表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/59

31.警告


 ゲームをクリアしたし、実際この世界にいて見ていればわかる。


「わたくしはライオネル様の婚約者で、弟君のアンソニー様と会う機会もありますし、接していますから」

「ふうん」


 ライオネルの表情が強張る。機嫌がなぜか悪い。


(やっぱりアンソニー様と大きなケンカをされたのかしらね……?)


「いったいどうされたんですの」

「何が?」


 シャロンは横に座るライオネルの頬を、両手で挟んだ。

 ライオネルは目を白黒させる。


「シャロン?」

「いつもと違いますわ」

「どう違うの?」

「意地悪な顔つきになっていますわよ」


 険がある。

 こういう表情は、悪役令嬢の専売特許だ。

 メインヒーローのする表情ではないだろう。

 きっとアンソニーと仲違いしたのだ。それでいつもと違う。


「仲良くなさってくださいませ」


 シャロンはエディにお説教するようについ言ってしまった。


「君は、僕と弟に仲良くなってほしいの」

「ええ」


 ケンカ中なら、仲立ちをしたい。


「僕と弟の仲を慮るより、君は僕との仲を深めるべきじゃない?」

「わたくしたちは仲違いしておりませんわ?」


 ライオネルはシャロンの手を掴む。


「もちろん僕たちは仲違いなんてものをしていないけれど、関係性が深まってもいないよね」

「今日草原に行きましたし、この間、街にも出掛けました。よくお会いしていますわ?」


 すると彼は皮肉に笑った。


「キスもしていない」

 

 草原でのことを思い出せば、シャロンは頬が染まる。


(頬にキスされたけれど……)


 ゲームの中ではなかったことだ。


「わたくしたちのことと、ライオネル様とアンソニー様のことは別ですわ」

「僕は別だとは思わないけどな」


 彼はふっと目を逸らせた。


「わたくし、ライオネル様にアンソニー様を大切にしていただきたいですわ。どうか仲良くなさってください」


 彼らは、ただひとりの兄と弟なのだから。

 ライオネルは口を噤み、少ししてから吐息を零して頷いた。


「……そうだね。君に心配をかけることを、僕は望まない。弟と仲良くする」


(よかったわ)


「やっぱりケンカなさっていたのですね?」

「ケンカというものでもないけれどね」

 

 シャロンは安堵して、笑顔になった。




※※※※※




 アンソニーは暗い気持ちでいた。

 シャロンは自分が贈ったのとは違う髪飾りをしていた。

 精巧で見事な品だった。


 アンソニーがプレゼントした、おもちゃのような代物ではないが、蝶を象ったのは同じ。

 それを兄はシャロンに贈った。

 あてつけや警告のように感じた。

 



 翌日、アンソニーはライオネルに呼び出された。

 戦々恐々としていれば兄に、剣合わせをしようと誘われた。

 アンソニーは兄と庭園に出、剣を交えることになった。


「僕は昨日、話しただろう。髪飾りを落としたと」

「……はい」

 

 兄の剣は重かった。


「本当は故意に壊して処分した」


 そうかもしれない、とは想像していた。

 だがはっきり告げられて動揺し、動きが鈍る。

 ライオネルはためらうことなくアンソニーの剣を弾き飛ばした。


「…………っ!」


 衝撃で、アンソニーは倒れた。

 兄はアンソニーの傍らに立つ。


「心は自由だ。誰にも縛ることはできない。僕も縛りはしない」


 ライオネルは氷のような冷たい目をしていて、アンソニーは肝が冷えた。


「責めないよ。たとえ、おまえがシャロンに特別な感情を抱いているとしても」


 アンソニーはどきりとした。

 ライオネルは肩を竦める。


「おまえが、越えてはならない一線を越えるとは思わない」


 倒れたアンソニーに、ライオネルは手を差し出す。

 アンソニーはライオネルの手を取った。


「……申し訳ありません、兄上」


 アンソニーは立ちあがる。謝ることしかできない。


「いちおうはっきりさせてはおこう。おまえ、シャロンのことが好きだな」


 アンソニーは自分の気持ちがよく掴めなかった。

 それでわかる範囲で話した。


「……好きか嫌いかでいえば、好きです」


 ライオネルは口の端を持ち上げる。


「好きか嫌いかでいえば、か」


 アンソニーのなかでシャロンは重要な位置付けである。

 関心はあるが、恋愛のそれとは違うはず、だ……。

 将来、兄と結婚する相手なのだから。


 それで重要視し、気になっているだけ……。

 彼女を好ましく感じているのも、それでだ。

 自分が最も大事に思うのは、将来の王、ライオネルである。


「おまえにとって僕とシャロン、どちらの存在がより大きい」

「兄上です」


 ライオネルは剣先をアンソニーの喉に向ける。もう少しで刺さる距離だ。

 アンソニーは脂汗が滲んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢奮闘ラブコメディ
闇の悪役令嬢は愛されすぎる


悪役令嬢、溺愛物語
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