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三題噺もどき5

美術

作者: 狐彪
掲載日:2026/02/26

三題噺もどき―はっぴゃくさんじゅうに。

 




 白いプラスチックのパレットの上に、絵具を出す。

「……」

 と、出したはいいモノの、どうしようかと手が止まる。

 いや、塗るものは目の前に紙があるし、筆ももう既に手に持っている。

 後はこれを軽く濡らして、滲ませながら色を塗っていく。

 そういう技法を勉強しようと言う授業だから。

「……」

 開けられた窓から、外の空気が入ってくる。

 美術室に籠っていた独特な香りはいつの間にか消え、どこか爽やかにさえ感じる空気が室内を満たしていた。

 その中で、10人ほどの生徒が、机に座り、筆を持っている。

「……」

 黒板には、こうしてやるのだと技法の説明が書かれている。

 それを、実際にやってみようと言う……ことだと言うのは、先も言ったのだけど。

 手が止まる。

「……」

 描いている絵そのものは、それぞれ違う。

 空を描いていたり、建物を描いていたり、花を描いていたり。ゲームのある場面を描いている人も居る。この辺りはまぁ、好きにしなさいという事だったので。

 私は、向日葵と百合の花を描いていた。

「……」

 黄色と、白。

 向日葵と、百合。

 あの子が好きな花と。

「……」

 背景は、真黒にしようと思ったのだけど、教師にNoを言われたので、水色にした。

 何がいけないのかは知らない。黒でも、別に、花の色をにじませればいいだけなのに。

 面倒なこった。

「……」

 もう既に、私の思い通りの物ではないので、やる気は割とない。

 ただでさえ、水彩というモノが少々苦手なのだ。見る分には柔らかで、暖かで、いいと思うのだけど、いざ自分で描くとなると、また違う。

「……」

 塗るのなら、こう、ぱきっとした方が得意というか……以前中学でアクリル絵の具を使って、絵を描いたのだけど、それが結構ハマったので、やるならそっちの方がいい。中央線を使って階段みたいなものを描いたのだけど、全部原色のままで描いて、割といい評価を貰ったのだ。あの絵は気に入っている。……私の手元に返ってこなかったけど。

「……」

 色を混ぜたりするのも上手く行かないので、できればそのままの色で行きたいし……でもそれはだめだと言われたし。

 めんどくさくなってきたな。

「……」

 まぁでもこれが終われば油絵だと言っていたし。

 同じモチーフで、自分の思うように描けばいいし。

 描いて提出しない限り、成績がつかないので、描かないといけないのだけど。

「……、」

 もう1色、絵具を出す。

 うにょ、と狭い小部屋に出てくる。

 背景は以前の授業で塗りきっているので、主役を塗るのだけど。

 色を混ぜないといけないと言うのが、面倒なんだが……。

「……」

 まぁ、向日葵も黄色一色に塗るわけではないし。

 適当に、白を混ぜたりしていけばいいか。

「……」

 回りはすでに手を動かし始めている。

 迷いがなくて羨ましい……どうしても手が止まるし、やる気が出ない。

 ほんとに、手が動かない。めんどくさい。

「……大丈夫か?」

「あ、はい、大丈夫です」

 何かを見かねたのか、いつの間にか近くにいた教師から声がかけられた。

 まずそもそも、お前がNoをしたくせに、何を今更。

 いっそ上から黒で塗りつぶしてやろうかな。

「何かあったら言いなさいね」

「はい」

 これ以上目を付けられるのも面倒なので、さっさと手を動かすとしよう。

 もう、無心で描いていればなんとかなるだろう。

 自分の意思ではない、他人の意志が噛んだものなんて描きたくもないが。

「……、」

 何故か口内に血の混じるような匂いがした。

 無意識に唇を噛む癖を何とかしないとなぁ。











 お題:水彩・ゲーム・噛む

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