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「美少女に転生して男を揶揄ってみたい。」

作者: 灰無りよ

 美少女に転生して男を揶揄ってみたい。


 そんなよくある願望を抱いていた俺だったが、なんの因果か転生した今では正にその『美少女』になっていた。


 親譲りの快活な美貌に、メリハリの効いた肉感的な肢体。俺の見た目をわかりやすく言うなら、青年誌に出てくるギャル系の美少女といった感じだろうか。まつ毛バサバサでにひひ笑いが似合う胸がめっちゃデカい茶髪ギャル、アレね。いや、俺はギャルでは全くないのだが。


 というか、折角美少女に転生したのはいいものの、俺は正直この美貌を生かすことが出来ていなかった。前世の陰キャ引っ込み思案が影響して、昔から静かに目立つことなく過ごしてきた勿体ない人間が俺というやつだ。いや、目立つことなくというにしては俺があまりにも美少女だからどうしても人目を惹くことはあったけど。


 男を揶揄ってみてぇ〜という願望に関しても、そもそも男を揶揄うどころか幼小中高と女子校歴が長すぎて男と関わるきっかけすらほぼない状態である。


 唯一関わりのある男は、男っていうかガキだし。


 俺はその唯一の男である、目の前で一人用ゲームの高難易度ステージをクリアした黒髪の少年を後ろからぐいっと抱え込んだ。すると俺の豊満で爆発的な胸に少年の後頭部がずむむむ……と沈みこんでいく。

 毎度ながら俺の胸がデカすぎてビビる。人体って他人を飲み込めるんだ、という知見を俺は転生してから得た。てか俺太腿も尻もまぁそれなりにデカいしむちむち?なんだよね。肉感的美少女だから。身長も170cmあるし、色々とでけー美少女と思って欲しい。


「何だよ。今僕ゲームしてるんだけど」

「いやそれ私のゲームだし、いい加減代わりなー?」

「結月ちゃんゲームヘッタクソじゃん」

「下手でもゲームしていいんですぅ」

「見ててイライラするからしないで欲しい」

「酷くない????」


 この生意気な応答のガキは、母親の友達の息子で、名前は広夢(ひろむ)。俺と5歳差なので今年12歳になる。

 俺とは幼馴染のような、俺にとっては弟のような、まあそんな感じの少年だ。


 そんでもって、昔から発育のよかった俺や、俺の発育の元であるグラマラス美女な俺の母親、そして類友なのかこれまたダイナマイトボディな広夢の母親もみーんな巨乳で昔からそれらに埋もれまくったせいで、現在進行形で胸に頭が埋まっていても何にも思ってないとんでもねえガキである。


 俺は広夢からコントローラーを取り上げた。反抗的な言葉とは裏腹に指の力は弱く、すんなり俺にコントローラーが渡る。広夢はクソ生意気なガキではあるが、頭の出来自体は賢いし気も使える優しい子なのである。ただし生意気さに恥じず口は結構悪い。


「とにかく、だぁめ。もう交代」

「……チッ、このデカ乳が……」

「こら、広夢」


 俺はぺしっ、と軽く手刀を落としながら、声音だけは半ば本気のものにする。


「人の身体的特徴を悪口に使うのはやめろっつってんでしょ。私だってねえ、時々なんでこんな自分の胸がデカいのかなってビビるんだから。広夢だってチビって言われたら嫌でしょー?」

「……悪かった」

「ごめんなさい」

「……ごめんなさい」

「わかればよろしい」

「でも、僕すぐに大きくなるし。今だってクラスで小さい方じゃないし。結月ちゃんの身長なんかすぐ越すから」


 拗ねたような口調で話す可愛い弟分に俺の口の端はにまにま緩む。愛いやつめ。


 俺はわしゃわしゃと広夢の柔らかな黒髪を撫でた。指通りのいいサラサラの髪の毛はいつまでも触りたくなる心地良さだ。広夢は暫く我慢していたが、撫で過ぎたのか鬱陶しそうに俺の手を跳ね除けた。


「ゲームするんだったら早くしなよバカ。1回死んだら僕に交代ね」

「いや私の腕前で無理なこと言わないでよ」

「下手くそ」

「知ってますぅ。でも下手でもゲーム楽しめるからいいんですぅ」


 広夢と他愛のない言い合いをしながら、俺はわーきゃー言いながらゲームをした。


「んっ、……んっ、んっ、んぅ!ぁ、あ、やったぁ!広夢見た!?見た見た見た!?」

「目の前にいるんだから見てるよ」


 広夢の口調は冷めたものだが、そんなの関係なく俺は嬉しくなってコントローラーを放り投げて目の前の弟分をぎゅうぎゅう抱き締め、頬っぺをすりすりした。ガキの頬っぺはやわこいぜ。

 それにしてもこいつ、腹が薄いな。やっぱ少年ってみんな腹が薄いのか?いやでも前世の俺はもうちょい太かったような?てか俺の腹の半分くらいじゃない?もっと食いな?


