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「陽太……急に呼び出して、ごめん」
この季節にしては珍しく風が穏やかな日だった。
放課後の屋上でフェンス越しの街を見ながら、俺――藍沢陽太はどうして呼び出されたのか理由を考えていた。
「ああ、いいって。それより冬華、急にどうした?」
どういうわけか、呼び出した張本人――上原冬華の横顔は妙に緊張しているようで、問いかけには答えずになぜか少し黙ってしまう。
艶のあるストレートな髪、スカートから覗くスラリと伸びた足。
凛とした大人びた印象と相まって、かわいいと言うよりも美人系の女子だ。
俺にとっては、仲の良い友人でもある彼女なのだが――何の用なんだろうか。わざわざ屋上じゃなくても、話なら教室だってメッセージでも良いと思うけど。
「ねえ……陽太」
「ん? どうした?」
冬華は俺の名前を呼ぶけど、その後が続かない。
いつもは俺の都合なんて気にしないでグイグイ来るくせに、今日の冬華はどこかためらっているというか……なんか変だな。
「あの……私、陽太のことが……好きです。付き合ってください」
……マジか。
ああ……そっか。そう、なんだ。
わりぃ。だけど、俺さ――実は。
「……ごめん。俺、冬華とは付き合えない。他に好きな人がいるから」
その瞬間、冬華の顔からサアっと表情が消えた。
さっきまで少女漫画の主人公みたいなキラキラした感じだったのに、今は氷の令嬢みたいに無表情になった。
「え……また……? 私たち、また結ばれないの?」
「また……ってなんだ?」
「なんで? イベントは全部こなしたじゃん。どうしてフラグが立たないのよ!」
「ちょっと……おい、冬華どうした?」
突然意味のわからないことをまくしたてるなよ。
あれか? 告白を断ったから、ショックでおかしくなったのか?
「やっぱり私がモブだから、メインヒロインに勝てないってこと? それとも、デートの選択肢が間違ってた? あの時、ショッピングモールで普通に買い物しただけじゃ……だめってこと? もっと積極的にいかないとフラグが発生しない?」
「お、おい大丈夫か。冬華? 落ち着けって……」
「これじゃ……だめなんだ。まだ足りないんだ。もう1回、あのイベントをやり直さないと——」
冬華の雰囲気は、失恋によるショックで取り乱している感じじゃなさそうだ。
なにか分析めいたことを言っているけど……残念ながら、言っている内容はサッパリ分からない。
イベントって何の話だよ?
混乱しているというよりも……何かに執着しているような、鬼気迫るものがあって俺なんて見えていないみたいだった。
「なあ冬華、マジでどうしたんだよ?」
冬華は俺の話を完全に無視して、指揮者みたいな感じで空中で指を動かしている。
「システムコマンド・ファイル1・ロード」
普段の冬華なら、絶対に言わないような言葉だった。
何かの決まり文句みたいに、感情のない声でそれを口にした瞬間――俺の意識は途絶えた。




