第14話 お話し
わあわあと騒がしくなるなか、ふっ飛ばしたサヴァンを横抱きにして移動させ、観客席に寝かせた。そして回復で、ある程度治療する。
手加減したつもりでも、まだ威力が強かった。もう少し相手の力量を見定める眼を養わなければいけないな。
「うぅん………あれ? おれ、は、なにを………」
「気が付いたか」
「! ステライド。そうか、俺は負けたのか」
緩慢な動きで上半身を起こし、したたかに打ちつけたであろう背中に痛みが走ったのか、顔を顰めている。
「悪い、手加減したつもりだったが、予想以上に飛ばしてしまった」
「いや、俺が弱かったってだけで、お前は悪くない。いや、お前と呼ぶのは失礼だな。なんと呼べばいい?」
「………ステライド、でいい」
屈託ない笑みを浮かべる彼は、まるで別人のようだ。
…………頭でも打ったか?? この短時間でそんな意識が変わることがあるか? 何か嫌な予感がする。
経験上、こういうときの勘は外れないと知っている。さっさと会話を切り上げ退散すべく、話をそらした。
「俺の魔法じゃ傷を完全に癒やすことは出来ない。後で専門職の先生に診てもらってくれ」
「いや、これくらいなら平気だ。流石獣人だな。同年代でここまで力に差があるとは思わなかった。しかも、魔法まで使えるなんて、凄いな」
「大した事はない。ハイゾラやソウガも、これくらい出来る」
「なーんの話?」
「呼んだか?」
「うわっ!?」
突然背後の死角から首がニュッと生えたことにサヴァンが、驚きと痛みで声を上げた。
「ステラ、壁の修理終わったぞ」
「ああ、お疲れ様。ふたりとも、他人に気配を消して忍び寄るのは止めろと言っているだろう」
「はーい、気を付けるね〜」
「気付く奴は気付くんだし、いいだろ?」
「良くない」
聞く耳を持たないふたりの額を軽く小突く。
「痛っ!? なにすんだよ!」
「…………痛いんですけど」
「……………」
「「ゴメンナサイ、ナンデモナイデス。気ヲ付ケマス」」
「よろしい」
立ち上がり、ズボンに付いた汚れを払う。その過程で、耳につけているピアス同士がぶつかってが音を立てた。
「気になっていたんだが、何故同じ耳に2つもピアスを付けているんだ?」
サヴァンが不思議そうにそれへと目を向けた。金のリングピアスと、虹色の魔晶石の飾り揺れるピアス。2つとも右耳に付けている。
「お守りみたいなものだ」
「? そうか」
サヴァンは若干訝しむような表情を見せたが、アッサリ引き下がった。
それ以上追及されなかったことに密かに安堵していると、爆弾が降ってきた。
「ステライド! 俺を、貴方の弟子にしてくれ!!」
「「ぶっ!」」
「…………………………………………………………」
当たってほしくなかった嫌な予感が当たった。当たってしまった。はっきり言って面倒臭い。ひじょーに面倒臭い。
授業開始時の蔑む目から一転。キラキラした目でこっちを見てくる。
隣では獣耳と尻尾を震わせながらふたりが声を必死に噛み殺しながら爆笑していた。
脳筋特有の考え〝負けたら兄貴と呼ばせてください〟の感じによく似ている。前もあった。やたら突っかかってきた脳筋をフルボッコにして沈めてやったときも、おんなじことが起きていた。
ギルドの建物の中という公衆の面前で。四十代後半のイカツイ顔のオッサンに『弟子にしてくれ』と土下座で懇願される十代後半の獣人の少女の図。
周囲からの目が痛かったし、何も嬉しくない。よって引っ付いてこようとしてくる顔面体液まみれ(血、涙、鼻水、涎等)の迷惑オジサンは無理矢理お引き取りしてもらった。
嫌な思い出がフラッシュバックし、遠い目をしていると、くるりと標的が変わった。
急に視線を向けられ笑い過ぎてヒーヒー言いながら笑い転げていたふたりはキョトンとする。
サヴァンは、一言。
「是非とも一回ふたりとも手合わせをしてみたい」
「「!!」」
その言葉にパアッと顔を輝かせた。めっちゃ嬉しそう。尻尾もブンブン振ってる。さっきまで笑っていたのに。
「「もちろん!! 喜ん─────」」
ワアァァァア!!
「「「??」」」
「あ、次の試合が始まったのか」
フィールドを覗くと、茶髪の青年と金髪の少年が立っていた。
「誰だ?」
「茶髪の方はノーマン伯爵令息。金髪の方はこの国の第三王子だ」
「え?」
思わず金髪の少年を凝視する。金髪碧眼、16というには幼さの残る顔立ちだ。体格も同年代と比べたら一回りほど小さい。
「うちのクラスは〝成績優秀な優等生〟じゃなくて、〝成績優秀な問題児〟が集められたクラスなんだよ」
身を乗り出している私の横に並び、眺めるサヴァンの目には諦めのようなものが漂っていた。
何も言えずにそれを見ていると、ふと、違和感を感じた。
よく知った魔力の感じ。けど、微かに交じる不純物。
「………………」
午前中の授業を終え、昼休憩に入ったため、昼食を取るため生徒が移動を始める中、私達はそっと教室を出た。
理由は単純で、居心地が悪いからである。
サヴァンをふっとばしてから、様々な種類の視線が非常にうっとおしかった。その大半が畏怖するようなものだったが、一つ異質なものが混じっていた。
そのやたらとキラキラした視線から逃れるべく、さっさと教室を後にした。
もう一つの目的を済ますためにも。
「ちょっと時間、いいか?」
「え? あ、うん。大丈夫だけど…………」
金髪碧眼の少年の魔力を辿って出た中庭。そこにおいてあったベンチに座り、弁当を膝に広げかけていた彼は、急に話しかけられ、困惑しながらも頷く。
人目に付かない裏庭に移動して、そこにあったベンチに座るよう勧めた。
人の良さそうな垂れ目気味の目が私達を見た。
「それで………僕に用事って、なに? 君は編入生だよね?」
「ああ、ステライドという。後ろの二人はハイゾラとソウガだ。確認だが、〝第3王子〟であっているな?」
「? うん。僕はオリバリス王国第3王子のエルウィン・ナーヴ・オリバリスだけど…………どうしてそんなことを訊くの?」
気付いていないのか。それとも分かっていて隠しているのか。恐らく、前者だろう。
そのまま、質問を続ける。
「……………耳のピアスを外したことは?」
「生まれた時につけられてから、一度もない、けど…………」
キョトンとしている彼に顔を近づけた。
「え!? 何!?」
「…………お前、魔法が殆ど使えないだろう」
「! 噂を、聞いたの?」
「いや、魔力の感じで判る。森人族の血が混ざっている」
「え?」
目を見開く少年の耳につけられたピアスを見つめる。《偽装》と《制限》の効果があるようで、何も知らない者からすれば、ただの人間にしか感じられないだろう。
「人間の血が半端に混ざっていては、普通に魔法は使えないだろう。本来、エルフという種族は精霊魔法を使っているからな」
「僕が、混血森人族??」
呆然と目を見開く少年の瞳は、澄んだ空のように、透き通っていた。




