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異端の獣〜守りたいものがあった〜  作者: 金狐銀狼
オリバリス王国と王立学園
19/20

第17話 獣人奴隷の一斉失踪と

 翌朝。挨拶が交わされる中、生徒たちは皆、〝ある話題〟でもちきりだった。


「なあ、聞いたか?」

「聞いた聞いた。あれだろ?」



「「奴隷の失踪!」」



「王国全域で千を超える、しかも獣人の奴隷だけが一夜にして消えたって、どんな()(とぎ)(ばなし)だよ……」

「でも実際起きてるしなあ」


 話しているのは貴族に多い。少数派に商人の息子、娘がいる。それには理由がある。




 オリバリス王国での底辺職業を支えているのは、獣人の奴隷だからだ。



 借金奴隷や犯罪奴隷ももちろん居るが、獣人の奴隷の殆どは奴隷狩りによって生産されている。

 寝ていたところを襲われ、連れてこられた。放浪していたら、捕まった。状況は数多く有れど、結果的に奴隷に堕とされた。そこに、獣人達の意思は無い。

 〈奴隷狩り〉という職業が公にはされていないもののあり、奴隷商人同様、奴隷を扱うことで生計を立てている。


 奴隷を扱うことで生きている奴等にとっては、この奴隷の一斉失踪はかなりの痛手になる。


「おい、獣人! 貴様のせいだろう!?」


 ドスドスと足音を立てて歩いてきた男子生徒が私の胸ぐらを掴んできた。それに背後のふたりが気色ばむが、手で制す。

 随分と脂肪がついている手を払いながら冷たく返した。


「なんのことだ?」

「しらを切るな! 貴様も知っているだろう、奴隷の一斉失踪は。それを主導したのは貴様だろうと訊いているんだ!!」

「ほう? 俺が、獣人の奴隷の一斉失踪を手助けしたと? ハッ、何故そんな突拍子もない事をいう?」

「貴様が獣人だからだ!」


 ピシリ。背後で空気が固まった音がした気がした。


「それのどこが証拠になるんだ?」

「この僕が言うからだ!」


 パキリ。固まった空気にヒビが入る音がした。

 どうだ、と言わんばかりに胸を張るデブに「……ちょっと精神科に行ってこい」と言いたい。

 前世台所でよく見かけた黒光りするアレを叩き潰す妄想をして耐える。


「……そんなもので証拠になるわけがないだろう」

「僕にはお金がある! そして貴様が獣人だからだ!」


 バギンッ。ヒビの入っていた空気が崩壊する音がした。

 清々しいほどに「賄賂を渡す」と言う馬鹿に目眩がする。


 既に教室内は静まり返っており、垂れもが固唾を呑んで私達の会話に耳を傾けている。

 だが、静かに、けれど確実に。漏れ出ている殺気に私達に近い位置にいる者たちから冷や汗が流れていた。


 その殺気の主であるふたりを肩越しに振り返り見やれば、手に魔力を纏わせていた。即座に何をするつもりなのかを察す。


「……ハイゾラ、ソウガ。抑えろ。ここは〈カリヴィア〉ではない」

「でも」

「抑えろ。それとも、()()したほうがいいのか?」

「「……かしこまりました」」


 殺気を霧散させ、深々と頭を下げるふたりを撫でる。それにピクリと肩を震わすものの、されるがままに大人しく撫でられていた。

 誰も何も言えず、固まったまま。そんな中、馬鹿とその背後の取り巻きたちが口を開こうとした瞬間、私は被せるように低い声で唸った。

 グルル、と獣じみた音が喉の奥で響く。


「……さて、と。それで? 俺達が獣人が何だって? 随分と好き勝手言ってくれるな?」

「な、なんだと―――」

「何故獣人の俺たちが学園に通えているのか、疑問に思わなかったのか?」

