7 自然災害
そのままの勢いで冒険者ギルドを出て、門の方へと向かった。
「お?なんだウェルか。もう稼いだのか!?はっはっは、冗談だ。」
「はい、これどうぞ。」
「ん?は?おいこれっ!」
「売ってお金にしてください。」
メチルさんに売るなと言われた便利なカードをレモイさんに渡した。
どうせもうこの街には来ないのだから、いらないだろう。
「あと、この後この領土で自然災害が押し寄せてきます。僕が一応結界を張っておきますが、万が一のことがあるので、今日はだれかこの街の外に行きましたか?」
「んぁ!?、あぁ、さっきカリナちゃんとハゲが外に行ったぞ。」
「わかりました。」
僕は、爪で空間を裂いた。
切り裂かれた空間に先ほど作った胴体を頭から切り離して収納した。
あんぐりと口を開けているレモイさんに、
「僕は......、て、敵です。魔獣の手先です。なので、急いで街の人を安全な場所に避難させて下さい。」
嘘つくのって、こんな感じなのか。
胴体無いけど、なんだか喉が詰まる感じがするな。
また人間について学べた。
空間を閉じて、門を出て、外に飛び出た。
背後から鐘の大きな音が鳴り響いた。
その音を聞くとなんだか一瞬無い足を止めそうなったが、ある程度離れたところで元の姿に戻る。
「僕は〔戻れ、未知の星よ、真名はウェルスター・マニュス〕。」
空中に浮いた頭部が光り、夕方だった時刻は、あっという間に夜になった。
そこに現れたのは、とても大きく、威厳のある竜。
全身真っ黒で目玉だけは黄色、大きなひし形の翼を持った伝説の存在は現世にその声を響かせる。
咆哮でその地にいる生き物は動けなくなり、周囲は赤黒く焦げた臭いで満たされた。
しかし、その身体からは似合わない声が、
「うーん、もう少し離れとくべきだったかな。さてと、不死身の魔獣とやらとカリナちゃんを助けに行かないとね。」
竜は翼を羽ばたかせ周囲の木々をなぎ倒しながら空に浮かんだ。
そして低く唸ったような咆哮をあげ、感覚が研ぎ澄まされた。
そんな中、とんでもない勢いでこっちに飛んでくる気配を感じた。
徐々に近づいてくるそれは...、
「遅れて申し訳ございません!!」
一匹の竜だった。
身体が若干黄色がかったような黒色の竜が謝った。
「別に怒ってないよ。急にごめんね呼んじゃって、近くにいたのが君だったんだ。」
「怒る...?っは!いえいえ、矮小な私目で役に立つとは思いませんが、塵のように扱ってください!」
「じゃあ、まずはその変な言葉遣い、不愉快だから僕の前ではやめてね。うーん、これは命令ね?」
「は、はい。」
ウェルスター・マニュスはこの世に3体しか存在することができない竜神王の一体だ。
それ以下のランクの竜は畏怖を抱き、ただただ従順に従うことしかできない。
竜は基本人間、魔族、その他の種族と共に生活することは無い種族だが、稀に姿を変えて、人間界や魔族界で暮らしている竜もいる。変わり者の竜だ。
今飛んできた小柄な竜もそのうちの一体であり、特に変わっている竜であるウェルに畏怖ではなく尊敬を抱いている竜だった。
「じゃあ早速で悪いんだけど、カリナっていう女の子とハゲている男を探してほしいんだ。
両方生きたままで頼むよ。報酬は君が欲しいものを何でも与えよう。」
「ありがたき...、ぁ、ありがとうございます。すぐさま発見してきます!」
「うんうん。行ってらっしゃい。」
ものすごい勢いで山の方へと飛んで行った。
ウェルは竜という種族の中でもかなりの異端者であるが、竜という種族の中でも優しい竜である。
お願いごとには報酬も必ず付き、戦闘では孤竜の手助けなど変わり者の竜からしたらまさに神様みたいな存在になっていた。しかしウェルは、常に独りで行動をし、常に放流の旅に出ているのでいざという時にその場にいないなどということも多々ある。
「持ってきました!!!!」
「ん?おお早かったね報酬は2倍だ!」
「やったぁ!」
