まだ準備中です
初めてのふかふかベッドから起き上がって大きく伸びをする。
目覚めてからの体の痛さが全くないのは流石良い品質と言うべきだろうか。
階段を落ちないように手すりを握って降りていく。
すると、香ばしいパンの匂いが鼻腔をくすぐる。
扉を開けるとフレアが皿に料理を盛り付けている所だった。
「おはよ」
「……おはよう」
相変わらずの素っ気なさには気にもとめず、水でも飲もうかとウォーターサーバーに近寄った時大きな音がした。
瞬間フレアが大急ぎでリビングから出ていき、セインを抱えて戻ってくる。
階段を落ちたであろう当の本人は何事も無かったように目を覚まさず、なんなら寝言を言っていた。
「いつもこうなのか?」
「いや。いつもは廊下で倒れてる」
だからか。
床がフローリングにしては柔らかいなとは思っていたが合点がいった。
フレアがセインを椅子に座らせる。
まるで陶器でも扱うみたいに慎重な手つきで。
水を飲ませるとようやく大きな目が開いた。
青いグラデーションの瞳に吸い込まれそうになる。
「なつめとふれあおはよ〜」
「おはようございますセイン様!今日も最っ高にお美しいです!!」
気味が悪いほどの笑みを浮かべるフレアを横目に、コーヒーを啜った。
コーヒーと言ってもインスタントだが、最近のやつは美味しくなってる気がする。
味覚にはどうも自信がないのでなんとも言えないが。
今日の朝食はサクサクのトーストと半熟の目玉焼きに厚切りベーコンだ。
相変わらずシェフが作った1品みたいに綺麗だ。
綺麗すぎて夢なんじゃないかと疑ってしまいたくなる。
ちなみに目玉焼きはフレアは完熟でセインは外の白身が少し焦げている。
よく朝っぱらから人の好みに合わせたのを作れるなぁとバターを塗ったパンにさっきの具材を組み合わせて頬張った。
「お前本当料理上手いな」
「セイン様の胃袋は俺のだからな」
「私胃袋ないけどね」
さっきまで開いた瞳は完全に閉じてしまっていた。
ゆるゆるとした雰囲気に居心地の良さを感じながら、昨日のことを思い出す。
僕らは帰る家がないのでシェアハウスをしている。
シェアハウスというと当然ルールがある訳で、フレアは料理担当、僕は掃除担当になった。
セインは依頼の選別だったり、会社関係の業務を全て担っているのて免除だ。
僕が来る前は表面上の掃除はしていたらしい……多分物置とかに突っ込んでたんだろうけど。
朝食を済ませた後僕は皿洗いをしていた。
ヴァンパイアの洞窟に行くのは昼過ぎでまだ時間がある。
「ねぇ棗。棗はここに来るまでどうしてたの?」
「普通に仕事探してた。生活費稼がなきゃだったし」
「良かったね、働き口が見つかって」
ニヤニヤしながら言い放つ彼に、濡れた手をパッパっと開いて閉じる。
それに子供と喋るみたいなトーンで「うわぁ〜」と下手すぎる演技をした。
もう一度水をかけてやろうか悩んだが、フレアの足音がしたので中止だ。
セイン全肯定botなアイツに何を言っても無駄である。
「じゃあクイズします。てーれん、ヴァンパイアのメッシュの本数は何を表しているでしょーか」
急にクイズが始まるが困惑せずに一言口に出す。
「支配力の強さだろ?」
「そうそう。ちなみに今回拘束する相手は棗とフレアなら簡単に従えれちゃうから気をつけてね」
「分かりました」
ぬっと音もなく顔を出すフレアは少し髪が乱れている。
恐らく洗濯物でも干していたのだろう、今日は風が強い。
その手には3人分の服が抱えられており静かに床に置かれる。
ヴァンパイアがよく着ている服だ。
「今回はこれを着て依頼に行くからね」
「わざわざ合わせる必要があるのか?」
「目立つでしょ?髪色とかも魔術で変えるからね」
怠惰なのかあと少しの距離にある魔術書に必死で手を伸ばす。
しかし毎回掠めるだけだけで見てるこっちがもどかしくなってくる。
ようやく掴めたと思ったら綺麗に顔面ヒット。
そこからピクリとも動かず、フレアが本を取るとようやく動き出した。
なんて面倒くさいやつなんだろうか。
「じゃあ魔術かけようか〜……棗、こっちこっち」
少し距離を詰めた。
魔術書を開いて僕の頭に触れる。
独特な雰囲気に思わず息を飲んだ。
「ディァ・フェルヴァントルン」
唱えられた瞬間、頭皮が捻れるみたいな痛みが襲った。
やばいっ。
耐えられないかも……。
視界が暗く狭まっていく。
体に力が入らなくなっていく……。
「棗、成功したよ」
次に目を開けると、熊のぬいぐるみ越しに喋るセインがいた。
ヴァンパイアをモチーフにしているのか瞳が十字架だったり羽が生えていたりと細かい所までよく出来ている。
やっぱりコイツは手先が器用だな。
手を見るとベージュではなく薄い青色の肌、3本の黒いメッシュに耳を触ると薄く尖っていた。
「どう?感覚的には?」
「光にあたっても平気なのか?」
「コスプレみたいなもんだからね。中身までは変わってないよ」
二ヒッと笑うと尖った歯がキラリと光った。
噛まれたら痛そうだとか適当な考えしか思い浮かばない。
フレアがとんでもなく睨んでいる理由は徐々に理解できた。
僕はセインに膝枕されているのだ。
頭がひんやりして気持ちがいい。
流石、氷の神様といったところだろうか。
「にしても変身すんのってこんな大変なのか……しばらくやりたくねぇな」
「これから微調整重ねてくから安心して☆」
舌をペロッと出し、ウインクする。
背後に悪魔の影が見えるのは気のせいじゃないだろう。
彼は悪魔……マモンの血が入っているのだから。
勢いをつけて上体を起こす。
2人はもう着替えているみたいで若干重い頭を押さえながら僕も用意された服を持って自分の部屋に行った。
セーラーカラーに服の脇から下がクロスされたリボンだけで肌は丸見え。
ロールアップスリーブにキュロットパンツ、オーバーニーソックス……。
普段絶対着ないような服に迷ったが着てみた。
顔がいつもと違うのでまぁ似合っている。
「棗〜そろそろ行くよ〜」
全く緊張感のない声にため息を吐く。
部屋から出て階段を飛び降りた。
「どう?私が作った服」
「脇下どうにかならなかったのか?」
「ルーレットで決めたらそうなっちゃった」
コイツについていくのやめようかな……。
いやでも金が…………。
唇をぎゅっと噛み天井を見上げた。
結果を出す前に2人に引っ張られ何デも屋を後にした。
ここまで服を調べた日は多分あんまりないでしょう。
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[おまけ]
・ホラー映画を見る棗とフレアをこっそり見るセイン
棗「…………フレアってさぁ……何が面白くてホラー映画見てるわけ?」
フ「それはお前もだろ。俺はセイン様が好きだから見てる」
棗「ほぉ〜ん……僕は普通に面白いと思ってる」
フ「つくづく顔に出ないな」
棗「いつからかなぁ〜覚えてる?」
フ「あの施設にいた時もお前は笑わなかっただろ」
棗「そうだっけなぁ……おぉこの俳優すげぇな。めっちゃ驚いてる」
フ「ほんとだな」
セ(なんか……違くない?)




