番外編 雷雨の夜(中編)
「あの、そんなところ汚いから……っ」
図書館に行く前に入浴はすませたが、口で触れるような箇所ではない。
シャロンが激しく動揺していると、クライヴは艶やかに光る瞳でシャロンを見た。
「お嬢様の身体は、すべて美しく綺麗です。それに甘い味がしますね」
甘いのはミルクに砂糖が入っていたからだろう。つま先に口づけられ、シャロンは耳まで真っ赤になる。
「……っ」
彼はミルクを拭い取ると、ふくらはぎのマッサージを再開した。シャロンはどぎまぎして、目が泳いで仕方なかった。
「ええと……クライヴ、もういい……」
全身に熱を感じ、くらくらしてしまう。
「痛いですか?」
シャロンはかぶりを振る。
「とても気持ち良いのだけど、もういいわ。ありがとう」
快すぎてなんだか怖いくらいだった。シャロンは吐息をついて立ち上がり、窓辺に寄った。
さっき雷が鳴ったので、カーテンを閉めようと思ったのだ。
瞬間、窓の外で稲妻が走り、シャロンがカーテンを掴んだまま凍り付けば、クライヴが後ろから手を重ねてカーテンを閉めた。
覆いかぶさるような、抱きしめられるような形で、彼のぬくもりを背に感じる。
シャロンが後ろを振り返ると、ひと際大きな雷鳴が轟いた。シャロンは怯えてクライヴの胸に顔を埋める。
「お嬢様」
クライヴはシャロンを落ち着かせるように背をそっと撫でた。
「ここには雷は落ちませんよ」
引き締まっていて厚い胸板だ。
「そんなことわからない。落ちるかもしれないわ」
雷が苦手であるシャロンが震えて反論すれば、クライヴは苦笑した。
「心配ありません。万一落ちれば、俺がお嬢様の代わりに雷を受けます」
「それじゃ、あなたが怪我しちゃう、駄目よ」
クライヴはシャロンを強く引き寄せた。
「俺の心配をしてくださるのですか」
「もちろん、あなたは私の大切な従者だもの。心配する」
シャロンが顔を上げると、間近にクライヴの端麗な顔があって。
以前、雷が鳴ったときも彼にしがみついた。あのとき一瞬唇が重なったような気がしたけれど。
(……あれは気のせいよね?)
雷が怖いからか、唇が触れそうな距離にクライヴがいるからか、シャロンはどきどきと心臓が強く音を立てる。
「お嬢様」
クライヴのラピスラズリの双眸が光った。
「──先週、ライオネル様に呼び出されて、生徒会室に行かれましたよね?」
「え?」
確かにシャロンは先日、ライオネルに呼ばれて生徒会室に行った。生徒会の用事ではなく、ただ会いたかったと、ライオネルに言われて。
その帰り、シャロンは階段から足を踏み外しそうになりクライヴに助けられた。
クライヴがいなければ、前世と同じく命を失っていたかもしれない。
「生徒会室であのかたにキスをされたのですか?」
クライヴは、シャロンの唇に人差し指と親指で触れた。
(クライヴ……?)
シャロンはかぶりを振る。
「いいえ……」
「抱きしめられたんですか」
ライオネルに抱擁され、キスされそうになった。シャロンは心臓がもたないと思い、慌てて生徒会室を飛び出したのだ。
そのときのことを思い出していると、外で雷光と同時に爆発するような音が響き、シャロンはパニックに陥った。
「きゃあ!!」
悲鳴を上げ、その場から逃げようとして、目の前にいたクライヴに衝突して彼共々、床に倒れてしまった。
シャロンはクライヴがクッションになって何ともなかったが、彼は衝撃を受けただろう。
「ごめんなさい、クライヴ……!」
「俺は平気ですが、お嬢様、痛いところはありませんか?」
ふくらはぎが再度こむら返りを起こしていた。
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