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46/59

46.ストーリーが


 彼はもう一度言った。


「俺が好きなのは、お嬢様です」

「え? わたくし?」

「そうです」


 シャロンは呆気にとられた。


「俺はどうやらお嬢様のことが、好きなようなのです」

 

 まっすぐ見つめられて告げられ、シャロンは驚きすぎて、何も言えなかった。

 すると彼はシャロンの耳元に唇を寄せ、ささやいた。


「今ヒロインが、廊下からこちらを見ています。俺のことを諦めてもらい、攻略対象の誰かに恋をしてもらうために。合わせていただけますか?」


 ちらりと廊下に視線を流せば、確かにそこには立ち竦んでいるドナの姿があった。


(そういうことなのね)

 

 ヒロインが、クライヴと結ばれないのなら、彼女には他の相手に目を向けてもらわなければならなかった。


「わかったわ」

「申し訳ありません」


 小声でクライヴと会話を交わし、クライヴはシャロンに顔を寄せた。

 重なり合いそうな距離で、吐息が触れる。

 瞬間、彼はシャロンを抱き締めた。


「すみません。もうしばらく我慢してください」


(え──)

 

 彼の男らしく爽やかな香りと、身体に包まれ、シャロンは硬直する。

 廊下で悲鳴が上がり、ぱたぱたと駆け去っていく足音がした。

 ヒロインが去ったのだろう。

 クライヴはシャロンから身を離した。


「申し訳ありませんでした。俺に合わせていただいて」


 シャロンは首を横に振った。


「いいえ。びっくりはしたけれど、わたくしの命と世界の運命がかかっているし、構わないわ」

 

 これからヒロインは、攻略対象に目を向けるだろう。


「お嬢様、ヒロインは絶対に攻略対象と結ばれないといけないのですか?」


 彼の双眸が艶やかに煌めき、シャロンはどきっとした。

 先程、唇が触れそうな距離まで近づいた。

 シャロンとクライヴがキスしているとドナは思ったことだろう。 

 可哀想だが、この先彼女には素敵な恋が待っている。


 シャロンは顎に指を置き、思考を巡らせる。


「攻略対象でなくても、魔王を倒すことができる相手であれば、大丈夫かも。大切なのは魔力を持つ相手と、相思相愛になることだから。愛の力で魔王を倒し、世界は救われるわ」


 クライヴは首肯した。


「そうですか。俺に恋をしたのが、彼女の荷物を拾ったからだとすれば、同じシチュエーションを作ればいいです」

「え? きっかけはそれかもしれないけれど、それだけじゃないと思うわよ? なぜあなたに恋をしたかといえば、あなたのやさしさプラス、その外見よ」

「やさしさと俺の外見ですか」

「うん」


 攻略対象さえも超えそうな極上のビジュアル。

 成長してさらに際立った。


「あなたの見た目が優れ過ぎていて、性格が良いせいね」


 それでヒロインは、ライオネルと出会っても、心ここにあらずになってしまっていたのだ。


「そんなことありません。俺はそんな大層なものでは」

「大層なものだわ」

「そうおっしゃってくださるのは、お嬢様だけですよ」

「わたくしだけではないでしょうに」


 現にヒロインが出会ってすぐに、恋に落ちているではないか。

 シャロンは、はあっと溜息を吐き出した。

 こんなイケメンを、ゲームの舞台に置くべきではなかった。

 

 九歳のとき彼を公爵家で雇ったのを、シャロンは悔やんだ。

 ストーリーが、くるいはじめている気がしてならない。


「見目麗しいことを自覚しておかないと、今後大変なことになると思うわよ、クライヴ」


 彼は苦笑いする。


「彼女は入学し、心細かったとき俺に目を留め、理想化しただけですよ」


 彼はそう語るが、シャロンは納得できない。

 もし荷物を拾ったのが、他のふつうのひとだったら、きっと恋までしていない。


「魔法学校は魔力保持者ばかりです。攻略対象でなくても良いのなら、違う相手を彼女はすぐ見つけるでしょう」


 攻略対象と並ぶ美貌を持つのはクライヴくらいだろう。

 次こそヒロインは、攻略対象と恋に落ちるだろう、とシャロンは想像するのだが。


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