第13話 編入と戦闘訓練
「よく来た。獣の国の使者よ」
金ピカの玉座に座るでっぷり体型の男が大仰に言った。
〝オリバリス王国国王〟という肩書きを持つソイツはジロジロ私達を値踏みするような視線で見てくる。
男の格好をした私と、その背後に控える2頭の狼を。
表には出さないものの、どう使ってやろうかと企んでいる気配に、内心顔を顰める。
後ろでは思念で会話がされている。
『ぁ゙~気持ち悪りぃ。あのジジイの首食い千切ってやりてぇ』
『ほんとは嗜めるべきなんでしょうけど。同意だわ。毛が逆立ちそうで仕方ないもの』
『そもそも何だよ、「獣の国」って。見下しすぎだろ』
『ほんっと〜〜っに腹立つわねぇ。いっぺん死ねばいいのに』
『こら』
『『だってさぁ』』
『どう思うが構わないが、態度には出すなよ』
『『え? あ、はい』』
『? なんだ?』
『いや』
『怒られるかと…………』
『私も思っているから問題ない』
『『ん!?』』
他には聞こえないのを良いことに、すまし顔をしながらやいのやいの喋っていると、国王が観察するのに満足したのか、口を開いた。
「して、属国の件の返事はいかに?」
こいつ、直接言ってきやがった。『獣に高貴な言葉遣いは必要無いと』ってことか。
なら、こっちも対応してやるよ。
「国王との協議の結果、オリバリス王国の事をより学んでから、結ぶか否かを決定することとなった」
「…………………」
じろり、と睨まれる。けど、脂でギットギトの肥ったオッサンに睨まれてもこれっぽっちも怖くない。
『プッ』
『スカイがそんなことに怯えるわけねぇだろ』
後ろでも嗤っている気配が。ソウガが中指を立てている姿が視えた気がした。
莫迦な妄想を追い払い、提案を口にした。
「故に─────────────────」
✽ ✽ ✽ ✽ ✽
「今日から編入してきたひとを紹介しよう」
数日後。
私含め3人はオリバリス王国の王立学園の教室の前に立っていた。
「狼の獣人のステライド」
「同じく狼の獣人のハイゾラと」
「ソウガだ」
〈獣魔連邦国〉国王の弟、ステライドとして。まあ、一般にはただのステライドという認識になるが。
ザワザワと教室が騒がしくなる。
「彼らは〈獣魔連邦国〉から友好のために来てくれた。皆、仲良くするように」
何処でも好きなところに座っていいというので、一番後ろの窓際に揃って座った。
そのまま朝のHRが進行していくが、ざわめきが落ち着くことはなかった。
オリバリス王国の王立学園について、説明をしよう。
「王侯貴族から平民まで、誰もが入ることが出来る学園」と謳っているが、実際は平民は全体の1割にも満たない。入学費用から授業料など、多額の費用がかかるため、裕福な商家など、一部の者しか入ることが出来ない。
例外として、稀に特待生制度によって経済支援を受け、入学するものもいる。
王族はもちろん、上位の貴族から下位の貴族まで、家族の令息、令嬢の殆どが通っている。
成績に応じてクラス分けがなされ、A〜Fの6クラスあり、全3学年。1クラス30人前後、全生徒約540人。かなりの数がいる。主に15〜17歳の間に学園で過ごすという。
私達が入ったのは第2学年のAクラス。面倒事が起こる予感しかしない。
基礎科目は全員必須だが、専攻科目は各自自分で選ぶことが出来る。薬学、魔法学、経営学。様々な科目があり、それに応じて教師の数も多い。
本来は入学した時に取る授業を決めるだが、私達は途中からの転入ということで、学園側が決めている。
HRが終わって一限の体育の実技の授業へ移動しようとしたところ。
「どういうことだ」
………面倒くさそうなのに絡まれた。
ガタイの良い身体からして、騎士か?
