5 確認
再び冒険者ギルドに案内され着いた。
今度は二階の奥にある大きめの部屋に案内された。
中には莫大な量の本と魔法器具?のようなものがたくさんあった。
中でも大きく輝く球体が透明な箱に保管されていた。
「ようこそ、私の研究室へ。改めて自己紹介しよう。
私はモルエア冒険者ギルドマスター兼魔獣研究協会、副補佐のメチル・アリュートだ。」
「僕はウェル、よろしくお願いします。」
「さて、ウェル、お前に敵意はないことは分かっていた。確証は無かったが初めて会ったついさきほどの時から人間では無いと直感があった。お前は見たところ魔人のような特徴を持っているが、それに当てはまらない部分がある。これは非常に興味深い。ギルドマスターとしてのメチルではなく、魔獣研究協会のメチルとして君に尋ねよう。」
「なんでしょうか?」
「君、その体どこで手に入れたんだい?」
人間は観察力にも長けている種族なのか。
まさか見破られるとは思っていなかった。
だけどまた新しい一面を知れてよかったな。
「動揺一つもないか。その体精妙によくできているように見えるが、心臓の鼓動を感じない。
それに温もり、小さな息の流れすらもね。」
「なるほど。勉強できて嬉しいです。」
「隠してるつもりでは無さそうだね。君さえよければこの紙に触れてくれないかい?」
若干薄暗い色をした紙を渡され、躊躇なく手を触れた。
「どうも。さてこれで、君の種族が分かったわけだが。どれどれ......。」
紙をまじまじと見て絶句してしまった。
「...本当に何者なんだい君は......?」
「種族は何と出ましたか?」
「無記名だ。長い間研究者として生きていたが、この紙でさえ分からないとなると相当な希少種の種族ということだね。」
「ちなみにその紙、何でできてます?」
「これは、繊維と、布と、吸血鬼の涙だ。」
吸血鬼の涙は、確か吸血鬼がこれまでに吸ってきた種族の情報が入っている大変貴重な物だったはず。
しかも吸血鬼は滅多に泣かない。吸血鬼に会えるのも相当低い確率だが、涙はそれ以上に無い。
「へぇ、どうやって吸血鬼の涙を手に入れたのかは知りませんが、少なくともその涙には僕の種族の情報は無かったと。」
「君は吸血鬼の涙のことを知っているのか。予想以上の生命体だね。
この紙でもダメとなるとアレをやってみるか。」
メチルさんは透明な箱に入ってる球体を取り出し、部屋の中心に置いた。
そして長い杖を手に持ち、詠唱をし始めた。
「理、断絶の意思を持って、防ぎたまえ。」
「結界?ですか?」
「よくわかったね。詠唱付きの結界は特殊魔法の一部なんだが、君は魔法にも詳しそうだ。」
「それで何をするのですか?」
「簡単さ、宿屋で出した殺気を本気で出してくれ。
この球体はありとあらゆる殺気を吸収して数値化する。未知の生命体でなければ全生命体の情報が出てくる。君がどこのだれで、どのような血筋があるのかもね。」
「全力の殺気ですか...。」
「実は私かなりぞくぞくしているのよ。研究者として未知とはこの上ない幸福。」
「それでは無理ですね。私の全力は無理です。」
「どうして?結界を張っているのよ。」
「その結界が無事だとしても余力だけでこの帝国領が地図から消えるかもしれないので。」
「ずいぶん大きく出たわね。でも大丈夫よ。攻撃類のものをすべてこの箱に閉じ込めるという万能の魔法器具を持ち合わせているの。」
そういって、ポケットから白い正方形の小さな箱を見せてくれた。
「この箱には決壊反射と時間消滅の魔法がかけられていて、一方通行かつ全てを飲み込むという世界の理から外れた代物よ。安心して出しなさい。私はもちろん結界外から様子を見てるわ。」
見た感じ、本当にその魔法がかかっているのを確認できたし、人間の体で無茶をしてみるとどうなるのか気になっていたし、やってみるか。
「でも、30%ぐらいの力を出しますね。50%を超えると僕でもどうなるのか分からないので。」
「まぁそこまで言うのならしょうがないわね。さぁ見せてみなさい!」
殺気を出せと言われても、難しいな。
さっきよりもちょいと力を緩めて、このぐらいかな?
「ピシッ!」
球体が輝き、途中でひびが入った。
一瞬出して、すぐに引っ込めたのでそこまでの被害は出ていないと思っていたら、体に被害が出ていた。
槍は消滅し、体を構成していた魔素は霧散していた。
唯一残っていたのは、頑丈な素材で作った頭部だけ。
傍から見ると生首が表情を変えながら喋っているという奇妙な光景だろう。
球体のそばに置いてあった箱は、一瞬の殺気を吸収し閉じ込めたが、処理するのにかなりの時間がかかっているように見えた。
「終わりましたよ?メチルさん。」
下から上を見るような形で尋ねてみたら、結界が割れ、結界の外で口を大きく開け、号泣していた。