第 ? 話 ある獣人の話
あるところにひとりの獣人がいました。
その獣人は幸せに暮らしていました。
けれど。幸せは長く続きませんでした。
あるとき、暮らしていた村が人間に襲われてしまったのです。
村にいたほとんどの獣人が殺されるか、捕まり奴隷にされてしまいました。
その獣人は奴隷にされ、幸か不幸か、生き延びました。
『寝床』として与えられた、冷たく硬い床の上でその獣人は、考えました。
なぜ殺されなければならないのか。
なぜ奴隷にされなければならないのか。
·······獣人は普通の幸せを願ってはいけないのか。
その獣人は家族を、友を殺された怒りと憎しみを募らせました。
その感情は、獣人にある力を与えました。
その力を使い、脱走を果たした獣人は、同じ境遇の獣人たちを救い出していきました。
しかし、それをよく思わなかった貴族の人間たちに毒を盛られ、倒れてしまったのです。
その獣人だけに効く毒草は、一度口にすると、必ず死に至るという、恐ろしい代物でした。
誰もいない中、ひとり血を吐き、自分が死ぬと悟った獣人は、死の間際に自分の身体に魔法をかけました。
独りで死んだ獣人の亡骸は、その魔法によって、死後も動き続けました。
同胞が安心して暮らせるようにするために。
哀しい思いをする者が現れぬように。
そのことを知った、他の獣人たちは、詩を作りました。
その獣人のことを、忘れぬように。
あるところ獣人の王がおりました
仲間を助けて戦っておりました
しかしあるとき倒れ伏し
死期を悟った王は
自らの身体に魔法をかけました
王は独りで死にました
けれど王の死後も魔法によって
王の身体は戦い続け
それは動けなくなるまで続きました
我らは王を祀り
王が戦わずともよい世を求める
どうか
王の魂が
安寧と共にあらんことを




