第5話 赤い珠
短めです
「……はああああ〜、一気に悩みが増えたな……」
茂みに消える狼を見送ったあと、思わず額を押さえた。ただでさえ獣人絡みの問題は多い。そこに国が関わる問題が増えてしまい、今よりももっと慎重に動かなければならなくなった。
社会を形成して生きていれば、大なり小なり関係性があって、それに悩まされる。
それは人間だけでなく獣人にも言えること。だが、人間の社会において獣人の立場は階級の最下位だ。
私も一応国のトップとはいえ、治めているのは新興国の、獣人が大多数を占める国。対する〈オリバリス王国〉は長くから続く歴史ある国家。
武力だけで言えばこちらが上だが、他国への影響力ならば相手のほうが強いだろう。
まあ、あの国とはいずれ向き合う事になっていたし、それが早まっただけか。
「はあ。王国のことは後で考えるか。今は吸血鬼たちのことだ……」
呆然としている吸血鬼の少年の方を向いて、話を再開した。
「少年。まずは疲れを落として休め。焦っても良い結果は生まれない」
「でもっ」
なお反論しようとする少年をなだめる。
「私を少しでも信じるのなら、言う通りにしてくれ。私たちは約束は違えない。必ず救うと誓った。だから、休め」
「はい…………」
「よし」
下を向いて静かになった少年の頭を撫でた。
……汚れていても分かる綺麗な白髪。まだ華奢な身体つき。
こんな子が人間の奴隷狩りの被害に遭った。
ぎり、と歯を噛み締める。……許すものか。
改めて決意し、側のふたりへ指示をした。
「ソウガは救出に参加する子に声を掛けておけ。今回は人数が多い。そこを考慮するように」
「了解」
「ハイゾラはこの子の案内を頼む。先にお風呂へ。部屋は館の1部屋を貸し出す」
「はーい」
返事をし、ソウガは町へと戻り、ハイゾラはその場に留まった。
「少年。これを飲み込め」
「え、なんですか? これ」
私が差し出したそれを不思議そうに見つめる少年。
それは赤い珠だった。直径1.5cm程の珠を少年の手に握らせた。
そして、理由を話した。
「町に入るには、これを食べなければならないんだ。変な奴が入って来ないよう結界を張っているから」
「はあ……じゃあ、飲み込めばいいんですか?」
「そうだ」
質問に答えると、彼は「わかりました」と言い、珠を飲み込んだ。それを確認し、私たちは町へと戻るべく、歩き始めた。




