第7話 銀狼の宣言
誰もが身じろぎすら出来ず、固まっている。その場のすべての視線を集めながら歩く。
私の両脇にはハイゾラとソウガが、背後からは25頭の狼達が。
静寂が辺りを支配する中、少年が声を上げた。
「妹!!」
「っ!」
ステージ上の少女は震えながら、こちらを見ていた。私ではなく、私の後ろにいる少年をじっと見ていた少女の目が潤んだ。そして、掠れた声でぽつりと言葉をこぼした。
「……おにい、ちゃん……?」
「っ」
ダッと、少年がステージ上の少女目掛けて、走り出した。脇目も振らず、妹へ向かって一直線に。動こうとした男どもはそこだけ殺気をぶつけて動けなくする。
流石弱っていても吸血鬼だ。二メートルほど高くなっているステージ上にひょいと飛び乗った。
じゃらりと少女を縛り付けている鎖が音を立てる。震えながら上げられた少女の手を少年が引いて、その身体ごと抱きしめた。
「ごめんっ、ごめんな……っ! 俺が、もっと強かったら、みんなを守れるくらい強かったら…………っ!」
「お兄ちゃん、なの…………? ほんとに……? 夢じゃ、ないよね……?」
「ああ、夢じゃない! 逃げてごめん。けど、助けを呼んできた! これで俺達は自由だ! 母さんたちも、お前も助かるんだ!」
「っぅう……ひっく、う、わああぁぁぁんっ!」
兄に抱きしめられ、少女は堰を切ったように泣き出した。うわあぁぁぁあああっと泣く妹に、兄はさらに抱きしめる力を強めた。
……感動の再会だ。やっぱり、お互いを想い合う家族っていいな。
私たち一行が感動の再会を見守る中、一人の男が動いた。
「死ねっ、侵入者めっ!」
「――ソウガ」
――ギイィィィンッ!
「はぁ。無粋だな。少しは待て。あぁ、すまない。お前は“まて”が出来ない犬なんだな」
「っ!?」
斬り掛かってきた男の剣をソウガが受け止める。さっきまで素手だったソウガが剣で防いだことに、男が驚いたように目を見開いた。
「……その剣、何処から取り出した?」
「ハッ、それに答える必要あるか?」
男の問いを鼻で笑いとばし、ソウガは双剣を構える。同じくハイゾラも大剣を構えた。
「「邪魔はさせない」」
会場の護衛をしていた男たちを殺気で威嚇する。男たちが怯んだ隙に、私と狼たちはステージへと駆け上がった。
参加者たちが呆然とこちらを見上げる中、私は口元だけで薄く嗤ってみせた。
「揃いも揃って地下の会場で競りとは。醜い欲望が丸分かりだな。流石腐った貴族の人間どもだ」
「なっ!?」
身なりの良い奴らから怒りが見て取れた。奴らの護衛役か、会場の警護役かは知らないが、ガタイの良い男たちも集まりだす。
「おい」
「先に行け。殿は任せろ」
音もなく私の側に着地したソウガに、静かに指示を出す。
しばらくの間のあと、全員が奥へと駆け込んだ。
反射的に追いかけようとした男たちの意識を殺気で強制的にこちらへ向かせる。
硬直し、動けなくなった男たちを横目に、一人の男が私へ問い掛けてきた。……手加減しているとはいえ、この殺気を浴びても動けるのか。
「……お前は、噂の〝仮面の銀狼〟か?」
「へぇ。知っていたのか」
「……噂がある。『奴隷の居るところに現れる銀の毛並みに銀の仮面を着けた盗賊。その盗賊が盗むのは奴隷』だと」
「…………」
無言で嗤う。ジリジリと怒りが心を黒く焦がしていく。
―――ああ、本当に、嫌になる。
私の怒りに呼応するかのように、ずしりと殺気の圧が増した。
薄く嗤ったまま口を開く。
「〝仮面の銀狼〟か。これまで殆ど姿を見せていないはずだが。ならばこれを機に言っておこうか」
「……は…………?」
何を、と呟く男だけでなく、この場に居るすべての人間に宣言した。
これからも、私は、今日と同じことを繰り返すだろう。
ならば、派手に売ってやろう。無視の出来ない喧嘩を。
思い知らせてやる。
「私は奴隷という制度を赦さない」
誰も目を逸らせない。
「私は奴隷狩りを赦さない」
誰も口を開けない。
「私はこの国を赦さない」
誰も、動くことすら赦さない。
「私は、すべての亜人の味方をする。幸せになる邪魔をするのなら、相応の覚悟をしておけ」
私という、存在がいることを、忘れるな。
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