君に伝えたいこと
《この世界には多種多様な種族が存在している。》
《思考生物の意識を操る事が出来る常に冷静な人間。》
《小さな森ならば簡単に破壊してしまえるであろう力を持った誇り高きエルフ。》
《人間とエルフの能力を良いとこ取りをしたような感情豊かな魔族。》
《それ以外にも鬼にサキュバスに神など色々あるが……まぁこれからでいいだろう。》
《君はボクの事が気になるみたいだね?》
今まで背中を見せていた彼がゆっくりと振り返った。
顔はゴージャスな仮面によって分からない。
声はコントラバスのように低く、身長は180cm近くあるだろうか。
彼はこの暗闇の世界をなんの迷いもなく歩いていく。
《ボクの名前はJOKER。君の世界とこの世界を繋いでいるただの案内人さ》
クフフっと肩を揺らした後立ち止まった。
普通仮面の穴から見えるはずの肌が、穴のように真っ黒なので少々不気味である。
彼は掌からペンを取りだした。
そして地面を蹴るとホワイトボードがニョキっと現れる。
《まぁ簡単に説明しようか。今、ボクと君のいるここは記憶の狭間……夢の中だ》
ホワイトボードに今言ったことがスラスラと書かれていく。
夢の中……明晰夢だろうか。
彼は一瞬振り返り、また背けた。
《厳密には違うけどまぁいいや。ところでさぁ……君は人の秘密を知った時どうする?貶す?殴る?関係を切る?》
首を横に振る。
彼は興味が無さそうに《そうか》と吐き捨てた。
何か気に障ることをしたのだろうか。
心臓がぎゅっと掴まれたような感覚に陥る。
《今から君にはある6人の物語を見せてあげよう。》
彼はこちらを向き両の掌を合わせて、透明な球体を作り上げた。
《あんまり慣れてないんだけど……こんなものかな。あっ他に何か質問とかある?》
その球体を一定間隔で上に投げながら待っている。
今私は体の感覚がない。
まるで浮いているようなそんな感覚だ。
手も握れなければ声も出ない。
ただ思考は出来る。
そして彼は恐らく私の思考を読み取ることが出来る。
私は〝どうして物語を見せるのか〟について質問した。
彼は投げるのを止め、再びホワイトボードに書き始める。
《ボクは趣味で君の世界の歴史書を読むことがあるんだ。1番好きなのは織田信長かな〜なんか面白いし》
聞き覚えのありすぎる名前に思わず目をパチパチと瞬かせる。
《君に物語を見せる理由はあの子達を知って欲しいからかな。後は……記憶を戻せるかなっていう実験的なやつでもあるんだけどさ》
記憶を戻すという言葉に違和感を覚える。
〝JOKERは私の何なんだ。〟とパッと脳に浮かんだ。
それに彼は何も答えない。
ゆっくりゆっくり近づいて、地面からでてきたソファーに座るよう促す。
実際座っているのかは分からないが何も言わないので大丈夫だろう。
彼はまるで友人と共に映画でも見るように肩を組んだ。
馴れ馴れしい反応に脳は拒絶するが、感覚のない体はそうしない。
私は画面の映像に意識を任せた。
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ここは様々種族が交わり合う【旅人の町】
そこに中規模な事務所が1軒立っていた。
1階は住居スペースで2階は各々の部屋、3階は仕事場所となっている。
クリーム色の髪をした彼は目の前にいる人間、朴木棗に話しかけた。
「久しぶり、棗。元気にしてた?」
クスクスと微笑みながらアールグレイティーの入ったカップを口につける。
僕は欠伸を噛み殺してから答えた。
「まぁまぁかな。にしても……お前は今まで何してたんだ?」
皿に置かれたクッキーを口に含んだ。
サクサクしていて、粉がボロボロと落ちてしまう。
目の前にいる彼、セイン=ポドリファは少し考えてから口を開いた。
「まず、私は今スノードロップっていう会社の偉い立場にいるんだ」
「スノードロップって確かあれだろ?法で裁けない犯罪者を独自の方法で裁く……」
「そうそう。ここ以外だったらそうだねぇ……例えば棗が私を殺すでしょ?そしたら大体何年か刑務所に入るか死刑になるかどっちがだけど〜ここではそうじゃない」
セインは声を潜めてニヤリと笑った。
長い前髪で目は隠されているが、多分笑っていないだろう。
「最新技術のVRを使って精神的に追い詰めていくんだ。もちろんアフターケアもちゃんとするよ」
「それって政府公認なのか?」
「この世界の創造主は公認しているよ」
普通にいけていれば出会うことの無い、神様。
彼らは僕ら人間とよく似た見た目をしているが全く別物だ。
僕はこの先その創造主様とやらに会うことはあるのだろうか。
腰まであるクラゲヘアーをポニーテールにする。
か弱く見せるために伸ばし始めた髪の毛は時に邪魔になる。
「んで、セインの目的ってなんなんだ?」
折られた腕をさする。
実はここには治療目的で運ばれたのだ。
経緯はセインがスボンのポケットに財布を入れており、それを取ろうとした所返り討ちにあった。
我ながらダサすぎる。
で、警察に突き出されるか何デも屋で働くかで今に至るというわけだ。
「実はさぁ……」
さっきからのヘラヘラとした感じが一気にしなくなる。
「同僚が博士のところにいるんだ」
「博士だと!?」
思わず叫んでしまった。
もう聞くこともないと思っていた名だ。
「あぁ。私もびっくりしたよ……あの時体調が良ければ………………まぁその同僚を連れ戻すために皆の力が欲しいなぁと…………思いましてですね」
唇をきゅっとかみ締め血が滲んでいる。
近くにあったティッシュ箱を差し出した。
「金払いさえ良ければ手伝うぜ。どうせ、断っても盗み以外脳がないからな」
背もたれに寄りかかる。
そういえば僕はいつから金に執着するようになったのだろうか。
忘れてしまった。
「やっぱり雇ってもらえない感じ?」
「中々なぁ……まぁ当たり前だろうがな」
目の前にいる神様は「ふーん」と理解するように考えている。
髪の隙間から見えるグラデーションがかった青い瞳が綺麗だ。
整った鼻筋にキュッとした唇。
彫刻みたいな体はゆったりと僕と目が合った。
「まぁとりあえず、これからよろしくね棗。もし何か取ったら足折っちゃうから」
ニッコニコ笑顔で言われて寒気がした。
白い手袋越しに伝わる冷たさに、今がまだ暖かくて良かったと思う。
「こちらこそ、金さえ払えば大体のことならする」
「全部はしてくれないんだ」
不敵に笑う彼はおかわりの紅茶を入れている。
僕はこれから来る赤髪のエルフにどんな言葉をかけようか悩んでいた。
迷走してきたので書き直します。基本的なストーリーは変わらない予定ですので安心してください。早く元のストーリーに追いつけるよう努力します。
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[唐突プロフィール]
名前/朴木棗
誕生日/10月8日
好きなこと/作曲
嫌いなこと/セインの運転
趣味/ピアノを弾く
種族/人間
常識人。金を払えらば基本なんでもしてくれる。