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54.何かあれば


「お嬢様に、大変なことを頼んでしまいました」

「相手の気持ちに応えられないのなら、君が相手にそう告げればいいだけのことだ」

「極力接触するべきではないと。それでお嬢様にそんなことをお願いしてしまったのです。本当に申し訳ありません」

「キスの真似事もしたと?」

「実際にはしておりません」

「当然だよ」

 

 もししていたら、この男を始末するところだ。


「シャロンをおかしなことに巻き込むな。シャロンは将来の王妃で、僕の妻になる令嬢だ」

「はい」


 目を伏せていたクライヴはふっと視線を上げ、ライオネルを見た。


「お嬢様は、ライオネル様と、結婚することはないとおっしゃっていましたので」

 

 ライオネルは耳を疑った。


「なんだって?」


 クライヴは小さく肩を竦めた。


「今話題に出た少女とライオネル様が結ばれると、お嬢様は思っていらっしゃって」


 そういえばそんなことをシャロンも話していた。

 あの少女にライオネルが惹かれただろうと。

 ライオネルはシャロンが好きだ。他の異性など目に入らなかった。

 それは嘘偽りのない気持ちだ。


「なぜシャロンはそんなことを」 

 

 どうしてそんな心配をするのかわからない。

 彼女に心配をかけるような言動をとった覚えはなかった。

 クライヴはどこか意味深に間を取る。


「……いえ。俺にも理由はわかりかねます。その少女に魅力があるようには思えませんし」


 しかし何かを知っているかのような口ぶりだ。


「理由は?」

「存じ上げません」

「本当は知っているんじゃないのか?」

「…………」


 クライヴは吐息をおとす。皮肉が滴る声音で言う。


「ライオネル様。あなたは王太子殿下。でもそれは、国王陛下の姉君がお亡くなりになったからこその身分です。もしご存命なら、そのかたが王位に就いていました。女王陛下に子がいれば、その人物が王太子でした」


 なぜ彼はこんな話を。

 話が飛躍し、ライオネルは呆気にとられる。


 ライオネルの伯母は病が悪化したあと、離宮で過ごしていた。

 魔族と通じ、しかも相手は魔王で、その者の子を孕み、秘かに産んで離宮で育てていた、と父と生前の祖父が話しているのを幼少時ライオネルは耳にしたことがある。

 

 だがそれは聞き間違いだと認識している。

 どう考えてもあり得ないことだ。

 

 この国は男女関係なく第一子が王位を継ぐ。

 伯母が他界したあと、王位継承順位の一位は父になった。

 ライオネルはクライヴを睨む。

 彼は静かに佇んでいる。どこか挑むような眼差しである。


「君は何者なんだ」

「ただの使用人です」

「デインズ公爵家で勤める前は、何をしていた?」

「田舎で暮らしていました。親が亡くなるまで」


 伯母の子が存在していたとすれば、今のクライヴくらいの歳である──。


「君は……伯母の子なのか?」


 自分で言ったあと、馬鹿馬鹿しいと思った。

 そうであるはずがない。

 祖父らの話を偶然聞いたとき、自分はまだ子供だったし、記憶も朧気。

 本当に伯母が子供を産んだかもわからないというのに。


(僕は何を尋ねているんだ)


 しかし。


「そうだとしたら?」


 冷ややかな笑みを唇に浮かべ、クライヴはそう返した。

 瞬間、ライオネルは鞘を払い、彼の喉元に剣を向けた。

 顔色を変えず、クライヴは微動だにしない。

 冷静すぎてそれがまた奇妙だった。恐怖で動けないというのとも違った。


「……伯母が魔族の子を産んだと以前聞いたことがある。聞き間違いだと思っていたが。もし事実で、その子が君だとすれば、君は半魔だ」


 王家に代々伝わる剣は、魔族に触れれば、色が変わる。

 これで確認すれば一目瞭然だ。

 彼の首筋に剣身を当てれば、果たしてそれに黒色が流れる。

 瞠目するライオネルを前に、クライヴは口の端を上げた。


「そう、俺はあなたの伯母の息子で、本来なら今、王位に就いていたはずの者」


 ライオネルは喉を鳴らし、クライヴを凝視する。


「なぜデインズ公爵家にいる……!?」

「さて、なぜでしょうね」


 煙に巻くような言い方に、ライオネルは声を荒げた。


「ふざけるな! シャロンに危害を加えるつもりなら……!」

 

 魔王の子、半魔がずっとシャロンのそばについていたのだ。

 知らなかったとはいえ、とんでもない状況だ。


(シャロンに何かあれば)


 自分は生きてはいられない。


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