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12.最後のひとり




※※※※※




「おまえ、胡散臭いから」


 エディがクライヴに言えば、クライヴは弱ったように眉を寄せた。


「俺、胡散臭いですか?」

「ああ。怪しいよ」

 

 義姉が王太子と消え、会場でふたりだけになったエディは、単刀直入に告げた。 

 シャロンが賊に襲われた際、義姉を助けたのがきっかけで、この男は公爵家にて勤めることになった。

 

 親戚を頼り、田舎から出てきたらしいが、油断ならないとエディは感じている。

 大貴族の使用人は、上流階級出身の者がほとんどだ。それにしたって主とは身分が違うが。

 この男は身元もよくわからない。よく雇うことにしたものだ。


「俺がお気に召さないのですね」


 クライヴは吐息をおとし、殊勝に頭を垂れる。


「父様や母様、姉様を騙せてもぼくは騙されないからな」

「俺は誰も騙そうとなんてしておりません……」


 エディは顔をしかめる。

 巧妙にうまく公爵家に入り込んだこの男に、心を許す気はさらさらない。


「あの、若様」 

「なんだ?」

 

 クライヴがためらいがちに口を開く。


「恐れながら、お嬢様に対してのお言葉なのですが。少々──」

「おまえに説教される筋合いはない!」


 エディは身を翻し、テーブルについた。

 なぜこの男の話をまともに聞かなくてはならない。

 エディは養子といっても、デインズ公爵家の跡取りだ。

 使用人の言葉など聞くに値しない。

 こんな男のことより。


(姉様が心配だよ……)

 

 自分がいない間に、何か起きてはいないだろうか……。

 気にかけていれば、それから大分経ってシャロンとライオネルが戻ってきた。

 義姉の指には包帯が巻かれている。

 エディはびっくりして椅子から腰を上げた。


「姉様、その手はどうされたんですか……!?」


 義姉は薔薇の棘が刺さった、と答えた。

 なんてことだろう。

 エディはぎりっと唇を噛む。

 自分が目を離している間に怪我をしている!


(やっぱりぼくが見ていないと……!)

 

 エディは切迫感と使命感に駆られていた。




※※※※※




 アンソニーは会場の端で、兄とシャロンがテーブルにつくのを見、眉間を皺めた。

 シャロンが妙である。


(今まで、彼女は人目を憚らず、兄上にくっついていたのに)


 兄に迷惑をかけるなと、怒鳴って注意したくなるほど。

 だが自慢げにせず、自己アピールもせず、同性を威嚇してもいない。

 どうしたというのか?


(それに……あの義弟は、なぜ鋭い目を周囲に投げているんだ……?)


 数ヵ月前デインズ家に養子に入ったエディ・デインズは、確か自分と同い年だ。

 アンソニーも人当たりが良いとはいえないが、彼もひどい。

 前は、もっとふつうにみえたが……。


 アンソニーはエディを不審に思いつつ、シャロンに視線を戻した。

 気が強そうな顔立ちであるが、美しい少女である。

 容姿も家柄もよく、年齢も合ったので兄の婚約者となった。

 

 彼女はライオネルの負担になるとアンソニーは考えていたが……。

 先程の言葉。

 ひとは皆、大切で必要な存在だと言った。

 唯我独尊だったシャロン・デインズがである。


(いったい何があった?)


 余命宣告でも突き付けられ、価値観が変わったのか。

 それなら納得できなくもない。が……それにしても変わりすぎである。

 

 アンソニーは、パーフェクトな兄の引き立て役。自分自身に価値はないと思っていた。

 それでもせめて兄を支えられる人間になりたいと。


(こんなおれでも価値があるというのだろうか。すべて兄上に劣っている第二王子のおれでも?)

 

 また彼女と話をしてみたいとアンソニーは感じた。




※※※※※




 平和な日々だ。

 シャロンは公爵家の広間で、紅茶を飲む。

 ゲーム開始まで危険なことはないはずなので、今はふつうに生活することにしている。

 気を張ってずっと過ごすのも、疲れてしまうから。


 今日は新たな魔術の家庭教師が来ることになっていた。

 シャロンは居間で待ちつつ、室内にいる人間に視線を巡らせた。

 父、エディ、クライヴ、数名のメイドがいる。

 シャロンは周囲の人間から、賊に襲われたことで考えかたが変わったと思われているようである。

 

 ライオネルからは「悩み事が?」と聞かれる。

 会う機会もやたら増えていた。

 

 義弟は心配症となり、どこへ行くにもついて来る。

 シャロンを、まるで赤ん坊のように義弟は思っている。

 

 王宮に行けば、アンソニーに声を掛けられることが多くなった。

 ゲームで日常会話を交わしているふうではなかったのだが……今はまだ話をしていたのだろうか?

 

 とにかく皆に訝しまれているのを感じる。


(絶対、この世界はゲームだなんて言ってはいけない)


 さもなくば、病院一直線である。


「魔術に造詣が深いガーディナー家に頼んでおいたから、優秀な教師がくるだろう」


 隣に座る父が言った。

 魔術の家庭教師もつけてほしいと父に相談したのだ。

 魔力も国外で有効活用したいとシャロンは思っている。




「ご無沙汰しております」


 少しして家にやってきたのは、ルイス・ガーディナーであった。


(ルイス様)


 シャロンはぱちぱちと瞬いた。

 赤の髪、モーブの瞳をした彼は、魔術に傾倒している神童だ。

 シャロンの一つ上の十歳で、攻略対象の最後のひとりである。


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