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「お……うげ……」

 

 コーヒーカップから降りた俺たちは、ふらつく足取りでベンチに向かった。


 正確には、ふらついているのは俺と冬華だけだった。姫川さんは嬉しそうにニコニコしている。


「あー楽しかったね! 次はどうする?」


 どーもこうもしねえよ! と、突っ込みたいところだったが、ぐっと飲み込んだ。


 そんなに叫んだら、胃の中から何かが出てきそうな気がするからだ。俺は今、ちょっと気持ちが悪いのである。


「……その前に、ちょっと休憩させてくれないか。冬華も俺もヤバい」


「えー、仕方ないなあ」


「コーヒーカップってこんな地獄みたいな乗り物だったんだな。冬華、大丈夫か?」


「うん、少し休めば大丈夫。陽太は?」


「俺も少し休めば……大丈夫だ」


 冬華と俺はベンチで少し休んだら復活したので、適当に歩きながら次のアトラクションを決めることにした。

 

「じゃあ、次はこれなんかどうだ?」


 俺が指差した先には、廃病院のような不気味な建物があった。


 そう――廃病院をテーマにしたお化け屋敷だ。


「うん、これなら激しくないし、大丈夫そう」


「えっ、お化け屋敷……」


 さっきまで「はやく次行こうよ!」とノリノリだったのに、姫川さんの様子がおかしい。


「もしかして……怖いのか?」


「い、いや、あんなの作り物だし。怖いわけ無いじゃん、やだなあ藍沢くん。あはは……」


「まあ、そうだよな。俺たちもう高校生だし、そもそもお化けなんていなし」

 

「……ただ、好き好んで入るものでもないよね?」


「ものは試しだ。せっかくだし、行ってみようぜ。なあ、冬華?」


「…………」 


 あれ? さっきは賛成してくれたのに、冬華の返事がない。


 俺は冬華の方を見る。もしかして、実はお化けが苦手なんだろうか?


「どうした、冬華……?」


「……その、姫川さんが怖いなら止めてもいいかなって」


「え? わ、私なら、だ、大丈夫だよ?」


「…………」 


 冬華は、怖がっていると言うよりも……何かを考えているみたいな感じだった。


「じゃあ、行くか」


「うん……」

 

「よし! い、行こう!」

 

 冬華は小さく、姫川さんは妙に元気に返事をした。


 ◆

 

(冬華視点)


 うっかりしていた。


 主人公は――つまり姫川はホラー系が苦手という設定持ちだった。ゲームでは遊園地イベントなんて無いから、ただの設定として記憶の隅に追いやっていた。

 

 私の知識から言えば、ゲームや物語でもお化け屋敷というのは何かしらのイベントが発生する場所だ。


 しかも、姫川はお化けが怖いときている。なにかが起きないはずがない。


 暗闇で怖がった女子が意中の男子に抱きつく、いわゆる密着イベントが絶対に発生する。


 そうなったら陽太は、姫川を意識してしまうかもしれない。私が積み上げた好感度が全部パアになってしまう。


 そんなことはさせない。


 私が絶対に……阻止する!


 それに姫川が陽太に抱きつく所なんて、そんなの絶対に見たくない。


 ……大丈夫よ。


 ここのお化け屋敷の構造は知らないけど、お化け屋敷にはセオリーがある。


 大きな音が鳴るポイントに、先の見えない曲がり角、不自然な装飾がある空間。


 その違和感を私が先に察知して、姫川にネタバレしてしまえば良いのだ。


 ネタさえ割れてしまえば、恐怖も薄くなる。そうすれば、密着イベントは発生しない。


 陽太は姫川に惹かれることもなく、終わるはずだ。



「よし……行くわよ」



 私は気合を入れて2人の前に出ると、建物へと足を踏み入れた。


 お化け屋敷の中は微妙に湿度が高く、ときおり生暖かい風が吹いてきて気持ち悪い。


 薄暗いボロボロの廊下に、天井から垂れ下がった蛍光灯が、不規則に明滅を繰り返している。


 遠くで聞こえる、うめき声のような音。


「かなり本格的じゃないか。すげーな」


 まさに廃病院といった雰囲気で、内部の造りはかなり凝っている。


「ひぃぃ、こ、怖いよぉ……」


「大丈夫、私がついてるわ」


 並び順は、先頭が私、真ん中に陽太、怖がりな姫川が最後尾。


 私が先回りして全てを潰すためには、この並びにならざるを得ない。


 後ろを振り返ると、姫川が恐怖で少し縮こまってキョロキョロしながら歩いている。


 私の任務は、彼女をパニックにさせないこと。


 姫川が陽太に抱きつく前に、私が先手を打つ。


「きゃっ、なにこれ!?」


 突然、姫川が声を上げた。


 天井から垂れ下がっていた古びた包帯に驚いたらしい。


「ただの包帯だよ、姫川さん。演出だから安心して」


 この程度なら想定内だ。私はすかさず冷静な声でフォローを入れる。


 そして先回りして恐怖の芽を摘んでいく。


「ほら、あそこ。カーテンの隙間が不自然でしょ? 多分何かが飛び出してくるから注意して」


 私が指差した次の瞬間にカーテンが開き、ボロボロの入院着を着たゾンビが飛び出してきた。


「おわっ!」


 私が先に言ったのに、陽太が驚きの声を上げる。


 姫川は、声すら出ない様子で固まっていた。


 せっかく先回りして指摘したんだから「あ、本当だ……」とか、もう少し冷静に反応してくれても良いのに。


 でも、陽太に抱きつくほどのパニックには陥っていない。つまり、私の作戦がうまくいっているということだろう。


 ……よし、いい感じ。この調子で全部潰していけば陽太を守れる!


 私は次々と現れる怪しげなポイントを見つけては、脳をフル回転させて先回りし、予測を付けていった。


「次の角、多分大きな音が鳴るかも」


「そこの壁……切れ込みがあるから、何か出てきそう」


 私の予測はことごとく的中し、姫川も「上原さん、すごいね……これならなんとか耐えられそう」と余裕が出始めていた。


「なんか、冬華がイケメンに見えてきたぞ……」


 そして陽太の好感度も上がっている。


 よし、勝った!


 かなり進んで来たし、そろそろお化け屋敷も終わるはずだろう。


 このまま何事もなく、出口まで行けば陽太を守りきれる!


 そう確信した、その時だった。


 ――ドンッ!!


 背後で、扉が閉まる重い音がした。


 私たちは、狭い手術室のような部屋に閉じ込められてしまったのだ。

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