティングゲームでは、姫川さんが尋常じゃないエイム力を発揮して、景品のぬいぐるみをゲットして大喜びしていた。
そんな風にアトラクションをいくつも消化していくと、あっという間に日が傾きかけている。
「ん? この匂い……チュロスだね!」
姫川さんが犬みたいに鼻をクンクンさせて、チュロス屋の前で立ち止まった。
歩き回ったせいか、油と砂糖の甘い香りが、なんとも言えないほど食欲を刺激する。
ああだめだ……急にお腹が空いてきた。
「ちょうどいいな、おやつにチュロスでも食べるか? 俺も小腹が空いてきたしさ」
「賛成。いっぱい歩いて疲れちゃったし」
「さっすが藍沢くん、女子のことわかってるぅ~!」
「はは……」
女子のことはそこまで分からないが、とりあえず肯定しておくのが雰囲気的には良さそうだ。
「じゃあ、何味にしようかな〜」
「ふーん、色々な味があるのね」
よくあるシナモンの他にもチョコやイチゴなどもあるようだが、味で値段が変わるわけじゃなく、全て450円で統一されているようだ。
「おお、本当だ。俺、こういうのってめったに買わないから新鮮だな」
「ふふん、そっか〜。じゃあさ……」
姫川さんの提案により、俺たちはそれぞれ別の味を買うことになった。
姫川さんはチョコ、冬華はシナモン、俺はイチゴ味を選んだ。
せっかくなので、ベンチに座ってのんびり食べようかと思ったのだが……姫川さんが『食べ歩きしようよ!』と提案してきた。




