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1 竜

元セグナル帝国領の付近に位置するそこそこ大きめの街、『モルエア』の街門に中性的な見た目をした人が立っていた。

モルエアに入るためには通貨が必要ということを知らなかった男は立ち悩んでいた。

どこか抜けている、そんな顔をしていて、黒い髪にところどころ銀色の髪が見える男は誰がどう見てもただの一般人にしか見えなかった。

道端で立ち尽くしていると、街門で通行料の確認をしていたおっさんが男のことを怪しんだのか、歩いてきた。


「おいおい、あんた、結構前からこんなとこに立っててよぉ、何してるんだ?」

「......んぁ、あぁお金持ってないんですが、どうやってこの街に入ろうか悩んでましてねぇ。」

「あー、金なしか。ちなみにこの街で何かやりたいことでもあって来たのか?」

「えぇ、ちょいと前に故郷を出てきたので前やってた防衛の経験を活かして、冒険者にでもなろうかと思ってぇ、ここにとりあえず来ました。」

「冒険者志望かぁ。うん、あんたそこそこ良い体つきをしているな。おっとそうだった、身分証とか持ってるか?」

「身分証はないですねぇ、無一文で故郷を出てきたもんでぇ、すみませんね。」

「うーむ、悪そうなやつには見えないしなぁ、.........よし決めた。冒険者になって出世払いでいいからとりあえず今日は街に入りな。」

「え、いいんですか。」

「あぁ、俺の名前はレモイ、この街生まれの門兵だ。あんたの名前は?」

「名前は......ウェルです。レモイさんよろしくお願いします。」

「冒険者になって絶対金払いに来いよ?忘れたら即刻追い出すかな。」


まさかの出来事で街に入ることが出来たウェルは夕日が沈みかけていた頃、宿屋を見つけしばらくの間そこで暮らすことにした。

もちろん宿代もレモイさんの名前を使って、後払いにしてもらった。

二階にある廊下の突き当りを曲がったとこにある部屋に暮らすことになった。

中には椅子と机、鏡にベッド。

必要最低限の物があった。

鏡を見てみると、何とも言えない顔をした自分がいた。

人間の体を模倣して創ったこの体には睡眠、食欲が必須らしい。

初めての食事をするので今日の夕飯が非常に楽しみだ。

人間には便利な感情というものがある。

これなしでは生きられないだろう。

そんなことを考えながら椅子に座ろうとしていたら、廊下のほうから呼び鈴の音が聞こえてきた。

夕飯の合図らしい。

わくわくしながら部屋を出て、食事処の席に座った。


「あ!初めまして。わたし、この宿でママのお手伝いをしてるカリナです。よろしくお願いします!」


とことこ走りながら身長の低い女の子が自己紹介してきた。

さきほど受付をやっていた女性にやや似ている。

厨房のほうでは大柄な男が調理をしているのが見える。

親子で経営しているのか、と思っていたら、料理が運ばれてきた。


「お兄さんのお名前はなんていうの?」

「んぁ、僕の名前はウェル、しばらくの間この宿にお世話になるから、よろしくね。」

「カリナ、食事の時間だ、あまりはしゃぐなよ。」


両手に料理を持った、額に傷のある男がいた。


「だってぇ、久しぶりのお客様でぇ、カリナ嬉しいんだもん!ね、パパ。」

「そういうことは大きな声で言うな、俺に効く。」


そういって、目の前には結構な量の食事が置かれた。

初めての食事。

全部見たことのない物にただただ感動していた。


「まぁ見ての通り、客はあんただけだ。この頃客足が遠のく街全体としての問題が発生してな、そんな中わざわざこの宿に泊まってくれるのは非常に嬉しいんだ。

いつもよりちょっと奮発して作っちまったがいっぱい食べてくれ。」


香ばしいソースに包まれた肉を口になかに運び、かみしめると熱い肉汁に味わったことのない美味しさでいっぱいになった。

黄色い液体のスープを一口飲むと、様々な野菜が融合してできた奇跡が存在していた。

その他にも表現できないような美味が多くあり、一つ一つかみしめ、バクバク食べていくとあっという間に完食してしまった。


「おぉ、作った身としてこんなに美味しく食べてもらえるのは最高だな。」

「全部どれも美味しかったです。これを体験できた僕はとても幸せ者です。」

「お、おぉ、そうか。なんだか照れるな。」


ちょっとした会話をして大満足したので宿にある風呂に入った。

風呂で正直何をすればいいのか分からなかったが、とりあえず全裸になって溜まっていたお湯を体にかけた。置いてあった柔らかいタオルで水分を拭き取り、服を着て自分の部屋に戻った。

今日のところはこれ以上特にやることもないのでそそくさとベッドに入り、布の温かみを感じながら、初めての睡眠を行った。

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