「えへへ、クリアした〜。嬉しいな、広夢アドバイスありがとね」

「めっちゃ簡単なステージだけど。まあ、おめでとう」

「口では色々言うけど優しいんだから〜、このこの、可愛いやつめ。ま、一区切りついたし交代しよっか」

「うん。てか結月ちゃんゲームやってる時に喘ぐのやめたら?」

「喘いでないけど!?」


 心外である。たしかに俺はゲームやってる時に無意識に大きい声が出がちなので、唇をぎゅっと結んで堪えていたのだが、それが喘ぎのように聞こえていた……のだろうか。いや喘いでないけどね?

 なんでガキに俺の喘ぎ声を聞かせなくちゃならないんだっていう話だ。


 いやもちろん転生前は男を揶揄いたいと思っていたし、その延長でショタの性癖を歪ませたい願望も持ち合わせてはいたけど、広夢はそんなんじゃないし。ショタというか弟だからなぁ。

 赤子から見てるんだぞこっちは。


 そんな俺の心情とは異なり、広夢は何言ってんだこいつという感情がありありと浮かぶ表情でこっちを見やった。

 広夢も俺とは別ベクトルで顔が整ってる美少年なので(知的な美少年といった感じ)そういう顔をされると心に来る。


「えっ、マジ……?」

「逆に僕の方がマジ?だよ」

「嘘だぁ……。てか広夢、喘ぎ声とか知ってんの?マセてんね」

「今時小学生でも喘ぎ声くらいは知ってるだろ」

「そうなん?」

「あ、ごめん。結月ちゃん友達居ないんだった。可哀想だね」

「私は一人が好きだからいーの!その狭い交友関係の中に広夢を入れてあげてんだから感謝しなー?」

「はいはいありがとありがと」

「ムカつくぅ」


 そう、俺は友達がいない。びっくりするくらい居ない。

 元から一人が好きなのと、友達ではないだけで普通に話す人はいるので特に問題は無いのだが、ガキからはこうやって下に見られるのである。


 腹いせにくすぐり攻撃でもしてやろっかなと思ったが、1階から母さんの呼ぶ声がしたので止めてあげた。


「広夢、今日泊まってくんだっけ」

「うん」

「風呂一緒に入ってあげよーか?」

「は?変態かよ」

「そんな冷たくしなくてもいいじゃん……昔は一緒に入ってたのにさぁ」

「いつの話?僕もう小6なんだけど」

「あぁー……たしかにもうよろしくない年齢かぁ。私にとっては広夢はずっとちっこくて可愛いよちよち歩きのままなのに」

「寝言は寝て言えバカ」


 辛辣に言い返されながら連れ立って1階へ行く。

 俺は広夢を愛でたいだけなのに、年が経つのが早すぎるぜ。


 母さんが既にご飯を用意してくれていたので、配膳を手伝う。親友の息子である広夢は昔から猫可愛がりされているので、何か手伝おうとすると母さんから「ひろちゃんは何もしなくていいんだよ♡」と返されるのがオチである。母さんも俺と同じく全てがでっかい女性なのに加え、おっとりしつつ精神的な押しが強い。俺は多分母さんには一生逆らえないと思う。


「私、ハンバーグ好き〜。母さんありがと、大好き」

「お母さんも結月ちゃんのこと大好きよ。チュチュチュ♡」


 そして俺もまた母さんから溺愛されているので親愛のキスを沢山投げられた。

 ありがと〜と受け取りながら席に着く。広夢の母親である陽葵(ひまり)さんは忙しい人で、頻繁に我が家に訪れるものの仕事ですぐに呼び出されてしまうため、広夢を預けていくことが多い。

 母さんと陽葵さんは血縁関係ではないはずなのにまるで姉妹かのように仲が良いのと、我が家自体こいつを預かることに全く問題がないので、広夢は半分くらいうちの子である。


 つまり俺の弟!可愛いね!最近本当にクソ生意気だけど!