「なに? 何か用?」
私とソウガに挟まれて座っていたハイゾラがまっさきに声を上げた。
それに青年がその取り巻きとともに眉を寄せた。
「何故獣人が学園に入学している? ここは人間だけが入れる場所だ」
典型的な人間至上主義の考え方に思わず溜息が出る。莫迦にされたと思ったのか、カッと青年が赤くなった。
「な、なんだ!」
「友好のためだと言っていただろう? それに『獣人が入学してはいけないという規律はどこにもない。王立学園は実力があれば入れるんだろう。ならば、試してみればいいじゃないか」
言い負かされ、私の胸ぐらを掴もうとするが逆に掴んでやり、引き寄せ耳元で囁く。
「挑戦はいつでも良いぞ?」
「っ!!」
くそ、と悪態をついて教室から出ていく一行を見ながら思念で会話をする。
『面倒くさいのに初日から絡まれた………』
『仕方ないわ』
『そーそー』
揃って見つめられ、少し首を傾げる。
『『あとでボッコボコにしてやれば良い』』
『あ〜、ソウダナ』
相談相手を間違えた。戦闘バカは駄目だ。
集まったのは、闘技場のような場所だった。なんでも、私達が所属することになったクラスは普段から使用しているらしい。
一限の始まりを告げるチャイムが鳴ると同時に、教師が現れた。動きやすい服装の女教師だ。どうやら冒険者であり、貴族令嬢でもあるそう。
「おはよう。新入りさんも居るそうだけど、いつも通りにやっていくわよ。今日は何でも有りの総合訓練よ。二人一組で組んで一組ずつ試合形式でやってもらうわ」
…………総合訓練とは。お互いにかなり実力がないと出来ないはず。このクラスはそれほど優秀なのか。
クラスメイト達が仲の良い者同士で固まる中、3人でどうするか話していると、足音が近づいてきた。
「はじめまして、獣人の国からの留学生さん。私はキアラ・ハイパー。この王立学園で、体育科の授業を受け持っているわ」
「はじめまして、ハイパー先生。俺はステライド。こっちがハイゾラで、こっちがソウガ」
「「はじめまして」」
「獣人さんを間近で見るのは初めてなの。何か失礼なことを言ってしまったら、ごめんなさいね」
軽く頭を下げるハイパー先生に驚く。この国の貴族が頭を下げるとは。
「い、いや、大丈夫。そういうのはよくあることだから」
「そう? じゃあ、これから宜しくね」
「「「こちらこそ」」」
「それで、何故着替えていないか聞いても?」
「他の服よりも、こちらのほうが動きやすいから。汚れたとしても替えもある」
「なるほど。まあ、規律に違反していないし、大丈夫よ」
にこにこしている彼女は、良い意味で貴族らしくない。
「せっかくだから、一番手は貴方達三人の中から演ってもらいたいのだけれど」
正直目立つからやりたくない。が、断れない。
「あー、分かった。ハイゾラ、ソウガ、どうする?」
「んー、どうしようかなー」
戦闘好きなふたりが手を挙げかけたとき、横から声が入ってきた。
「俺が、コイツとやります」
「は?」
「え?」
「ん?」
「あら、新入りさんと?」
先程、いちゃもんつけてきた青年がニヤニヤしながら、近寄って来た。もう決定していると言わんばかりの態度に、思わず3人揃って疑問の声を上げる。ハイパー先生は何やら楽しそうだが。
「両者、フィールドに上がりなさい」
言われた場所に向かい合って立つ。向かいの青年が腰に佩いていた剣を抜いた。
「名乗りがまだだったな。俺はライナー・サヴァン。サヴァン伯爵家の次男だ」
「ご丁寧にどうも。俺はステライドだ」
名乗り返しながら腰を落とし、臨戦態勢をとる。それを見てサヴァンが眉を寄せた。
「武器は?」
「生憎、こちらのほうが加減が効く。ヤバくなったら抜くさ」
「ほう。怪我をしても、知らないぞ」
「では、両者、構えて。ルールは簡単。どちらかが負けを認める又は行動不能にさせれば勝ちです。いいですね?」
「ああ」
「問題ない」
「では。試合、始めっ!!」
開始の合図とともにサヴァンが距離を詰めてくる。それを真上に跳んで躱した。
「はっ、あれ、どこいった!?」
目標を見失いキョロキョロしている彼の背後に音もなく下り立つ。が、気配を感じたのか、剣が向かってきた。見ていないにも関わらず、急所を狙っている。
「空間把握能力はまぁまぁだな」
「んなっ!?」
振り向いた彼の目が驚愕に見開かれる。何故なら
「なんで爪で止めてんだ!?」
「獣人の固有能力の一つだ。戦闘時に己の爪を伸ばし、応戦することが出来る」
「爪ごときで俺の剣が止められるわけないだろ!」
「魔力を通せば強度など簡単に変えられる」
「反則だっ!!」
喚く青年を無視し、剣の腹を触る。
訓練に真剣を使うのは、かなり危険だ。しかもこの剣、魔法剣、所謂魔剣と呼ばれる類のものだ。一介の学生が持つような物ではない。
「何考え込んでんだ、よっ」
「あ」
急に剣から炎が噴き出してきた。それに驚いた隙にサヴァンが後ろに跳んで距離を取る。
「驚いたか。俺のこの剣は魔剣なんだよ!」
勝ち誇ったように剣を突き上げるサヴァン。周囲からの「すげー!」「流石サヴァン伯爵令息だ」などという賛辞にいい気になっている。
それを見て私はスンッと真顔になり、腕に水を纏わせた。
『あ〜これオワッタな』
『あんな真顔、久しぶりに見たわ』
……………ちょっと外野がウルサイな。
『『ゴメンナサイっ』』
まだなんにも言ってないんだが。
まあ、いいか。
「───戦いの最中に」
「えっ?」
一息で距離を詰め、炎を纏っている魔剣を掴む。炎と水は一瞬の拮抗の後、ジュワッという音を立てて消えた。
「他事すんなっ!」
「ごふっ!?」
そのまま、回し蹴りで場外までふっ飛ばした。
「よそ見をすれば待っているのは死だ」
爪を収め、ふたりが待っている観客席に跳んだ。
「お疲れ様〜、さっすがだね」
「俺もあいつとやりたかった」
興奮でぴくぴく動いている獣耳を撫でると、嬉しそうに尻尾を揺らす。
背後では壁にめり込んだサヴァンの安否を慌てて確認するハイパー先生と、無意味に騒ぐ生徒達がいた。




