映身
これは、私が中学生のとき。家族がいないさみしい部屋で黒いシミを掃除した話だ。
6月の某日。昼ご飯を食べた後、私は部屋の掃除をしていた。どうにも、ほかのことにやる気が出ず。かといって、無為に休日を消費したくなく、むざむざ掃除をしていた。
ほこりを吸わないためにも、窓を開けているとぼーっと。そちらのほうへ意識が向いてくる。ザーザーと降る豪雨が強く地面に打ち付けられることを考えて掃除をしていた。そうしているうちに仕上げの段階として、まとめたごみを捨てなくてはいけない。
しかし、そのごみの中びしょ濡れの真っ黒の紙があった。家も古いことからどこからか雨漏りしたのだろう。黒い紙に白いペンを走らせることをそのころはよく好んでいたし、それを丸めて捨て忘れたものが、水を吸ったのだと思った。そして、私はそれを空いたバケツの中に入れておいたのだ。
しかし、バケツの中は水が静かにあるだけだ。これはおかしい。私は確実にここに入れたはずだ。流石にそこまでは気を抜いていない。
私は、再度その周辺を見回す。無意識に投げ入れており、外してそこらに転がっている可能性がある。近くの棚の下や、部屋の隅、布団の下などとにかく隠れそうな場所を探した。しかし、見つからなかった。
気を取り直して、1階に下り、ごみをごみ箱に捨てた。
そうするとふっと部屋が暗くなった。
映った
なんだか黒い影に、瞳がついたような。そんなものが視界の端に移った。私は肩のあたりぞくりと震わせて、急いで部屋に戻った。鍵がついてない部屋だが、重りとなるものをとにかくかき集めて、急いでまだしまいたての厚手の毛布を取り出して
全身を覆うように潜った。
私は、とにかく丸まった。自身の手が、足が、顔が、布団から飛び出してあいつに見つからないように。
私は、願った。じわじわと、外の雨音が強くなっている気がした。ザーザーとい音が私のそばによるようで、あの化け物が雨雲の何かで、じっくり私を狙っている。そんな疑心暗鬼も生じた。
布団の中で雨音が通り過ぎるまで過ごした。
いくばくか、雨音も減ってきた。ぽつぽつと、その程度の音になった。その間には、何度か真っ暗になり、そのたびに恐怖を感じた。静かになったことで、安心した。私は布団を外した。
私の眼前は黒かった。
化け物が、部屋のすべてを覆っており、残っていたのは、覆いきれなかった細い細い窓の隙間だった。そこから、私は化け物をまじかに見た。てらてら光る全身がその「手」はすっと、遠ざかった。瞳は、ギョロリと窓を埋め尽くし、そのまま黒が引いていった。
部屋には、タールのようなものが垂れていて、雨のにおいが部屋に広がっていた。
昼の4時半。私の姿は、床に黒く映っていた。
草々