「…………」

「理由は単純だ。俺たちは使者だからだ」

「使者、だと……?」


 意味が分からず眉をひそめる男子生徒らだけでなく、周りの生徒たちにも聞こえる声量でわざと話す。

 どうせ、これからもいちゃもんをつけてくる奴は山ほどいるだろう。ならば、今のうちにある程度周知させておいたほうが阿呆と馬鹿に絡まれずに済む。


「〈カリヴィア〉からの、な」

「な……っ!?」

「実力主義の国において、俺は王から使者を任されるほど信頼されている。いくらお前でも、この意味が分からない程馬鹿ではないだろう? なら、今後は控えるんだな」

「っ……!!」


 悔しさからか、顔を歪めた馬鹿の耳元でそうっと囁いた。


「獣人ってのは愛情深い種族なんだ。同族が害されれば全員で報復を行う程に。……ああ、お前の家は奴隷を扱う商会を営んでいたな。それも、獣人の“商品”を豊富に揃えていると評判の商会だ。裏では、大物の奴隷刈り組織とも絡んでいるらしいな」

「っ!? なんで、しって……」

「獣は何処にでも居るからな。人間(お前ら)が知らないだけで」

「……………」



「さて、お前たち一家と従業員たちの寿命は何時までだろうな?」



 完全に血の気を無くした男子生徒から離れ、静まり返った教室から出た。ついてきたハイゾラとソウガはヴヴ、と機嫌悪そうに唸っていた。


「何なんだよ、アイツら。気持わりぃな」

「ほんっとーにね。一回死んでくればいいのに」

「こら。学園内(敵地)で愚痴を呟くな」

「「でも……」」

「でももだってもない」


 全く同じ表情の小狼たちを窘める。自分の事では滅多に怒らないというのに、私の事になると直ぐにキレるのは悪いクセだな。


「ほら、切り替えて行くぞ。1限目は生物学だったな」

「「はーい」」





 4限目を終え、裏庭で雲ひとつ無い空を見上げていると、軽めの足音が聞こえ、次いで「ステライドさん!」と声が追ってきた。

 音のした方を見やれば、案の定エルウィンが通路から走ってきていた。


「使者って、どういうこと!?」

「ああ、エルウィンも朝、教室にいたんだったな」

「うん、ってそうじゃなくって!! ……うぷっ!?」


 はぐらかさないで、と興奮するエルウィンの顔に強めの冷風を当て落ち着かせる。


「説明するから、一旦落ち着け。興奮したままではろくに話せないだろう」

「……うん、わかった」


 エルウィンは素直にベンチへ腰を下ろした。さて、どう説明しようか。


「まず最初に断っておくが、守秘義務で話せることはそう多く無い。今朝行ったことが話せるすべてだからな」

「? そうなの?」

「そうだよ〜スk、ゔゔん。ステラはお偉いさんだからな〜」


 地面に寝っ転がったままソウガが妙に間延びした口調で答える。……今、スカイって言いかけたな。

 隣に座っていたハイゾラが気付き、ソウガの脇腹にパンチを決めた。不意打ちにのたうち回るソウガと、ケラケラ笑うハイゾラ。


「ええと……」

「気にしなくていいぞ」

「え?」

「大丈夫だ、いつも通りだからな」

「でも、すっごい転がりまわってるけど……」

「あれでも、亜竜(ワイバーン)をひとりで倒せる実力者だ」

「えっ!?」


 普段はよくハイゾラにつつかれる間抜けだが。


「俺が宰相、あいつらは護衛だ」

「護衛? あんなに強いのに?」

「ひとりで行動するより複数で行動した方が合理的だ。それに狼は集団で生きる獣だからな。そのほうが落ち着く」

「そうなんだ」


 納得したように頷くエルウィンの目は未だにのたうち回るソウガに向けられていた。…………そんなに弱そうに見えるのか?

