第2話 少年の話
『え? ちょっと待て。子供? 町の近くにいるってことは、人間じゃないと思うが……』
私の疑問にややあってソウガが答える。
『ああ。多分吸血鬼だと思う。……ボロボロの布切れみたいな服着て、傷だらけだけど』
その言葉で、ピンとくることがあった。
そのことに思い至った瞬間、思わずぎり、と奥歯を噛み締める。
その動作を不思議に思ったのであろう、周りにいた子供達とうち、ひとりの少女が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「スカイさま、だいじょうぶ?」
「………っ。ああ、大丈夫だ。けど、用事ができちゃったから、行く。すまないな」
くしゃりと子供たちの頭を撫でてから立ち上がり、ソウガたちがいる方向へ走り出すと、背後から「いってらっしゃい~!」と元気な声が聞こえてきた。
明るく、幸せそうに暮らす同胞たち。
……この光景は、私の宝物だ。何物にも代えがたい。
******
ハイゾラとソウガのいる場所に着くと、ソウガが少年を抱えて立っていた。
「その子供が、例の子か?」
問うた瞬間、少年が「ううん……」とうめき声を漏らした。
「あれ、ここ、どこ……?」
ボンヤリとした声色で呟くも、徐々に意識がはっきりしていったようでガバリと頭をあげ、
「あ、あの! 〈カリヴィア連邦国〉の方ですか!? お願いします、仲間を助けてください!!」
と叫んだ。
「……話はしっかり聞く。でもまずは、落ち着け」
少年を抱えたまま、ソウガは少年の顔を覗き込んだ。
そこでやっと、彼は自分が抱えられていることに気付いたようで、「え? 俺、抱っこされてる……?」と驚きと困惑で目を白黒させている。まあ、気持ちは分かる。なぜなら、ソウガは細身だから。黙っていればイケメンなんだが、中身がなぁ……
「……おいスカイ。今なんか失礼なこと考えなかったか?」
「何のことだ?」
……このままの姿勢で続けたら、この子も落ち着けないよな……
「……ソウガ、一旦その子下ろせ」
「? おう、分かった。立てるか?」
「は、はい。大丈夫です、立てます」
ソウガが少年を下ろす横で、ハイゾラがムスッとした顔で近くの木にもたれかかっていた。ハイゾラがそんな顔をするのは珍しい。
「どうかしたか?」
「ん〜、私の気の所為ならいいんだけど。いや、気の所為であってほしい」
「何が?」
すごく嫌だ、という様な顔をして、ハイゾラは理由を言った。
「……昔、私たちに使われてた、特別製の麻酔のにおいがその子からする気がするんだよね。あれ、あの場所を仕切ってた奴らしか使わないはずなんだけど」
「!? それは……」
ハイゾラは、ソウガと共にとある研究所に囚われていたのを、私が助け出した。
そこは獣人を使って人体実験をしており、ふたりも『実験体』として様々な実験をされていた。
ふと、その時の光景が脳裏をよぎり、頭を振って追い払った。本当に、酷い状態だった。どれほどの同胞が犠牲になったのか。
「……まさか。あの研究所と、関連していた組織は潰したはず。資料も全て燃やした。……どこからか、情報が漏れていたってことになるぞ?」
「最悪だけど、結果からして、そういうことみたいね。……あの悪夢が繰り返されるのは、絶対に許さない。わたしたちみたいな思いは、させない」
怒りと憎しみが浮かぶ瞳は、ここではない、どこか遠くへ向けられていた。
「あの」
「ん?」
遠慮がちにかけられた声に振り返ると、少年がじっとこちらを見ていた。その目からは懇願と焦燥が感じられた。よっぽど追い詰められているのだろう。でなければ、ここまで縋るような視線はない。
さっき、『〈カリヴィア連邦国〉の方ですか』とこの少年は言っていた。つまり、最初から〈カリヴィア連邦国〉を目指していたということ。
〈カリヴィア連邦国〉はどんな亜人も助ける、という宣言を掲げている。少年はこれを知っていて、私たちに助けを求めるべく、ひとり逃げ出してきたのだろう。
「……話を聞こう。まず、君の現状確認から。1つ目、君は脱走奴隷だ」
「ッ!! なんで、分かったんですか……?」
少年の問いにソウガが答えた。
「だってお前、まずそんなボロボロの布切れみたいな服着てるだろ。どれだけ貧しかろうと普通はそんなの着ねぇよ」
ソウガの言葉に少年は自分の格好を見下ろし、悔しそうに唇を噛んだ。
「2つ目。君は助けを必要としている。そのために、〈カリヴィア連邦国〉まで来た」
「……はい、その通りです」
「んじゃあ、お前は奴隷にされた仲間を助けたいのか?」
「はい。里の全員が奴隷狩りに捕まってしまって。俺だけ、逃されたんです。『助けを呼んできて。〈獣魔連邦国〉というところへ行きなさい。きっと助けてくれる』って、母が場所を教えてくれたんです」
母、という言葉に、私は僅かに身体を強張らせた。
「……母親も捕まっているのか?」
問い掛けた声は思わず堅くなったが、少年はそれに気づかなかず、悔しそうに顔を歪めた。
「俺だけ逃げ出して。力がない自分が悔しい。もっと俺が強ければ……」
「「「…………」」」
その感情には覚えがある。昔、味わったから。
私だけではない。ソウガや、ハイゾラだって。
「スカイ」
「…………分かってる」
懇願の響きを帯びた声で、ハイゾラが乞う。それに小さく、しかしはっきりと返事をした。
……………知ってるくせに。私が、絶対に見捨てないことを。
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