プロローグ ~かつての栄光~
セグナル帝国、北東に位置する、ウェグルナードン山脈に誰もが知る未踏の地が存在していた。
神々が住んでいた神聖な土地だ、だとか、悪魔のせいで穢れた不毛の地である、だとか様々な噂が広がっていた。なぜなら、そこには不可視の結界が張られていたからだ。
その結界のせいで、入ることができなかった。
逆にその結界を利用して、帝国は祭りを開いた。
帝国にある不思議な地を開拓した者には、究極の褒美を与える、と皇帝は言った。
力のある剣士や結界術に長けた結界師、魔法、魔術関連に強い帝国宮廷魔導士など有名な人々が訪れ、その結界を壊す、伝統的な祭りが開催されていた。
祭りの影響で、商業活動には潤いが生まれ、人々の生活の質が向上していった。
初代皇帝、ロード・セグナルはこの祭りを【綺羅星祭】と名付けた。
最初の祭りは天煌めく、星空の中皇帝が一本の剣で結界に斬りつけたことで始まった。
皇帝は剣の世界でも、政治の世界でも有名な男だった。
そんな皇帝の剣術は凄まじく、不可視の結界は赤黒い光を放ち、剣にひびが入り、折れたことで衝撃は収まった。
不可視の結界に微かだがひびが入り、空間に線が入ったかのような結界になった。
それ以来、そのひび目掛けて攻撃を行い、何年、何十年と祭りが続いていった。
百周年を迎えようとするある年の祭りの日、祭りの関係者は目を見開き、その光景に絶句していた。
ひびには初代皇帝が所持していた刃折れの剣、その折れた先端が突き刺さっていた。
しかもその周囲からはただならぬ量の魔素があふれ出し、魔素に耐性のない一部の者は体調が悪くなるという弊害が発生していた。
祭りが始まるまで残り少ない時間、関係者は事態を収束するべく、何を血迷ったか刺さっていた剣を抜こうとした。
その時、不可視の結界は薄黄色に光り、剣は抜け落ちた。結界は卵の殻が割れるようにあっけなく割れてしまった。
その瞬間莫大な量の魔素が解き放たれ、あっという間に帝国中に広まり、民たちは濃い魔素の中に包み込まれた。
百周年の神聖な祭りは、帝国が飲み込まれる不吉な日となってしまった。