 俺は前世も今世も反抗期がないタイプというか自主性があんまりないタイプなので、広夢の反発を見てるとこれが反抗期かぁ……という気分になる。

 自我が強いのはいい事だと思いますよ、お姉ちゃんとしては。


 あ、お姉ちゃんとか言ってるけど、俺の性自認は結構あやふやで、身体としては前世が男で今世は女である、というのははっきりしているんだけど、精神的にはどうなんだろうな〜?って悩み中。おそらく今は女……?なのかな……?わからんけど。はっきりさせていない、とも言えるかもしれない。


 てかそもそも人との関わりがうっすいから、女と男のステレオタイプ的な観念がなく、精神を当て嵌める枠がないというのが一番正確なのかも。


 まあ、今の生活に不満はないし、なんか問題が起きたらそん時に考えればいいだろ精神で生きている。


「あ、広夢、頬っぺにソース跳ねてるよ」

「え、どこ」

「ここ〜」


 俺は広夢のふにふにの頬に指を伸ばし、茶色いソースを拭うとぺろりとその指先を舐めた。

 無意識に行動したので、あ、失敗したなー、とすぐに思った。


 それはそれとして母さんの作るソースは美味い。料理上手なんだよな〜。俺もちょこちょこ教わっているけど、母さんがそもそも料理大好きって感じだからあんまり実践はしてない。


 そんで、舐めたはいいけど自分の唾液がついてるのは嫌なのでぱっと席を立ってキッチンで手を軽く洗った。


 椅子に着くと、案の定広夢がジト目でこちらを睨んできた。


「結月ちゃん、僕自分で拭けるから」

「う、ごめん。こういう子供扱いあんまよくないよねー?反省してます……」

「わかってるならいいけど」


 俺はしょげしょげになりながら謝った。

 さっきの風呂の話もそうだったけど、俺はずーっと広夢を見てきたから、こいつのことを守って手助けしてやりたいって気持ちがめちゃくちゃ強い。ほんと、俺にとっては可愛い弟なんだよ。

 でも広夢も大きくなってきたし、こういう扱いをすると怒られるので、そろそろ弟離れをしなくてはいけないかもなーと思ってはいる。


 でも12歳なんて可愛い盛りじゃん!?

 まだまだ子供じゃん!?

 こんなに細くてか弱くて精神的にも肉体的にも俺が守ってやらないとなのに!?


 まさかの俺も美少女になってここまで弟のことが好きになるとは思ってなかったよね。いやまあ実際の弟ではないんだけど。


「うふふ、結月ちゃんはひろちゃんのことが大好きだものね♡」

「そりゃ大好きだよー?最近生意気になってきたけどさぁ、広夢は私の可愛い可愛い弟なんだもん」

「だ、いすきとか、簡単に言うなバカ」


 広夢はパクパク料理を口に運びながらも耳が真っ赤になっていた。こいつは昔から頬は赤くならないんだけど、耳はすぐに赤くなるキュートボーイなのである。


 俺と母さんはそれを見て微笑ましさに溢れながら顔を見合わせた。


「ひろちゃんは昔から照れ屋さんで可愛いわね♡」

「ねー、ほんとに可愛い」

「……ッ、……!!!」


 広夢は何かを言いたげにしていたが、広夢もまた母さんの無敵包容力には逆らえないので、手早く食事を済ませて逃げることにしたようだ。


「ごちそうさまでした、美味しかったです。緋乃(あけの)さん、いつもありがとうございます」

「うふふ、いいのよ〜。ひろちゃんこそ、綺麗に完食してくれて嬉しいわ♡」


 母さんのほんわかオーラは無敵である。

 広夢は毒気を抜かれたように落ち着いた表情になって2階へ行った。多分また俺の部屋に行ったんだと思う。


「ごちそうさま、私この後布団出してくるねー?」

「お願いね。お風呂はもう入ってるから、好きな順番で行ってきて。一緒に入ってもいいのよ」

「はーい。でもそれはさっき断られちゃった」

「あら、残念ね〜」


 広夢に続いて俺も食べ終わったので、食器をシンクに置いて2階に行き、広夢用の布団を引っ張り出す。

 本当は俺の部屋で一緒に寝て欲しいのだが、流石に嫌がるだろうし俺のデカさだと潰しかねないので客間のベッドを使う。

 パジャマとか明日の着替えとかは、我が家では既に広夢用が備え付けになっているので特に問題なし。荷物に関しても、広夢の小学校は教科書を学校に置きっぱなしでいいらしく、タブレットを持ち歩けば基本事足りるらしい。俺のときランドセル超重かったもんなー。荷物が少ないのはいい事だと思うよ。