小柄な竜の爪には今にも泡を吹いて失神しそうなカリナちゃんと、ハゲがいた。
「死ぬぅうぅぅぅぅ!」
「お父さん!お母さん!うっぅうう。」
ありゃ泣いてる。
「泣かせちゃダメでしょ。」
「す、っすみません!」
「あれ、その声はウェルお兄ちゃん.........?」
「お、お兄ちゃん!!??」
竜が困惑している。
「僕だよカリナちゃん。今から魔獣を死滅させるからお家で待っててくれるかな?」
「ウェルお兄ちゃんは竜?人間?ぅぅぅうう。」
カリナちゃんはそのまま気絶してしまった。
一方ハゲは、
「お、お助け!私は悪くない!助け!っ...。」
おっと気絶か。
「そっちの女の子は僕が届ける。そっちのハゲはそのままにしててね。」
「はいっ!」
街でやった時と同じように空間を切り裂き、冒険者ギルドの様子を思い浮かべる。
そこそこ広かったし、おそらくあそこに集まっているのだろう。
カリナちゃんを空間に入れ、街に向かって魔法をかける。
「息吹よ、理から身を護れ。」
結界魔法をかけこれで準備万端。
それと同時に山の方から地響きが聞こえてきた。
「何でしょうか、この音?」
「なんかこの地にいる不死身の魔獣ってやつらしいよ。あ、その男絶対に気絶させないようにしといて。」
「了解っす!!」
隣で竜が魔法で男を拘束しているとき、不死身の魔獣が現れた。
「うーん、あれは...、聖魔?いや飢餓系の力を感じるし、魔獣というより飢獣だね。
君ならどう倒す?」
「そうっすねぇ、とりあえず頭をつぶしてみますかね。」
「そうだね、僕だったらこうかな?」
魔獣がこっちを見ると同時に爆発した。
「とりあえずノヴァでお試しかな?」
「あれもう、死んでんじゃないないんっすかね...。」
煙が消えるとき、何かがこちらに飛んできた。
それを爪で吹き飛ばすと魔獣がよろよろとフラめいていた。
「あらぁ、ウェル様の魔法が直撃したにもかかわらず生きているとは...。」
「じゃあ次はスーパーノヴァでも行こうかな?」
「ぁががががががが。」
ハゲは目の前で起きている光景を信じたく無さそうに必死に目をそらしていたが、魔法によってただただ目の前を見せられ続けていた。
「あの山壊しちゃっていいと思う?」
「別にいいんじゃないっすかね。山なんていっぱいありますもんね。」
「そうだね、ならいっか。ほいっと。」
僕の右手に力を込め、空気を圧縮した。
その空気はどす黒く色づき、その塊を魔獣に向かって飛ばした。
塊が魔獣に触れると轟音が鳴り響き周囲の森が赤く燃え、一瞬で炭と化した。
魔獣は半分ほど身体が炭と化しており残った左足でなんとか生き延びようとしていた。
「不死身と言っても僕たちからしたらただの玩具だね。」
「ここまでとはいかないけどそうですね。」
「ぐぎっぎぎっぎぎぎぎぎ!」
ハゲに至っては何語かも分からない言葉を発していた。
「じゃぁ、せっかく君がいることだし、一個良いものを見せてあげようじゃないか。」
「え!いいんですか!!??」
「君は優秀な竜になりそうだし、これを見てもっと戦いの勉強をしてね。」
「ありがとうございますぅ!!!!」
涙で目が潤っている竜をそばに、僕はトドメの魔法を準備する。
「〔星の導きに従い、神の冠を被るもの、アルタイル〕。」
空がピカリと輝いた。
周囲の音が消え去り、トーラスの形となった何層にも重なる雲は霧散した。
これから起こることを想像した竜は咄嗟に距離を取るかのように移動していった。
ハゲを置き去りにして。
空間に挟まれた身動きのできないハゲは泣いていた。
それを見てから発動の言葉を発する。
「爆ぜろ、燐光!」
天から、ビームが出て、地面に突き刺さる。
暖かい極楽の風、眩しい太陽の光、穏やかな気持ちになったの束の間、ものすごい引力によって周りの地形、空気、自然は吸い込まれた。
「あぁ、私の人生...、すまなかったぁっ!」
ハゲが何か呟いていたが凄まじい衝撃波と灰色の煙によって姿もろともかき消された。