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始まりの絶望

気持ちのいい朝日が照らすある日、西野翔は幼馴染で最近付き合い始めた斉藤野乃花と通学路を歩いていた。


「翔~?おいてくよ?」


そう言って手を引っ張る野乃花に微笑みかけ、


「待ってくれよ…」


翔と野乃花は、共に走り出した。


教室に着くとすぐに、小学校からの友達である、大雅、圭太、歩夢の三人に話しかけられた。


「また手をつないで登校か?イチャイチャしててうらやましいよ…」


「そうだぞ。見せつけるように登校しやがって…歩夢もなんか言ってやれよ」


「いや…俺は別にいいと思うぞ」


「お前彼女いるからってそれはないだろ⁉」


「今それ関係ないから」


にぎやかな奴らだ。

でも憎めない良い友達なんだけどな。


「はいはい~チャイムなるから早く座って」


我らが2年3組の担任、大塚先生が言う。


朝礼が終わり、1限の授業が始まる。

早く終わってくれないかなと祈りながら授業を受ける。


すると突然、頭がくらくらして倒れそうになった。


「翔君、大丈夫ですか?」


「大丈夫です、いつもの貧血ですよ。少し保健室に行って来てもいいですか?」


「ええ、構いません。途中で倒れないように」


時々、こんな感じで頭がくらくらすることがある。

医師いわく、貧血になりやすい体質なんだとか。


保健室で少し休んだ後、楽になったため教室に戻る。

もう休み時間のようだ。


「おっ、貧血中二病のお帰りだ」


毎回、貧血になると圭太に煽られる。


「貧血になったことないからいえるんだよ。普通に辛いんだぜ」


「大丈夫だった、翔?」


野乃花に慰められる。ありがとう野乃花。


そんな時だった。


あたりが突如として光りだし、そのまま教室中が光に飲み込まれた。


気が付くとそこは、まったく見たことがない宮殿の中だった。

飛ばされた生徒の中でどよめきが広がる。


「翔、ここどこだか分かる?」


「俺にもわからない。どこなんだこの宮殿は?」


後ろから聞き覚えのない男の声が聞こえる。


「ようこそお越しくださいました、異世界からの来訪者様。どうか我が国をお救い下さい」


深々と頭を下げたその男は、自身をアレスター帝国属サヴァニー王国国王、アレク・サヴァニーだと名乗った。

その隣には顔の整った美女が立っており、国王の娘、イリス・サヴァニーだと名乗った。


国王によるとこの国は、他国との内乱や魔物、魔王軍との戦いで消耗しきっており、

異世界からくる来訪者のスキルに命運を任せたらしい。


「あなた方には、魔王の討伐を依頼したいのです。なにせ帝国軍ですら魔王には敵わず、三度の襲撃に合い、いくつかの国が消滅していますから」


「私の力では、呼び出すので手一杯で、あなた方は元の世界に帰ることができないのです。どうかそのお力を我が国に貸してはくれないでしょうか?」


「俺たちはもう元の世界に帰ることはできないのか?」


クラスの代表である、草薙が国王に問う。


「いえ、私たち人間の魔術では、異世界から無理やり呼び出すことはできても、帰るための場所と門が作れず、帰ることはできません。ですが、魔王が使う禁術では帰ることができるかもしれません」


