17.光1
「もう、姉様……!」
エディは青ざめ、シャロンに続く。
ランタンを持ってきていたクライヴが、中を照らしてくれる。
「お嬢様、暗いので足元にお気をつけください」
「ありがとう、クライヴ」
廃屋に入ると、家具がみえた。
どれも品あるものだ。
かなり身分のある者の屋敷だったのだろうと察せられる。
が、分厚いカーテンが窓にかけられているため中は暗く、重厚な家具が、余計怖さを増幅させる。
すると突如声がした。
「おい」
(!?)
「きゃあ!」
「わぁあ!」
シャロンとエディが悲鳴を上げれば、そこにいたのはルイスだった。
ルイスは嫌な顔をした。
「姉弟で馬鹿でかい声を出すな。驚くだろう」
「お、驚いたのはこちらですわ、ルイス様……!」
「驚かさないでくださいっ!」
肝が冷え、シャロンとエディが手を取り合えば、ルイスは鼻白む。
「驚かせようとしたわけではない。先に入っていたのを見ていなかったのか?」
突然暗がりから声をかけるのはどうだろう。
「魔力の残滓があるのは、こちらだ。来い」
「はい……」
ルイスはマイペースである。
シャロンらは彼について廊下を歩き、一階奥の部屋まで行った。
開いたままの扉の前で立ち止まる。
室内の中央には、青白く光る何かが見えた。
「あの光は何です?」
エディの問いにルイスが吐息交じりに返す。
「あれが魔力の残滓だ。魔力を持つ者にしか見えない。観察だけして、触れるのはやめておいたほうがいい」
「魔力を持つ者にしか……」
エディはクライヴに視線をやる。
「見えるか、クライヴ?」
「はい」
「前に立ってみろ、触れなくてもいいから」
シャロンはエディを嗜めた。
「エディ、やめなさい」
触れるのはやめたほうがいいとルイスが止めたし、きっと近づきすぎないほうが良いのだ。
「でも本当にクライヴが魔力の持ち主か否か、これでわかるでしょ、姉様」
「前にはっきりしたじゃないの」
「何かの間違いということもありえますよ。ぼくずっと疑問をもっています。ほら、クライヴ」
「わかりました」
クライヴは承諾し、青い光に近づく。
シャロンは心配になり、クライヴと一緒に室内に入った。
エディがぎょっと目を見開く。
「姉様、いけません、危ないのに!」
危ないと思うところに、エディはクライヴを近づけさせたのだ。
なぜか義弟はクライヴをよく思っていない。
(別荘に帰ってからエディにお説教しなきゃ)
シャロンはクライヴと並んで、青い光の前まで行った。
クライヴは目前で足を止める。
やはりはっきり見えているのだ。
シャロンはクライヴの手を取る。
「クライヴ、離れましょう」
余り長く、残滓のそばにいないほうがいいだろう。
そのとき、青い光がこちらに向かってきた。
それがクライヴの身体に触れ、彼の手を掴んでいたシャロンは、痺れるような感覚を覚える。
「……っ!?」
「姉様!?」
身体が揺れ、クライヴに抱きとめられ、シャロンは意識を失った。
◇◇◇◇◇
瞼を持ち上げると、傍らに目鼻立ちの整った少年がみえた。
アッシュブロンドの髪、ラピスラズリの瞳、高く通った鼻、口角の上がった唇。
「……クライヴ」
「お嬢様、大丈夫ですか」
シャロンはクライヴの腕に抱えられていた。
シャロンは混乱する。
「いったい……?」
何があったのだろう。
「お嬢様は倒れられたのです。俺を通して、たぶん魔力の残滓に触れてしまって」
(そうだわ……)
青い光が向かってきて、彼の手を掴んでいたシャロンは痺れを感じ、意識を失ったのだ。
「クライヴは大丈夫?」
「はい」
「よかった」
クライヴは心配げに問いかける。
「お嬢様、身体に異変は?」
「平気、何ともないわ」
「安心しました」
彼はほっと息をついた。
シャロンは辺りを見回す。
今いる場所は先程の廃屋ではない。草木の生い茂る森だった。
自分は廃屋の外に運ばれた?
「エディとルイス様はどこかしら」
「気が付いたらここにいて。おふたりの姿はありませんでした」
シャロンは立ち上がる。
木々ばかりで、誰の姿も見当たらなかった。
「廃屋がないわ……」
「ええ」
エディとルイスは今も廃屋にいるのだろうか。
自分たちだけ、なぜここに。
あの青い光によって飛ばされた?
色々謎だが、突然消えてしまい、エディらは心配していることだろう。
「申し訳ありません。俺のせいです」
クライヴはシャロンに謝罪した。
「クライヴのせいではないわ」
彼に何も責任はない。
「あの青い光によるものかしら。とにかくルイス様たちと落ち合わないと。廃屋を探しましょう」
「はい」
シャロンはクライヴと薄暗い森を移動する。だがあの廃屋はどこにもなかった。
しかも森深くに入ってしまい、雨も降ってくる始末だ。
クライヴが辺りを眺め、一角を指さした。
「お嬢様、あちらに洞穴がみえます。一旦、雨宿りをしましょう」




