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「陽太。帰ろ」
「お、おう」
放課後になり、いつもの様に冬華が笑顔で話しかけてくる。
もう4月も終わりそうになっている。
あと数日でゴールデンウィークだ。
入学したばかりだと思っていたけど、そろそろ一ヶ月経つらしい。
「どうしたの陽太? 今日は静かだね。具合でも悪い?」
「あ、いや……なんでもない。ちょっと考え事してて」
「そう? 悩んでるなら相談のるから、遠慮しないで言ってね」
「おお、ありがとう……」
何のことはない。
俺は……姫川さんに付き合ってるか聞かれて、冬華を意識してしまっているだけだ。
『2人って、もしかして付き合ってるの?』
姫川さんの言葉が、山彦みたいにリフレインしてしまう。
その度に冬華のことを直視できない自分がいる。
全然具合なんて悪くないんだ。ただ心臓が言うことを聞かないだけで。
少し歩いたところで、俺は心を決めて冬華に話を切り出した。
◆
(冬華視点)
「なあ、冬華……」
いつもの様に並んで歩いていると、陽太が神妙な雰囲気で話を切り出してきた。
「ん、なに?」
「ゴールデンウィーク……予定あるか?」
「え?」
もしかして、私を誘ってる?
突然の話に、思わず足が止まってしまう。
「ゴールデンウィーク……?」
最近、陽太の考えが全然読めない。ゲームとループの知識が通じない。
今回の陽太は、今までのループで見てきたどんな陽太とも違う。
こんな時にセーブ能力が使えないなんて……
以前のように攻めて攻めるやり方は、やり直し能力ありきの捨て身の作戦なわけで……
能力が使えなくなったと分かってからの私は、少し慎重に動くか悩んでいたのだけど。
「ああ。連休になるわけだし……せっかくだから、どこか行かないかって」
ちょっとまって……
これって……デートの誘いじゃない!?
この時期にデートなんて、ゲームイベントにも無いんだけど……でもチャンスなのは間違いない。
もしかして、私がシナリオ全無視して本気で動いた影響?
ゲーム自体のシナリオが変わってきているのかも。
「陽太……本当?」
「もちろん。嫌じゃなければだけど」
「……嫌なわけないよ」
だってこれは、好感度を稼げるチャンスだから。
こうやって好感度を積み上げていけば、12月の告白イベントは今度こそ成功するはず。
「それで……どこにいく予定なの?」
「遊園地とか、どうかなって思うんだけど」
「遊園地……いい! 楽しそう。行ってみたい」
陽太が誘ってくれた初めてのデート。しかも遊園地なんてデート場所として完璧だ。
高鳴るテンションに、声が思ったより弾んでいた。
「そっか、実はさ」
「うん、なあに?」
「姫川さんが……3人で出かけたいって言ってて」
「……えっと、姫川さん? 3人……?」
うそっ——2人じゃないの?
「ああ。今日姫川さんと話してたらさ――」
陽太の話が、頭に入ってこない。
せっかく順調だと思っていたのに、今になって姫川が——主人公が、攻めてきたってこと?
原作には、どういうルートを辿ってもこんなイベントなんてなかった。
主人公がモブを倒しにくるって、どういうこと?
こんなの聞いてない。世界が強制的に軌道修正をかけてきた?
それとも、他に何か要因が?
「――それでさ。姫川さんが『チケット3枚もらったから、みんなで行かない?』って誘ってくれたんだ」
「……そう、なんだ」
「あれ、どうした冬華? もし無理なら、この話は断るけど」
「…………」
私が断れば陽太は……姫川と2人で出かけてしまうんじゃないだろうか?
チケットは既にあるわけだし、あの姫川ならそのくらい平気でやってのけそうだ。
――だめだ、絶対に断れない。
陽太と姫川を2人きりにさせたら……また陽太を取られてしまう。
今、すごく良い感じなのに。
このタイミングで陽太を取られるわけにはいかない。
「ううん……大丈夫。3人でもいいよ。みんなで一緒に行こう」
やっぱり、全力で陽太を攻略しないと……
◆
空は澄みきっていて、気持ちがいい。こういうのを行楽日和っていうんだろうな。
「今日は楽しくなりそうだな」
ウキウキした気持ちで待ち合わせ場所まで行くと、既に2人が待っていた。
「藍沢く〜ん、こっちこっち!」
嘘だろ……まだ集合15分前なんだけど。
「おはよ、陽太」
「藍沢くん、今日はよろしくね!」
「ああ、おはよう。ていうより、2人とも早くない?」
それに2人とも学校で見るのと雰囲気が違う。
冬華は淡いラベンダー色のブラウスとフレアスカートという組合せで、髪も緩く巻いてある。何というか……すごく大人っぽい。
雑誌のモデルです、と言われたら普通に信じてしまいそうだ。
姫川さんは逆に、年相応の健康的な感じを全開に押し出している感じだ。
ショートパンツに少し大きめのパーカーとスニーカー。動きやすそうな格好だが、スラリと伸びた足が眩しい。
しかし、2人の対比がすごいな。クールビューティーな冬華と、元気系美少女の姫川さん。系統はまったく違うけど、どちらもめちゃくちゃかわいい。
この2人が――クラスのツートップが並ぶと絵面のパワーが強くて嫌でも目立つ。
さっきから、道を通る人たちの視線が自然と集まってしまっているくらいだ。
「遊園地、楽しみだね!」
「ああ、姫川さんは張り切ってるな」
「ほらほら藍沢くん。私たちの服についてどう思うか言わなきゃ!」
「……えっと、2人とも、いつもと雰囲気が違うな」
姫川さんとその横で無言の圧をかけてくる冬華に圧倒されて、辿々しく情けない言葉しか出ない。
すると、姫川さんが不満げに頬を膨らませる。
「むー、違うでしょ藍沢くん。そこは『今日の服、可愛いね』って言うところでしょ?」
「えっ…ああ、ごめん。その、2人ともすごく良いんじゃないかな?」
「えへへ、ありがと。藍沢くんに褒められると、なんか嬉しいな!」
なんとも抽象的な褒め方だったけど、姫川さんは、ぱあ〜っと明るい笑顔で喜んでくれた。
美少女の素直な反応に思わずドキッとしてしまうが、隣の冬華はと言うと、ジト目を俺に向けていた。
「……陽太」
「ん、どうした冬華?」
「褒めようとする姿勢は評価してあげるけど……残念だけど0点!」
「れ、0点……!?」