「ここはクラスのみんなで話し合った方がいいと思う。少し待って頂けますか?」


「もちろんだ。いくらでも待とう」


草薙がクラスを集める。

まずこれが現実の話なのか、ドッキリなどではないのか、本当だったとして魔王と戦うのか。

現実を受け止めきれない人も多く、話は続いた。

おそらく30分ほどはクラスで喋ったと思う。


なかなか話がまとまらない中、姫イリスが話に入ってきた。

彼女の話はとても理想的で、聞き入ってしまうようなものだった。

まるで魅惑のスキルでも働いているかのような。


彼女の話を聞き終わったころには全員が戦いを決意していた。


国王はこの決定にとても感謝しており、ひとまずは休憩ということになった。


この間にステータスと呼ばれるものを各自確認していた。


ステータス:西野翔

HP 120/120

AT 21/21

MP 432/432

スキル 不滅(効果:必ず負けない)*常時発動中*


一般人が100、20、100ほどらしいのでMPだけは多いのだろう。

スキルは説明だけではよく分からないが、多分強いのだと思う。


「俺HP3012あるんだけど⁉みんな低くない?」


「僕はMP5809あるし、ATも320あるよ」


「私はスキルブラックホールなんだけど、これ絶対強いよね?」


少し自信を無くしてきた。

クラスのみんながステータスを見合っているなか、翔に頭痛が襲う。


「うぅ、痛い」


「大丈夫ですか?」


姫イリスが翔に聞く。


「ええ、少しトイレに行かせてもらえないでしょうか?」


「もちろん。道わからないと思うので、ついていきますね」


「ありがとうございます」


翔は宮殿の大広間を出て、姫につれられるままトイレに向かった。


「翔、大丈夫かな?」


野乃花がつぶやく。



王の間を出て、廊下を姫と共に歩く。

以前は活気あふれる街だったことが見て分かるほど、城は雄大で華麗なものだった。


「翔さんはステータスどうでした?」


「あんまり良くないみたいだ。周りの奴らが良すぎるだけかもしれないけど」


「チッ。」


「何か言った?」


「いえ。何も。大丈夫ですよ。戦闘に向かない人は別の職につくこともできるんですよ」


「なるほどなあ」


他愛のない会話が続いた。


「ここです」


姫アリスが立ち止まり、言う。


「ありがとう」


「いえいえ。先に戻っていますから、ゆっくりしていってください」


ガチャ。

トイレの個室に入り、心と体を落ち着かせる。


「ふぅ~。落ち着いてきた」

「あの姫。俺のステータス聞いたとき、舌打ちして無かったか?」


個室を出て、窓を眺めたそんなときだった。


ピカッ…………ドォォォォォォォォオン


目の前一面に閃光が走り、目を瞑ったその瞬間、後ろから猛烈な爆風が吹いた。


「なにが起こったっ?」


急いで王の間に戻る。




「は?」


扉が吹き飛ばされており、廊下に物が散乱していた。


近づくとそこには、肉片が。腕だと思う。


腕の下には無残に吹き飛ばされ、脳が露出した頭が転がっていた。


翔はその頭部が野乃花のものであることを悟った。だが肯定したくなかった。


何も考えず、間を覗く


間には大きな穴が空いており、残った床には肉片や骨、壁中に誰かの血がべったりとついている。


ここで翔の意識が途切れる。


ただし、翔は倒れない。それだけでなく、動き出す。


地獄絵図の間に入る。


進む。


誰かの耳を踏み潰す。


靴に血がにじむ。


進む。


虚ろな目をしている顔を蹴り飛ばす。


ズボンに血が跳ねる。


進む。


誰かの荒い息遣いが聞こえる。


首のない王の横で、右手から右腕のない姫が悶えていた。


姫にはまだ意識がある。


必死に翔に助けを求める。


「お願いッ。たすげて」


意識を失っている翔には届かない。


カチャカチャッ


翔がズボンを下す。


「は?なにしてんの?いやッ。早くしまってよ!!まだしたことないのッ。ねぇ!!。いやぁーー!!」




翔の意識が戻る。


「ここは?」


翔の脳内に、さっきの記憶が鮮明に蘇る


「オヴェッ」


野乃花の頭部。誰かの耳を踏み潰す。血で染まった壁。顔を蹴り飛ばす。

そして、姫を無理やりした記憶。


そのすべてが翔にとってナイフのように心に突き刺さる。




「野乃花ッ」


何度嗚咽し、吐き出したことだろう。


20分ほど経っただろうか。


落ち着きを取り戻した翔はあたりを見渡す。


ここが宮殿近くの城下町であることを知る。


そして翔の横には、時が止まったように動かない姫イリスの姿が。


右肩からの出血は止まり、空虚な顔でそこに座っている。


彼女に何をしてあげたら良いか。いや違うな。彼女にどう許してもらうか。

いつまで行っても俺は自分本位だ。


どこからか獣のようなうなり声が大量に聞こえてきた。


ここにいては危ない。直感でそう感じた。


思考を放棄する彼女を連れて、翔は町をひっそりと抜け出す。


抜け出す途中、無残に壊された町をみた。


周りには魔物がうろついている。


あの光の攻撃も魔物によるものだろう……。


「ゔッ」


再び翔に吐き気が襲う。


思い出したのが悪かった。翔は考えることをやめた。




町を抜け、森に逃げるように入る。


この森は、危険性が少ないと王に言われたことを思い出す。


「今日はここで野宿か」


姫を横にし、集めた枝に魔法で火を付ける。


「初級の火炎魔法程度なら今の俺にも使えるのか」


一息をつき、こらえ続けた吐き気を解放する。


涙が止まらない。


翔は1時間ほど喚き散らし、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。




物音で翔は目を覚ました。


目の前には大きな石を振りかぶる姫イリス。


「は?」


必死に翔は避けようと動くが、石が肩に命中する。

バギャッと音を立て、翔の肩から血があふれ出す。


「んぎッ!!」


「このゴミ。何避けてるの?殺せないじゃない」


「昨日は本当に悪かったッ。すまない。許してくれ!」


「だから何?それで私の初めてが帰ってくるの?あのおぞましい状況で。頭おかしいと思わないの?」


翔を頭痛が襲う


「うぅ。頭が…」


「早く死んでくれないかな?私は早く城に戻らないといけないの」


「それは…よせ。魔物がうろついてた」


「そう。ご忠告ありがとう。でもそんなことどうでもいいの」


姫イリスは呪文を唱えだした。


「中級魔法 フレイム・レイン」

「さようなら」


炎がまるで雨のように翔に降りかかる。


ひしゃげた肩から順番に燃えていく。


炎が顔に到達した。


眼球がとけ、脳があふれ出るような感覚が翔を襲う。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


痛みで気が狂いそうだった。


そんな中、目の前にスライムが飛び出してきた。


翔は無我夢中でそのスライムに喰らいついた。


スライムをつぶした汁が口の中にひろがる。


そのまま翔は気を失った。



目を覚ましたとき、翔の体の炎は消えていた。

ひしゃげた肩も元の形に戻っている。


「はぁ…はぁ…」


「なぜだ……俺は死んだんじゃないのか。クソッ。まだ、あの光の攻撃すら何が何だかわからないのに」


「姫様……いや、イリス。いつか必ずこの恩は返す」


近くの石に座り、落ち着く。


「一度今の自分のステータスを確認しておくか」


ステータス:西野翔

HP 34/132

AT 21/24

MP 2/448

スキル 不滅(効果:必ず負けない)*常時発動中*

    再生(効果:MPがある限り、怪我・欠損した身体が回復する)*条件発動* New!!