 ベッドメイキングが終わって自分の部屋に戻る。

 広夢は俺の部屋でまたゲームをしているようだ。


 ゲーム中に邪魔されるとめっちゃ嫌な顔をするので、後ろから抱き着いたりツンツンしたりはしない。したいけど。

 広夢はちょっかい出すといい反応をするから、こっちの揶揄いたい欲をとても刺激してくるのである。まあちょっかい出しすぎるとキレられるので自重する。


「広夢、そういえば今日ずっとゲームしてたけど、宿題とかないの?」

「簡単なやつだったから学校で終わらせてる」

「お、後回しにしないんだ。偉いじゃん」

「別に、普通だし」


 今日は木曜日なので、明日を頑張ればもう週末である。

 父さんも帰ってくるし、学校もお休みだし、俺は土日が好き。


「あ、そーだ忘れてた。お風呂もう行けるって、先入る?」

「んー、結月ちゃん先入って」

「おっけー。もう入ってきちゃおっかな」

「いてら。浴槽のお湯減らしすぎないでね」

「私の体積がデカいって話してる???」

「事実じゃん。時々結構減ってるから気を付けて欲しいんだけど」

「マジか。気を付けるねー?え、勢いつけて入ってたからかなぁ?」


 俺は首を捻りながら風呂場へ直行。

 美少女になってから、母さんの教育もあり風呂場での工程はだいぶ多くなった。ヘアケアとかスキンケアとか大事なのでね。


 女体に思うことは特にない。俺の体だし、もう女として過ごしてだいぶ経つしね。ただ巨乳が水に浮くっていうのはガチなんだな……という知見は得た。

 あと男だった時と比べて乳頭と乳輪が明らかにビッグサイズ。それを見る度に俺は自分の体がエロがある青年誌漫画のヒロインみてえな身体付きだなーと思うわけである。


 代謝のいい俺の体はそれなりに汗っかきなので、しっかりゆっくり湯船に浸かってリラックスしてから風呂を出る。

 喉が渇いたので冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。


 ほかほかに温まった体に冷たい水が効くぜ!


 肩くらいまである髪の毛を乾かすのにそれなりの時間がかかるので、先に広夢を呼びに行く。

 ゲーム画面に夢中らしく、ちらっとこちらを見たあとは振り返って来ない。


「お風呂出たよー、キリのいいとこで入っちゃいなー?」

「わかった。結月ちゃんも早く髪乾かしなよ。冷えるよ」

「お、ありがと。広夢はやっぱり優しいね?」


 俺はこっそり近付き、邪魔にならない程度に軽く広夢の頭を撫でる。控えめだったのが功を奏したのか、ちょっかい出しすぎだと怒られることもなく、ただむっつりと口を閉じている表情はめっちゃキュートだった。


 俺の弟、ほんとに可愛い。口悪いし生意気だけど、最近はむしろそこも可愛く思えてきたかもしれない。


 広夢がお風呂から出たらまた後ろから抱き締めちゃおっかな、暑いって言われるかな、なんてルンルン気分で1階に下りて、髪を乾かす。俺は心底広夢のことを弟のように思っているからだ。


 だから、広夢のその後のプレイングがぐだっぐだになり、耳どころか首まで赤くなっていたなんて全く知らないのだった。






「結月ちゃんのバカ、なんでいっつもあんな無防備なんだよ、……バカ!」


 コントローラーを放り出して、クッションを抱えて唸る広夢。


 暑いのか微妙に露出の多い寝間着の着方とか、風呂上がりの温かさとか、ほんのり香る石鹸と交じった肌の匂いとか、自分の頭をいつもの乱雑さとは違って優しく撫でる指先の細さとか。

 全てが広夢をこの上なくドキドキさせるので、ゲームに夢中になっているフリをして視線を逸らさないとやってられなかったことを、結月は全くもって知らないのである。






 これは、前世の願い通り美少女に転生したものの特に男を揶揄えていないTSおねーさんと、意図せず性癖を歪ませられ続けているショタの話である。

いつもえっちで可愛くて距離が近くて全てが大きい美人TSおねーさんと何でもないような顔をしながら振り回されている生意気な少年が書きたくて書きました。まだ見ぬ同士のために残すか非公開にしようか悩んでいましたが、評価が入っていて嬉しかったのでそのままにします。ありがとうございました。

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