第3話 少年の話2
「少年」
「はい……」
顔を上げ、じっとこちらを見る少年。
その目を同じくじっと見返す。
「君の仲間を助けよう」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!! 本当に、ありがとう、ございます……っ」
感謝の声に、涙が交じり、少年は額を地面につけ、声を押し殺し、泣き始めた。嗚咽を堪え、震える背にそっと手を添える。
「まずは、改めて自己紹介をしよう。私は〈カリヴィア連邦国〉の国王をしている。名を、スカイ・カリヴィアという」
「……え?」
先程まで泣いていたというのに、ガバリと顔を上げ、涙の筋が残る顔でぽかんと口を開けた。
それには気づかず、私に続いてふたりも自己紹介をする。
「俺は〈カリヴィア連邦国〉霊獣戦士団第一軍隊・軍隊長、ソウガだ」
「私は〈カリヴィア連邦国〉霊獣戦士団第二軍隊・軍団長、ハイゾラよ」
「えっ!?」
ふたりの言葉にさらにぱかりと口を開ける少年。
……あれ、顎、はずれないよな?
あまりにも見事な開きっぷりに、ズレた感想を抱いてしまう。
しばらくして、再起動したらしく、少年は恐る恐るといった感じで、話を切り出した。
「あなた方は、彼の国のお偉い方々だったのですか?」
その質問に顔を見合わせ、くすりと小さく笑みをこぼした。
「『お偉い方々』、かぁ……ハハッ、俺たちも大層偉い役職に就いてんだな。なあ、ハイゾラ」
「そうね。私にそんな実感はないのだけれど。やっぱり外部のひとからしたら、そうなるのかしら?」
のんびりとした口調で話す双子。間抜けな表情で固まる吸血鬼の少年。……混沌だ。
「……まあ。そういうわけだ。私たちの自己紹介は以上だ。君のことを訊いても?」
「あっ、はい。俺はケイアの里の吸血鬼の里長の息子です」
「「「ん?」」」
「え?」
今度は、4人揃って固まる。
「ど、どうしました?」
「あーいや、うん……」
「……案外上の地位だったのね……」
「……里長の息子、か。じゃあ、里長はどうしたんだ?」
ふと湧いた疑問を訊いてみると、少年はピクリと肩がはね、すうっと、視線をそらした。
そのまま、気まずそうに話し出す。
「ええと……数ヶ月前に死にました……」
「え?」
「『死んだ』?」
「どうして?」
「あー……なんというか。夜に酒を飲みすぎて酔っ払って外で寝てたら、夜が明けて太陽光浴びて灰になりました」
「「「…………」」」
予想の斜め上を行った返答に押し黙る。
そういえば、吸血鬼の弱点は太陽光だったな、と木漏れ日を見上げながら現実逃避気味に考える。
「そう、か……」
どうしてそんなことをやらかしたんだ、ケイアの里の里長よ……
遠い目になった私を気遣ってか、少年は慌てて言葉を付け足した。
「あっ、でも、凄く満足そうな表情で死んでたんです。だから、ええと、その……」
「凄く、非常に、個性的な亡くなり方をしたんだな……」
ぼそり、と呟く。
酒を飲み酔っ払い、外で寝てしまったせいで灰になる吸血鬼(満足気)
情報量とツッコミどころが満載だ……
脳内に浮かんだその情景を払い脱線した思考を戻すべく、頭を振った。
「……話を戻そうか。君の仲間は必ず助ける。出発は夕暮れ時だ。それまでにしっかりと休み、体力を少しでも回復しておくように」
私のその言葉に、少年は「えっ!?」っと驚きの声を上げた。見開かれた目が焦りを写している。
「夕暮れ時に出たんじゃ、間に合いませんっ。俺がここに辿り着くまで、1週間かかったんです!」
「「「大丈夫」」」
「っ??」
私たちは同時に断言した。それに少年は驚き、そしてじわりと目を見開いた。
「私たちの移動速度は、とても速い」
「え……? それって、どういう……」
「言葉通りだ」
私の後を、ハイゾラが続ける。
「君は吸血鬼でしょう? 吸血鬼は特別な個体を除いて、太陽光が弱点。そして、君はその弱点を克服したようには思えない。……違う?」
「いいえ……合っています」
「君がどんな手段を使ってここまで来たかは知らないけど。君が通ってきた道と、私たちが通る道は、ぜんぜん違うし移動速度も異なるのよ」
「そう、なんですね……」
俯向いた少年の背中をポンと叩いて、ソウガも理由を挙げた。
「まぁそれもあるんだけどな。あと、お前が今、体力を消耗してるからってのもあるんだぜ?」
「えっ?」
「今は夜明け。吸血鬼に取っちゃあ1番活動しにくい時間帯が始まるだろ? なら休んでたほうが効率的だ。それに、一旦身支度したほうがいいだろうし」
「……? あっ…………」
不思議そうな顔でソウガの言葉を聞いていたが、ソウガに「ん」と指で示されて少年は自分の格好を見下ろした後、納得と共に若干バツが悪そうな顔をした。
「服は一旦間に合わせのを引っ張り出してきたらいいだろ」
「それらはソウガに任せる。あと……」
言葉を切ると同時に、軽く腕を振った。その動きに合わせるように、森の奥の茂みからそれが文字通り宙を飛んできた。
「っ!? スカイ、こいつって……」
驚いた顔でこちらを見るソウガとハイゾラに頷く。
「ああ、人間だ」




