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乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです  作者: 葵川 真衣


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18.光2


 暗い雨のなかで、よく見つけてくれた。クライヴに感謝しつつ、洞穴まで行った。

 雨足が強まる。

 白くけぶる外の景色を見、シャロンは遭難してしまったのかもと感じる。

 

 魔力はあれど、うまく使いこなせない。

 今ここで役立つ魔術など持ち合わせていなかった。

 嫌な予感が胸をよぎる。


(……ゲームがはじまるまでもなく、わたくしひょっとしてここで亡くなってしまったりして……?)


 血の気が引く。

 危ないからと廃屋に行くのを止めていたエディの言葉を聞いておくべきだったかもしれない。

 シャロンは膝を抱え、呟いた。


「ここで死んじゃうのかしら」


 それを耳にしたクライヴが緩くかぶりを振った。


「いいえ、そんなことにはなりません」

「そうかしら……?」

 

 地獄が待ち受けている将来を知っても、生き残ろう、と決意した自分は、基本的に楽観的で能天気だ。

 だが今、死をすぐそばに感じている……。

 

 冷ややかな雨はざあざあ降ってやむ気配はないし、寒いし、お腹は空いているし。眠気も感じてきた。

 シャロンは目を擦る。


「……わたくしの呪われた運命に、あなたを巻き込んでしまったのかもしれないわね……」

「呪われた運命?」


 断罪される悪役令嬢に転生していた時点で、呪われているようなものだ。

 恐ろしい運命に、他人を巻き込んでしまった。

 そうならないよう、気を付けようと決めていたのに……。

 寒さとショックで、ふるふると震えてしまう。


「どういうことなのですか?」

「ううん、なんでもない」


 シャロンは滲む涙を拭う。

 すると隣に座るクライヴが、シャロンの手に触れた。

 シャロンはクライヴを見る。


「クライヴ?」


 彼はぎゅっと、あたためるようにシャロンの手を握りしめた。


「どうかお話しください。いったい、何を隠してらっしゃるのです?」


 シャロンは視線を逸らし、俯いた。


「わたくしは何も……」


 クライヴは憂いに満ちた瞳で訴える。


「お嬢様。もしここで俺たちが亡くなるのであれば、吐露しても構わないでしょう。秘密を抱えたままではなく、話したほうがきっと気持ちもラクになりますよ」

 

 そうかもしれない……とシャロンはぼんやり思った。


(わたくしまた亡くなってしまうのね)


 また転生するのか、それともこれで終了なのだろうか?

 転生するなら、今度は呪われた人生でなければいい……。

 シャロンは吐息をおとした。


「実はね」

「はい」

「わたくし、二度目の人生なの、今」

「二度目の人生? それはどういうことでしょう?」


 シャロンは遠い目をした。


「エディが聞いたら、『姉様は夢を見たんですよ』と笑うだろうけれども」

「俺は笑ったりしません」


 シャロンは目元の涙を拭い、真実を告げた。


「わたくし、今とは違う人生を十五年間送っていたの。こことは異なる世界で」


 日本のフツーの女子高生であった。


「そこで転落事故で亡くなって、転生して」

「……転生?」

「ええ。王宮の階段から落ちたとき、気づいたのよ。ここは以前、わたくしがプレイしていた乙女ゲームの世界だと。その中のキャラに転生したんだ、って」


 クライヴは首を傾げる。


「乙女ゲームというのは……」

「女子が好む恋愛ゲームよ。ライオネル様もアンソニー様もルイス様もエディも皆登場していたわ。あなたは登場していなかったけど」

「ゲームの世界」

「そう。ちなみにわたくしはゲームで悪役令嬢で。ルートにより死亡したりね、よくて国外追放になる、とっても悪いキャラなの」


 シャロンはすべてをクライヴに話した。

 どうせ亡くなる、支障ない。

 クライヴは理解できないようで、表情を失っていた。

 シャロンは洞穴の天井を仰いだ。


「今度も転生するのかしら」

「終わりはしませんよ、お嬢様」

「でもこのままだと、あなたもわたくしも亡くなってしまうわ」

「亡くなったりしません」

「あなたを巻きこんでしまって、ごめんなさい」


 たいへん申し訳なく思う。

 そのとき、洞穴の奥がぼんやりと明るく輝いた。


「?」


(何かしら)

 

 気にかかり、立ち上がってふたりで光に向かってみた。

 近づくにつれ、それが廃屋でみた、魔力の残滓であることがわかった。


「廃屋で見たものだわ!」

「そうですね」


 近づこうとするクライヴをシャロンは止めた。


「クライヴ、近づかないほうがいいんじゃない?」


 あの光によって、飛ばされたのなら、また触れれば戻れるかもしれないけれど、もっと辺鄙な場所に飛ばされてしまうかもしれない。

 シャロンはクライヴの手を取って、引き留める。

 

 しかしその青い光はこちらに向かってきて──。

 びりっという感覚がし、シャロンの意識は暗闇に落ちていった。


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