美術
三題噺もどき―はっぴゃくさんじゅうに。
白いプラスチックのパレットの上に、絵具を出す。
「……」
と、出したはいいモノの、どうしようかと手が止まる。
いや、塗るものは目の前に紙があるし、筆ももう既に手に持っている。
後はこれを軽く濡らして、滲ませながら色を塗っていく。
そういう技法を勉強しようと言う授業だから。
「……」
開けられた窓から、外の空気が入ってくる。
美術室に籠っていた独特な香りはいつの間にか消え、どこか爽やかにさえ感じる空気が室内を満たしていた。
その中で、10人ほどの生徒が、机に座り、筆を持っている。
「……」
黒板には、こうしてやるのだと技法の説明が書かれている。
それを、実際にやってみようと言う……ことだと言うのは、先も言ったのだけど。
手が止まる。
「……」
描いている絵そのものは、それぞれ違う。
空を描いていたり、建物を描いていたり、花を描いていたり。ゲームのある場面を描いている人も居る。この辺りはまぁ、好きにしなさいという事だったので。
私は、向日葵と百合の花を描いていた。
「……」
黄色と、白。
向日葵と、百合。
あの子が好きな花と。
「……」
背景は、真黒にしようと思ったのだけど、教師にNoを言われたので、水色にした。
何がいけないのかは知らない。黒でも、別に、花の色をにじませればいいだけなのに。
面倒なこった。
「……」
もう既に、私の思い通りの物ではないので、やる気は割とない。
ただでさえ、水彩というモノが少々苦手なのだ。見る分には柔らかで、暖かで、いいと思うのだけど、いざ自分で描くとなると、また違う。
「……」
塗るのなら、こう、ぱきっとした方が得意というか……以前中学でアクリル絵の具を使って、絵を描いたのだけど、それが結構ハマったので、やるならそっちの方がいい。中央線を使って階段みたいなものを描いたのだけど、全部原色のままで描いて、割といい評価を貰ったのだ。あの絵は気に入っている。……私の手元に返ってこなかったけど。
「……」
色を混ぜたりするのも上手く行かないので、できればそのままの色で行きたいし……でもそれはだめだと言われたし。
めんどくさくなってきたな。
「……」
まぁでもこれが終われば油絵だと言っていたし。
同じモチーフで、自分の思うように描けばいいし。
描いて提出しない限り、成績がつかないので、描かないといけないのだけど。
「……、」
もう1色、絵具を出す。
うにょ、と狭い小部屋に出てくる。
背景は以前の授業で塗りきっているので、主役を塗るのだけど。
色を混ぜないといけないと言うのが、面倒なんだが……。
「……」
まぁ、向日葵も黄色一色に塗るわけではないし。
適当に、白を混ぜたりしていけばいいか。
「……」
回りはすでに手を動かし始めている。
迷いがなくて羨ましい……どうしても手が止まるし、やる気が出ない。
ほんとに、手が動かない。めんどくさい。
「……大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です」
何かを見かねたのか、いつの間にか近くにいた教師から声がかけられた。
まずそもそも、お前がNoをしたくせに、何を今更。
いっそ上から黒で塗りつぶしてやろうかな。
「何かあったら言いなさいね」
「はい」
これ以上目を付けられるのも面倒なので、さっさと手を動かすとしよう。
もう、無心で描いていればなんとかなるだろう。
自分の意思ではない、他人の意志が噛んだものなんて描きたくもないが。
「……、」
何故か口内に血の混じるような匂いがした。
無意識に唇を噛む癖を何とかしないとなぁ。
お題:水彩・ゲーム・噛む