 ハイゾラは「ちょっと身体を動かしてくる」とどこかへ行っている。


 どこかのんびりとした空気が漂い始めた中。


「おーいステライド!! 手合わせしてくれ〜!!」

「「!」」


 聞き覚えのある野太い声がした。思わず眉間にシワを寄せた。


「げ。何でいるんだ」

「え、どこに?」

「あそこ……二階の廊下」

「ん〜、あっ、ほんとだ。よく見えるね」

「獣人だからな。さて、逃げるか」


 キョトンとこちらを見るエルウィンに、放課後再びここへ来るように伝える。


「じゃあ、後で」

「え、あっ、うん!」


 ソウガを捕まえ脇に抱えて跳躍。裏庭にある大きな木の枝に飛び乗り、また跳んで屋根に移った。


「アイツも懲りねぇなぁ」

「そう思うなら、止めてくれ」

「無理」

「そうだな……私と手合わせしたければソウガとハイゾラに勝ってから、と言えばいいのか」

「エッ辞めて!? それ、標的が俺たちに変わるじゃん!!」

「何も問題ないだろう?」

「問題ありありだっ!!」


 叫ぶソウガをポイッと屋根の上に放す。受け身を取れずソウガはぐえっと鳴いた。

 もうちょっと丁寧に扱ってくれても良いんじゃないですかね!? と抗議してくるソウガを無視して、ある準備を進める。


「ん? それ、何に使うんだよ」

「内緒だ」





 放課後になり、裏庭でエルウィンを待つ。昼と同じ姿勢でいると、パタパタと足音が聞こえた。


「来たか」

「ごめん、待った? ちょっと先生に呼び止められちゃって」

「いや、俺もさっき来たばかりだ。それに、時間には遅れていない」

「本当? 良かった〜」

「早速だが、本題だ」


 不思議そうな顔のエルウィンの眼の前に魔法陣を展開させる。七色に光るそれはひときわ強く輝いた後、その中心から何かが飛び出してきた。その何かは私達の頭上を一周した後、私の腕に止まり、ひょろろと鳴いた。


「え……この鳥、もしかして、精霊?」

「正解だ。正確には、緑冠鳥グリーン・クラウン・バードの姿を模した風属性の低位精霊だ」

「綺麗……」

「この精霊に名前をつけてやってくれるか?」

「え、名前?」

「ああ。『おい』とか『あれ』と呼ぶのは可哀想だからな」

「わかった。……う〜ん。何がいいかなぁ」


 真剣に悩むエルウィンをじーっと見つめる精霊。エルウィンも精霊をじーっと見つめているから、お互いに見つめ合う構図が出来ていた。何だこの見つめ合い。両者瞬き一つしないのが余計に怖い。


「よし、決めた。君は今日から“アルム”だ!」


 その瞬間、一人と一羽の周囲に光の輪が顕現した。それはキラリと光った後、彼らの身体へ吸い込まれた。


「え、何!?」

「契約完了だ。大事にしてやってくれ」

「え、契約完了!? 名前をつけただけじゃないの!?」

「御主人様。どうぞ宜しくお願いします」

「え、喋っ!?」


 パクパクと口を開閉するだけになったエルウィンの肩にアルムが留まり、顔を擦り付けた。


「アルムには、これからやり取りの伝達役になってもらう」

「しゃ、しゃべっ……………ん? 伝達役??」

「ああ。流石に手紙でのやり取りは機密性がないからな。それに、居場所がわからない事には届けようが無い。だが、精霊であれば長距離の移動はもちろん、相手がどこにいようと情報を届けることができる」

「なるほど……」

「『精霊魔法が扱えるようになるまで練習に付き合う』が、近くに居ない場合もあるからな。手段はあるに越したことはないだろう」

「わかった。ありがとう、ステライドさん」



 エルウィンが去ると木陰からハイゾラとソウガが出てきた。溜息を一つ吐き、ハイゾラは結界を展開した。


「良かったの? 低位精霊って言ってたけど、あの精霊()、限りなく高位精霊に近い中位精霊でしょ?」

「まあな。だが、あの頭のゆるい王子の護衛にはなるだろう」

「ゆるいって……もうちょっと言い方ないの?」


 苦笑するハイゾラにソウガが「いいじゃねぇか」と声をかけた。


「危機感が足りてねぇんだろ。だったら俺達からすりゃあ、おめでたい頭してるだろ」

「はぁ。抗議した私が馬鹿だったみたいね」

「……ハイゾラ、ソウガ。明日から一週間、私は学園を休むから、そのつもりでいてくれ」

「ん? なんか用事でも出来たのか」

「少し害虫を駆除しようかと思ってな」

「あーナルホド」

「私達はどうすればいい? 一緒に行ったほうがいい?」

「いや、ふたりはそのまま授業を受けてくれ。全員が休むと何か勘付かれるかもしれない」

「りょ〜かい」

「おーけー」



「侮辱された分は、キッチリ返さないとな」



 読んでくださりありがとうございました。

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