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53.僕の婚約者


「……?」

「つまり君は嫉妬してくれたってことだね?」 


 嫉妬とは少し違うけれど……。

 彼はヒロインと結ばれると、シャロンは諦めの境地だったから。


「本当に、彼女に何も思わなかったんですの……?」


 ゲームでのことを知っているだけに、どうしてと感じるのだ。

 彼は深く首肯する。


「君以外の異性を僕は何とも思わないよ。他のひとにはまったく目がいかない。僕は君に惹かれているから」

 

 ライオネルは腕を伸ばしてシャロンを抱擁した。


「嬉しい。嫉妬してくれて」


 彼の天空色の瞳が甘やかに輝く。

 シャロンは頬が上気する。


「数年前から、嫉妬の感情なんてまったく見せてくれなくなったから……。君は僕のことが好きではないのかもしれないと、不安に思っていた」


(……ライオネル様のこと、好きだわ)


 初恋相手で、ずっと好きだったが。

 彼はシャロンを抱きしめる腕を強くした。


「可愛いね。意地悪するのはいけないことだよ。けれど今の君がすることなんて、きっと大したことではない。僕は君が好きで君しかみていないんだから、何も心配することなんてないよ」


 シャロンはきゅんと胸が甘く締め付けられる。


「ライオネル様……」

「僕のことが好き?」

「……好きです」

 

 どうしよう。

 大好きで。

 この状況に混乱しつつ、幸せに包まれてしまう。


「君は彼女からクライヴへの恋心を聞いて、どうしたの?」


 一転シャロンは焦りを覚える。

 彼がシャロンの説明を待っているので、仕方なく答えた。


「……クライヴと付き合っているフリをしましたわ。彼女の想いに応えらないということだったので。わたくしたちを目撃すれば諦めてくれるだろうと」


 彼はシャロンから腕を解き、唖然とシャロンを見た。


「クライヴと恋人のフリをしたの? いったい、どういうことをしたというの?」


 詰め寄られて、シャロンは小声で告げた。


「放課後の教室にふたりで残って、キスしているフリを」


 ライオネルは表情を変えた。


「キスしているフリ? かなり至近距離になるよね?」

「あくまでフリですわ」

「なぜ、そこまでして彼女を諦めさせる必要がある? 別に何もしなくてもいいだろう? 僕は納得できない」

「彼女に新たな恋に向かってもらいたかったのです」

 

 ゲームがハッピーエンドになるように。


「実際、彼女は幸せになったようだけど……。僕は君に、違う男と恋人の真似なんてしてもらいたくないよ」

「もうそんなことしませんわ」

「絶対に」

「はい」


 ライオネルはまたシャロンに腕を回した。


「今日はもう大広間に戻るのはやめよう」

「……え?」

「このまま今夜はずっとこうしていたい。今の話を聞いて、不安になってしまったよ。ここで僕と過ごしてほしい」

 

 シャロンも彼といたい気はしたが。


「冷えるから、入ろう」


 そう言ってライオネルはパニックになっているシャロンに羽根布団を掛け、自分も中に入り横たわった。


「今日はこうして休もう?」

「で、ですけれど……」 

 

 鼓動がとてつもなく早く打ち付けている。


「大丈夫、何もしないよ。結婚前だものね」


 彼はシャロンの髪を指でやさしく梳いた。


「ただ君と一緒に過ごしたいだけだ」


 あたたかなぬくもりの中で抱きしめられ、どぎまぎしたけれど、安心もした。

 瞼を閉じ、しばらくしてシャロンは眠りにおちた。




※※※※※※




 シャロンが眠ったあと、ライオネルは剣の柄を掴んだ。

 部屋を出ると、廊下にシャロンの従者であるクライヴが控えていた。

 探す手間が省けた。


「お嬢様は」

「僕の寝台で眠ってるよ」

「……そうですか」


 クライヴは直立不動で、唇を閉ざす。


「君に話がある。来い」

「かしこまりました」


 ライオネルはクライヴを連れ、屋上に向かう。

 夜空には星が瞬き、大広間から華やいだ音楽が聞こえてくる。


「シャロンと、恋人のフリをしたのか?」

 

 ライオネルは後ろを振りむいた。

 顔立ちの整ったクライヴは、無表情で立っている。

 この男はシャロンと何をしたのだ。

 はらわたが煮えくり返る。


「君を好きだという少女を諦めさせるために、シャロンを利用したのか」

「お嬢様に頼みました。クラスメートの少女が俺に好意をもったということで。諦めてもらうために」

「シャロンは僕の婚約者なんだが?」


 ライオネルは拳を握りしめる。


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