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いつも優しい冬華が、叩き出した辛口採点に俺は血反吐が出そうになった。
オマケに目から汁が出そうだ。
「当たり前でしょ。姫川さんはともかく、私のことはもっと具体的に褒めちぎらないとダメじゃない?」
冬華はプイッと顔を背けてしまったが、耳が少し赤くなっている。
ああ、これは……たまに見せる照れ隠しか。嫌われたのかと思って一瞬焦ったぞ。
今日の冬華は、すごく大人っぽい格好だ。本人は相当な気合を入れて来たんだろう。
だからこそ、俺からの言葉を欲しがっている……そのはずだ。
「冬華……ごめん。そのスカートとブラウスの色、冬華の雰囲気に合ってると思う。それと髪型もいつもと違うよな。大人っぽくて綺麗だと思う、ぞ」
よしっ、かなり具体的に言えたはず。
これならどうだ?
「ふーん……綺麗、ね。模範解答とはほど遠いけど、ギリギリ合格ってことにしてあげる」
冬華は口元を少しだけ緩めて、嬉しそうに呟いた。
「一応、模範解答聞いても良いか?」
「そうね……『女神よりかわいいぞ、結婚してくれ』とか『最高って言葉はお前のためにある、同じ墓に入ってくれ』あたりかしら」
「正解、難しすぎないか…………」
それ褒めてるって言うより、もうプロポーズじゃん。
俺たち、まだ付き合っても無いのにいきなりプロポーズはやり過ぎだろ。
「そのうち授業で習うはずだから、今の内に予習しておけて良かったじゃない」
「いや、俺たちの学校って、どんだけ狂ってるんだよ……」
その一連のやり取りを見ていた姫川さんが、目を丸くして口を挟んだ。
「え、すご……漫才みたいなんだけど」
「えっ? な、なんか言った?」
「ううん、なんでもない。上原さんって、藍沢くんの前だとそんな感じなんだね~って」
姫川さんの視線が、俺と冬華を交互に行き交う。
その目は笑っているように見えるのに、どこか冷静な感じがして。まるで俺たちの距離感を測っているみたいに見える……多分、俺の気のせいだろうけど。
「なんか……私が知らない上原さんが見れて、新鮮かも」
その言葉に、冬華の肩がピクリと動いた。
こんなに和やかな空気なのに、おかしいかもしれない。
ほんの一瞬だけど、冬華からピリッとした緊張感が走った気がした。
◆
遊園地のゲートをくぐった瞬間、広がっているのは非日常な空間だ。
俺たちを歓迎するかのような、楽しさを演出するための陽気なBGM。
遠くの絶叫マシンから時折聞こえる、悲鳴のような歓声。
そして風に乗って漂ってくる、甘いキャラメルの香り。これは多分、ポップコーンだろう。
この全てが遊園地に来たというワクワクを掻き立てる。
「……遊園地か。久しぶりだな!」
ゴールデンウィークの遊園地はとにかく人が多い。家族連れやカップル、仲良しグループで賑わっている。
そんな人混みの中でも、俺たちのグループは埋もれずに目立っていた――それは、俺と一緒に来ていた女子2人のせいだ。
「わあ、すごい人! でも、すっごくワクワクするね!」
姫川さんは人混みをものともせず、ぴょんぴょん跳ねるように走りだして喜んでいる。
無邪気な姿と対照的に、ショートパンツとスニーカーの間に見える健康的な足の魔力がヤバい。だが、直接的に見すぎるわけにもいかない。
視線がいかないように脳を制御するのにやたら苦労してしまう。
姫川さんのキラキラ感は、すれ違った男子たちが振り返るほどだ。
なんといっても彼女はかわいい。俺も男だし、振り返る男子たちの気持ちは痛いほど分かる。
「陽太、人が多いからはぐれないように気をつけてね。でも、迷子になったら放送で呼び出してもらうから安心して」
「俺、おこちゃまじゃないから大丈夫だって……。冬華こそ、迷子にならないようにしろよ。まあ、はぐれたらお互いに連絡し合えばいいだけなんだけど」
「……でも放送で陽太を呼び出すのも楽しそうだけどね『16歳の藍沢陽太くんが迷子になっています。特徴はこれといって無いのが特徴です』……とか。どう?」
「なんの罰ゲームだよ、ていうか俺の特徴悲しすぎない?」
「ふふ。お互いはぐれないようにしようね」
冬華は少し楽しそうに、俺の袖をちょこんと掴んでくる。
たったそれだけのことで、俺の心臓が妙に小躍りしてしまう。
今日の冬華は大人っぽいロングスカートに、少し高さのあるヒール。どう考えても、動きやすさよりもかわいさにステータスを全て割り振っている。
そのせいか、普段の冬華よりも数割増しでかわいく見える。これで平常心を保つほうが難しいだろ。
「さーて、まずは何に乗ろうか? ジェットコースター? それともフリーフォール?」
姫川さんが持っていたパンフレットを広げて見せてくる。
この辺にジェットコースターがあって……とか勧めてくるが――
「そうだな……いきなりハードなのは避けたいかな。初めは軽く行こうぜ。コーヒーカップとかどうだ?」
「うん、いいね。最初はそのくらいが丁度いいかな」
「えー、コーヒーカップって地味じゃない? ん~……まあ、いっか! 3人で乗れるし!」
姫川さんも賛成してくれたところで、俺たちはメルヘンチックな巨大なティーカップに乗り込んだ。
円形の座席には姫川さん、俺、冬華の順に座る。もっと均等に座ればいいのに、なぜか1箇所に固まって座る形になった。
うーん……2人ともやけに近い。
バランスを考えたら、もっと均等に座ったほうがいいと思うんだが。なぜそんなに密着するんだろう?
2人の肩が、俺の肩と触れそうなくらいに近いんだけど。
「それじゃあ、回すよー! しっかり掴まっててね!」
開始のブザーが鳴り、警戒な音楽とともにカップがゆっくりと動き出す。
うん、うん。このくらいまったりしたアトラクションから乗るべきだよな。と思いきや、姫川さんがカップのハンドルを全力で回し始めた。
「ちょ、姫川さん!? それ、回しすぎじゃね?」
「あはは! コーヒーカップはね、ジェットコースター並に激しい乗り物なんだよ!」
「きゃっ……! ちょっと、早いっ!」
コーヒーカップってもっと……おっとりして平和的な乗り物だったはず。
なんじゃ、この危険な乗り物は! 遠心力で身体が外側に持っていかれる!
ハンドルにしがみついていないと、どうにかなりそうだ!
冬華が小さい悲鳴を上げて、俺の腕にしがみついてくる。
「陽太っ、助けて。これ、止めて!」
「俺だって止めたいけど、姫川さんが暴走しててっ!」
「まだまだ回すよ~! ほらほら藍沢くん、顔青いよ~?」
「ちょ……姫川さん? それ以上はヤバいって」
グルグルと回る世界の中で、姫川さんの無邪気な笑い声と、冬華の体温と、俺の吐き気が3つ巴の争いを繰り広げる。
どんどん加速するカップに、冬華と密着できて嬉しいとか考える余裕もない。この状況はヤバい!
ほんとに気持ち悪い。姫川さんの無邪気な笑顔が悪魔みたいに見える。
はたから見たら、俺は両手に花の羨ましい状況に見えるだろう。だけど持っているのは花じゃない。モンスターだ!




