第15話 第3王子
「ピアス、取ってみろ」
「え、でも、外さないでって母上から言われてて……」
おどおどして、一向に外さない。ここまで来ると、面倒くさい。無言で認識阻害と盗聴防止の結界を展開。
「…………」
「えっ、何……えっ!?」
ピアスを魔法で外した。それに慌てふためく少年の容姿が変わった。
金髪は変わらなかったものの、目の色が緑へと変化している。
森林のような、深い緑。それは、森人族しか持ち得ない瞳の色だ。
本来、無理強いをするのは好まないが、今回ばかりは仕方がない。
人ひとりの命が掛かっているのだから。
「強制的に外してしまったことは謝る。だが、そのままだとお前は死ぬぞ」
「え?」
「本来、森人族というのは、自然とともに生きる種族だ。よって、見た目を偽って過ごせば、その分反動がくる。〝魔法が使えなくなる〟とかな」
「っ!!」
覚えがあったのだろう、目を見開いた少年はその視線を外され、自身の手のひらに落ちたピアスへ向けた。
「それに、森人族は〈精霊魔法〉を得意としているが、反対に人間が使う魔法は不得意なんだ。それが余計に拍車をかけたんだろう」
〈精霊魔法〉とは、精霊を通して現象を起こす魔法のことだ。人間が使う魔法よりも、精霊という自然に近い存在を通すため、威力が強いのが特徴である。また、精霊との友好関係が物を言うため、魔力量が多いものが絶対的に強い魔法が使える、ということはない。
対する人間の使う魔法は、自身の魔力を使って魔素を動かし現象を起こすもので、術者の魔力量に左右されるため、魔力量が多いものが強い魔法を使うことが出来る。
〝自然で生きる〟森人族にとって、〈抑制〉はストレスがたまる原因となる。純血のエルフでは1年も保たなかっただろう。混血だったため、ここまで生き延びることが出来た。
が、これ以上の無理は出来ない。今は、死の淵に立って、ギリギリのバランスを維持できているに過ぎないのだから。
恐らく、母親はある程度の時期が来たら、ピアスを外し、真実を伝えるつもりだったのだろう。しかし、その前に死んでしまった。
第3王子は母親を早くに亡くした、というのは有名な話だ。『立場の弱い側室だったため、心労が祟って死んだ』『王に寵愛されているのを妃が妬んで毒殺した』などと噂話が密やかに囁かれているが、真実は謎に包まれている。
「お前の母親が何を考えていたかは知らない。だが、これからは定期的にピアスを外したほうがいいぞ」
「……………………そんなことをできる場所なんて、ないよ……」
ボソッと呟く顔に陰が落ちる。
……ここまで関わって放って置くのは寝覚めが悪い、か。
「…………………はぁ。この時間、この場所だったらピアスのことに協力する」
「!? ……いいの?」
「ここまで言っておいてそのまま、は流石にな」
「!! ありがとう!」
ニコッと顔全体で嬉しさを表現して笑う少年に眩しさを覚える。こんなふうに笑えるのは、相当純粋な心を持っているんだろう。
少し協力したら、早々にはなれたほうが良さそうだ。人間の王族と獣人。どう転んでも悪い影響しか与えないだろう。ましてや、私のような───────
「──の、あの、大丈夫?」
「!」
いけない、ぼうっとしていた。
…………気が抜けていた? 敵地の真ん中で? しっかりしなければ。
「ああ、大丈夫だ。それで、何だ?」
「なんて呼べばいいのかなって」
コテン、と首を傾げた少年は容姿の幼さも相まって、純粋な幼子、そのものだ。
よくそんな心で王城の中を生き抜けたな………………
「ステライドでいい。後ろに居るのはハイゾラとソウガだ」
「よろしく。私は好きなように呼んでくれていいよ」
「俺もハイゾラと同じく。まあ、よろしく」
「よろしくお願いします、ステライドさん、ハイゾラさん、ソウガさん。僕のことはエルウィンって呼んで」
互いに挨拶を交わし、私達はエルウィンを残して一度その場を離れた。
「少し、この国について調べ直さなければいけないな」
「そうね。まさか、第3王子が混血森人族だったなんて」
「〝人間至上主義〟を掲げるオリバリス王国の国王は何を考えているんだろうな?」
「……………何も考えちゃいないさ。国王の頭の中など、理解できないのだから」
「? 嫌に実感がこもってるわね。昔、会ったことでもあるの?」
「少しだけ、な」
はぐらかすように言えば、ふたりはそれ以上追求してこない。
秘密を抱えながら仲良くするために、『必要以上に踏み込まない』ことは必須だ。
それなのに何故。私はエルウィンに構った? 見殺しはできないから?
何にせよ、不可解なものが多すぎる。
「面倒な」
零れた言葉は何に向けたものだったのか。誰にも聞かれることなく、それは風に晒され消えた。




