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やり始めて気がついたけど、2人でやると必然的に隣に座る感じになってしまう。
プリクラの件もあってか、変に冬華を意識してしまう。
「ここからメダルいれるの?」
「そうそう、ゆっくりでいいから」
冬華の一投目は、脇にそれていってしまい他のメダルに重なってしまった。
「あ……やっちゃった?」
「全然へいき。そんなのよくあるって。気にせずじゃんじゃんやってみよう」
何回かメダルを落とすとついにスロットが回った。
「見て陽太! 入ったよ!」
「いいね、やるじゃん!」
あの冬華が、まるで子供みたいな感じで無邪気にはしゃいでいる。
メダルを投入するのも忘れて、スロットに見入っている。
いつもの落ち着いた雰囲気じゃなくて、年相応の少女みたいに屈託のない笑顔だった。
「あ……外れた」
「はは、そう簡単に揃わないって」
「でも、楽しいかも……」
そう言って冬華は次のメダルを手に取った。
その後も、俺たちは夢中でメダルを投入していった。
スロットが揃ってメダルが増えたり、全然狙いが定まらなくて減ったりを繰り返して。
その度に俺たちは一喜一憂しながら。楽しい時間だったけど、気がつけばあっという間にメダルは無くなっていた。
「全部、なくなっちゃったね……」
冬華が名残惜しそうに、空になったカップに視線を送る。
それだけ冬華も楽しんでくれたってことだろう。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「そうだね。あの……その、陽太」
「うん。どうした?」
「……ゲーセン、誘ってくれてありがとう」
「いや、俺も楽しかったし。そこは気にすんなって」
それは嘘じゃない。冬華の新しい一面を見れて、楽しかった。
「うん……」
冬華は少し照れたように笑って、出口に向かって歩き始めた。
その背中を見ながら、俺は気づいてしまった。
ゲームより、冬華の方が、ずっと予測不能で目が離せなかったことに。
◆
授業が終わった休み時間のことだった。
トイレに行った帰りに、俺は手を拭きながら廊下を歩いていた時。
「藍沢くん、ちょっといいかな?」
突然、名前を呼ばれて振り返ると、そこには姫川さんが立っていた。
明るくて美人で、いつのまにかクラスの中心的な人物になっていた女子――姫川重音さん。
姫川さんとは少し話をしたことがあるが、こうやってまともに話すのは初めてかも知れない。
肩まで伸びた明るい色の髪を軽く揺らしながら、クラスでよく見かけるいつも通りの、柔らかい笑顔で近寄ってくる。
「ずっと藍沢くんに話しかけようと思ってたんだけど、タイミングが合わなくてさ!」
「えっ……タイミング?」
「そ……タイミング!」
……どういうことだ?
俺と話するのにタイミングなんて必要か?
普通に話しかけてくれば済む話だと思うけど。
「うん、こっちの話だから、気にしないで」
「……そうか」
なんか……変に含みのある言い方だな。
「あのね。藍沢くんって、上原さんとすっごく仲いいよね?」
「え? あ、ああ……まあ良い方だけど」
出会って間もないけど、冬華とは一緒に帰ったり、昼寝を食べたりする仲だ。
仲が良い方どころじゃなくて、間違いなく仲が良い。
だけど、自分で認めるのも恥ずかしいので、はぐらかす感じになってしまったのは勘弁して欲しい。
「ふふ、やっぱり。クラスのみんなも噂してるよ~」
噂になるだろうとは思っていたし、そこはもう諦めてるというか。まあ、そうだろうなというか……
「2人って、もしかして付き合ってるの?」
「……は?」
付き合う? 俺と冬華が?
「い、いや。付き合ってないよ。ただの友達だって」
たしかに冬華とは気も合うし、かわいいし、料理も上手で。ただ……俺たちはそこまでの仲じゃない。今のところ、ただの友人だ。
——違う。
否定はしたけど、付き合えたら最高かも知れないと思っている。それが高望みだってこともわかってるけど。
「ふーん、そっかあ。付き合ってないんだ~。まあ、違うならいいんだけどね」
何が良いのか分からないけど、姫川さんは納得したような、安堵したような感じで頷く。
「なんか藍沢くんたちの雰囲気って、それっぽいんだよね」
「それっぽい雰囲気って……曖昧な表現だな」
「知ってる? 上原さん、藍沢くんと話す時が1番楽しそうなんだよ?」
「それは……仲が良いからじゃないのか?」
「それに藍沢くんも……上原さんの話する時、ちょっと嬉しそうだけど?」
「いや、だから……それも仲が良いからで」
待てよ。俺って、嬉しそうにしてるのか?
もしかして顔に出てるのか?
「じゃあ、まだ間に合うってことかな?」
「間に合う……?」
「私もね、上原さんと仲良くなりたいなって、思ってるの……」
「おお……そうか」
変な勘繰りをしてしまったけど、女子として冬華と友だちになりたいって……そういうやつか。
付き合ってるのかとか聞いてくるから、なんか不穏な話かと思った。
「上原さんと話そうとしてるんだけど、彼女に避けられてるみたいでさ」
「それは気のせいじゃないか?」
あの冬華が、人を避けるとかあるんだろうか?
あんまり想像がつかないな。
「それにね。藍沢くんとも仲良くなりたい、っていうのもあるんだ……って言ったら信じる?」
「面白い冗談だな……」
そういう笑顔で言われると、マジで驚くからヤメてくれ。
なにせ姫川さんはクラスで1,2を争う美人だからな。そんな上目遣いで言われたら、ほとんどの男子は勘違いするレベルだって。
「でも、藍沢くんは上原さんと仲良いよね。ちょっと協力して欲しいの」
「ああ、良いけど……で、協力ってなにすればいいんだ?」
「うん、実はね――」