「少し強くなってる?」


「この再生ってスキル、いつ手にいれたんだ?」


「まあいい。それより、まずはここで生きていくことだ。とりあえず食料を探そう」


翔は森を歩き回ったが、食べられそうなものは何一つなかった。


「野乃花…」ボソッ


「クソッ。腹が減った。この色がヤバいキノコを食べるしかないのか。」


パクッ


「グッ…頭が割れる!痛い」


「ヤバい。また…おち…る…………」






「翔?何してるの?学校いくよ」


「野乃花?お前死んだんじゃ………いや。なんでもない。悪い夢だったみたいだ」


「そう?寝ぼけてないでしっかりしてよね」






「そんなだから、誰も助けられないんでしょ」


「は?」


「なんで翔は私が一番つらいときにそばにいないの?」

「私なんてどうでもいいんだよね」

「だってほかの女とヤれちゃうんだから」

「いいよね。ホントに」

「少しは自分の愚かさを理解した?」

「なんで私じゃなくてあなたが生きてるの?」

「なんで?ねぇなんで?」

「早く死んで?ね。いいでしょ」


「野乃花……ごめん」


「あああああああああああああああやまって許されるるるるるるrことじゃなあああいよね」


「おまあえのそんざいそのものがすべてをこわすんだよ」




「はあ゙ぁはあ゙ぁ」


翔は目を覚ました。


その額には汗がびっしり染み出ている。


「もう…………」


「腹が減った。何かないのか」


遠くに緑色の人型の魔物が見えた。


翔は獣のように走りだし、その魔物の背後に回って首を思いっきり絞めた。


その生物は最後にしわがれた声をひねり出したが、そのまま息絶えた。


絶命を確認した後、翔は頭を石で叩き潰し余計なものを取り払って、その肉に捕食し始めた。


ばりぼりと硬い肉を無理やり咀嚼する音が聞こえる。


ゴキュゴキュと血を喉に流し込む音が聞こえる。


半分ほど捕食したくらいで、翔は半ば失っていた理性を取り戻した。


肉にかぶりつくのをやめ、火であぶってから食べ始めた。


1日ぶりほどの食事であったが、その見た目や味も相まってその後はあまり食べ進めることができなかった。


残りは燻製風にいぶしておいた。


その生物の皮や骨で簡易的な服やナイフを作った。


ただ皮は臭いがひどく、ナイフも脆いものだった。


そこらへんにいたスライムの汁で皮の臭いを落とした。


ナイフもスライムを刺し殺すには問題なかった。



かれこれ1日がたち、その魔物の肉も少なくなってきた頃、翔は食糧を探しに森の深いところへ進んだ。


そこには城下町でみた魔物にそっくりな魔物が2匹睡眠していた。


狼のような顔と人のような体を併せ持つ魔物だった。


翔は音を消して忍び寄り、片方の頸動脈を切り、心臓を一突きした。


その間にもう片方の魔物の目が覚め、鋭い爪で肺を貫かれた。


血を吐き、悶え苦しむ翔だったが、初級魔法 フレイムを魔物に命中させた。


炎で焼かれもがく魔物を、殺した魔物の爪で刺し殺した。


二匹の魔物の討伐に成功した翔だったが、肺の穴から血が吹きでて、ゴロゴロと気道に血が溜まる。


肺を締め付けられるような呼吸を2時間ほど続けた。


スキル 再生によって肺の穴が塞がり、動けるようになったのは夕方のことだった。


「あぶねぇ。危うく死ぬところだった」


「ただ強そうな2匹を狩れたのはデカいな。ステータスも魔物をやることで上昇するみたいだし」


ステータス:西野翔

HP 75/154

AT 25/28

MP 33/601

スキル 不滅(効果:必ず負けない)*常時発動中*

    再生(効果:MPがある限り、怪我・欠損した身体が回復する)*条件発動*


「これだけやっても、MP以外は一般人に毛が生えた程度か」


「MPも突出して多いわけでもないしな」


「とりあえず肉だ」


翔は狩った2匹の魔物の肉を食べ始めた。


肉は汚臭がし、苦くてまずいはずなのだが、もう翔には感じなくなっていた。


毛皮で前のより良い服を作り、その日は眠りについた。



翌朝、川を発見し、3日ぶりに水浴びをした。


腐りきった体をきれいに洗い流し、自身がまだ人間であることを確認する。


翔は一度城に戻る決意をした。

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