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初めての仕事

部屋に入った赤い髪をしたエルフはキッと僕を睨んだ。


僕もキッと睨む。


お互い話さないのにしびれを切らしたセインが口を開いた。



「ったく……久しぶりに出会ったっていうのにさぁ。フレア、あれ買ってきてくれた?」



彼が問うとぱあっと花が咲いたみたいに笑顔になった。


わかりやすっ。



「はい!でも、カップケーキなら俺だって作れますよ」



「たまには味変したいじゃん」



舌をペロッと出して小箱を受け取る。


可愛らしい気球が沢山描かれたデザイン。


箱を開けて座ってるよう僕らに指示を出した。


フレアは部屋の奥から椅子を取り出して、どかっと座った。



「お前、まだ盗みを止めてなかったんだな」



「前科つくと雇ってもらいにくいんでね」



軽く受け流して残っていたクッキーをつまんだ。


人の物を取るようになったのは5歳の頃。


母親は男を作って出ていき、父親は借金だけ残して蒸発した。


そこから生きるために盗んで盗んで盗んで……。


気づけば染み付きすぎて取れなくなっていた。



「ところで、本社に話は通したのか?」



「知らね」



かすかに電話をしている音が聞こえてくる。


流石に会話の内容までは聞き取れないが、真剣そうな感じなのは伝わってくる。


しばらく無言が続いたのち、セインがひょっこり顔を出した。



「今度はピーチティーにしてみたよ〜あっ、棗入社おめでとう」



あまりにもあっさりと言われたので言葉が出なかった。


ここの入社基準どうなってるんだ?


ツッコミたいことは色々あるが、また後ででいいか。


今聞いたところで分かる気配がない。


甘い香りが空気中に浮かぶ。



「さぁて、早速仕事の話をしていいかな?」



瞬間、真剣な目に変わる。



「仕事……アルバートか?」



「ん〜それがメインって訳じゃないけどそうかな。博士は私と一緒でそこに居た跡を残さないからね」



カップケーキを小さな口でパクッとかぶりつく。


少し端に屑がついてしまい、それをフレアが手で拭った。


その手を口元に運んだのは見なかったことにした。


セインは近くにあったパソコンに手を伸ばす。


落ちそうになったが、そこは持ち前の反射神経で事なきを得た。


開き、カチャカチャと操作をしながら話す。



「3人体制での最初の依頼は【ヴァンパイアの洞窟】だ。内容は表向きは引越しで裏向きは拘束って感じかな」



「なぁ気になったんだけどさ、何デも屋って何してんの?」



1番最初に訊くべき質問をしていなかった。


艶やかな髪を揺らしてフレアの方を見る。


顔を赤らめて、僕と目が合うとすぐに赤みが引いた。



「表向きは勉強を教えたり、代わりに料理を作ったりで裏向きは依頼された人物の始末だったりだな」



「殺してもいいのか?」



「根本的に治すのが難しい場合だったり、私達に危険が及ぶ可能性がある場合は許可が降りている」



両手でブイサインを作り、蟹みたいにチョキチョキさせる。


ならって僕もチョキチョキさせてみた。


セインはクスッと笑い「さて、本題に戻るけど」と言ってパソコンの画面をこちらに向ける。


画像には30代ぐらいのヴァンパイアが映っていた。


短い白髪に黒いメッシュが5本、十字架の瞳をして、血色が悪い。


乾いた喉にピーチティーを流し込み喉を震わせた。



「何をしたんだ?」



「子供を売ってお金にしてるらしいね。ヴァンパイアは光に晒さない限り死ぬことはないから、暗闇の労働力として丁度いい」



怒りを孕んだ声に同情を向ける他なかった。


換気扇の音が轟々(ごうごう)と鳴っている。


ふと顔を上げると吊り下げられた照明がパチパチと頼りなく光っていた。



「そろそろ替え時だなぁ〜それはそうと棗、魔術ってさ使える?」



予想していた質問に短く「あぁ」と言って答えた。


魔術は人間だけが使えるサポート特化の能力だ。


例えば、空を飛びたかったらその呪文が書いてある魔術書を開き唱える。


ただし魔術書は辞書みたいに分厚いので持ち歩くには適していない。


最近は手帳に必要な魔術だけをメモして使っているらしい。


現に僕もそうだ。



「一応……でも3段なんて使い道あるか?」



「あぁ大丈夫大丈夫!特段まで取らせるから」



驚きよりも先に「そうだよな」とかの諦めが来た。


セインはやると言ったら必ずやる。


それにこんな金払いのいい職場を辞めるか勉強するかなら無論、後者で決まりだろう。


後、魔術協会からもの収入も期待できるし……。



「お前は本当、金ばかりだな」



呆れた顔でセインに紅茶を注ぐ。


彼は笑いながら「一緒に頑張ろ〜ね〜」と呑気にそれを口につけた。


体が熱くなってきたので手袋を脱ぎながら、伏し目がちに口を開く。



「で、僕は何をすればいいんだ」



面倒くさそうな予感が背筋を駆け下りていく。


セインはパソコンでヴァンパイアの洞窟の地形を開き、胡散臭うさんくさい笑顔で告げた。



「とりあえず、彼を拘束するのと住民に被害が出ないなら何しても構わないよ」



「おっけーおっけー」



適当に返事を返し考えた。


等間隔に居住出来る洞窟があり、少し離れた場所に大きめの洞窟がある。


画像を探すとそれは観光客ようの宿や日用品や食料などが売っている店だった。


他にもカフェや図書館など思っていたより発展している。



「私さぁそこ行ってアレ欲しいんだよね」



「アレ?」



「パワーストーンってやつ。何か綺麗だしさ〜記念品的な感じでね」



垂れ下がっていた髪を耳にかける。


今まで見えてこなかったい貝殻のピアスや海をモチーフにしたイヤーカフが顔をのぞかせた。


いつの間に開けたんだろうか。


素朴な疑問が思考をかすめたが、追求はしなかった。


他に気になることがある。



「で、ヴァンパイアの洞窟にはいつ行くんだ?」



「明日か明後日には来て欲しいってさ。2人はどっちがいい?」



セインはどこから取り出したか分からない、ホイップクリームを直に吸い始める。


それをフレアが取り上げクリーム色の髪をした彼は嘘泣きを披露していた。


昔は逆だったのになぁと思い出に浸る。



「僕はどっちでもいい」



「俺もです」



「じゃあ明日にしようか。フレア、ホイップクリーム」



「晩御飯入らなくなるでしょう」



キッパリNOを突きつけられ、ヘニャヘニャと椅子に三角座りになる。


あまりご飯を食べずお菓子ばかりのセインは頬を膨らませた。


しばらくすると飽きたのかパソコンカチャカチャと仕事をし始めた。


フレアは人形用の服に刺繍を施している。


手持ち無沙汰の僕は何をしようか考えている間に、眠りに落ちてしまった。







今度はちゃんと大雑把なプロットを考えました。ただ思いつきでやることが大半なので大丈夫かなぁと心配してます……。


良ければ評価やコメント、ブクマをお願いしますm(_ _)


[作中で登場しないであろう小ネタ]

「なつめ」は結構ポピュラーな名前だと思っていて響きが凄く好きなのですが、どうやら「棗」は名前に使用出来ない感じみたいです。カナシッ

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