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異端の獣〜守りたいものがあった〜  作者: 金狐銀狼
王国からの訪問者
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第10話 獣魔国連邦


 翌日の昼過ぎ。

 迎賓館(げいひんかん)としている(やかた)の一室に集まっていた。椅子を50脚も用意するのは大変なので、大部屋の和室の畳に座ってもらっている。

 初めての畳に吸血鬼(ヴァンパイア)たちがペタペタと触りまくっているのを、3人で廊下から覗いていた。


「なんか、懐かしいな、あの反応。なー、ハイゾラ?」

「そうね。私たちも『何この床!?』って触ってたものね。草で編んだ床に裸足(はだし)で歩く、なんて初めてだったし」

「……そんなに珍しいか? 畳って」


 畳は私の前世の記憶を元にして作ったものだ。



 ✽✽✽✽✽



 前世は日本人だった私は、獣医師を目指していた女子大学生だった。

 〝空嶺財閥〟という財閥の令嬢だった。婚約者も居た。

 けど、幸せとは言えない生活を送っていた。


 虐げてくる実父と義母。そして義母の連れ子の義兄。それだけなら、まだ良かった。

 『物語』では、婚約者が庇ってくれるのがセオリー。けど、現実はそうじゃない。なかった。


 身も心もボロボロになっていた私は、高校を卒業してすぐに、生家を出た。親切な友人の手引きでいくつかバイト先を紹介してもらい、その収入と、実母が死ぬ前から貯めていた貯金で家を買ったのだ。

 山の奥に建てられた、格安で売られていたその家だけが、私の休息の場であり、帰るべき場所だった。


 大学への進学費用も、生活費も、すべて自分で賄っていたから、空いている時間はすべてバイトを掛け持ちして過ごしていた。幸いにも、給料が良く、雇い主も優しかったたため、たまに食料品をくれたり、まかないを多めにくれたりと、便宜を図ってくれ、なんとか暮らしていた。


 その過程で得た様々な知識が転生しても残っていたのは幸いだった。そのおかげで今まで生きてこれたし、生活を便利にしていけた。


 辛い記憶はたしかに多いが、便利なこともまた、多かった。



 ✽✽✽✽✽



「……ここで眺めていても始まらない。入るぞ」

「へーい」

「はーい」


 ガラリと(ふすま)を開け、部屋の中へ入った。ハイゾラとソウガも続く。

 ピタリとざわめきが止み、全員の視線が集中したのを感じた。


「皆、よく眠れたか? 今日は〈獣魔連邦国(うち)〉のことについて説明しようと思う」


 静かに吸血鬼(ヴァンパイア)たちの間に緊張感が満ちていくのが分かる。


「我が国は知っての通り、多くの種族の民から成る国だ。勿論、差別もない。君たちには良ければ、我が国に住んでもらいたい」

『『『『『!?』』』』』


 いいのですか!? と口々に叫ぶ彼らを手で制し、続きを話す。


「だが、私が保証出来るのは身の安全と衣、食、住。そして仕事。以上の5つだけ。『遊んで暮らしたい』等の願いは叶えられない。ただ、しっかりと仕事をこなし、収入を得ることができれば、不自由することはない」


 一応『豪遊などの願いは叶えない』と伝えるが、彼らの顔には『誰が言うかそんなこと』と書いてあった。

 流石に。流石にそれはないと私も思うけども。前にいたのだからしょうがない。『お前俺の女になれ。そして俺を養え』と宣った莫迦(ばか)が。

 その現場に居合わせた後ろのふたりが、苦笑いをしているのが見なくてもわかる。


 ちなみに。その莫迦は森の外まで飛ばしておいた。今生きているのか、何処に居るかは知らん。知りたくもない。


 まあ、どうでもいい莫迦のことは記憶のごみ箱の中へ追いやる。


「まず、我が国のことを知ってもらう」


 後ろのふたりがさっとあるものを掲げた。それを指しながら説明をしていく。


 私を頂点とする〈獣魔連邦国(この国)〉は、以下の8つの部門に分けられている。


 1,狩猟部門

 2,農耕部門

 3,服飾部門

 4,建築部門

 5,商業部門

 6,財務部門

 7,教育部門

 8,戦闘部門


 狩猟、農耕部門は言うまでもなく、食料を賄うための部門だ。狩猟部門は森に入り狩りをしたり、野草などを採ったりしてくる。農耕部門は町の付近に作った畑で小麦や野菜などを育てている。あと、私の我儘(わがまま)で米も。

 服飾部門は住民たちの服は勿論、布団などの布製品を扱っている。吸血鬼(ヴァンパイア)たちが今着ている服も、彼らが仕立ててくれた。

 建築部門は住民たちの住まいを建てている。この館も彼らが建ててくれた。

 商業部門は、8つある部門の中で森の外に出る事があるといえる、数少ない部門だ。外と(あきな)いをし、経済を回す。まあ、もっぱら売る側ではあるけれど。

 財務部門は予算のやりくりを主な業務としている。新しく民が増えたときの初期の食費や、公共の施設の建設にかかる費用など、国に関わるお金の管理を任せている。

 教育部門は民たちへ生き抜くために必要なことを教えている。最重要事項は、識字率の増加。それ以外にも、〝お金〟についてなどを教えている。


 最後に、戦闘部門。8つの部門の中で、最も規模が大きい。〈獣魔連邦国(カリヴィア)〉の要である、〈霊獣戦士団〉も、戦闘部門(ここ)に属している。

 戦闘部門は他部門と掛け持ちしているものも多い。実際、全体の3割が狩猟部門にも属している。その理由としては、普段、戦闘になるようなことがない、というのが挙げられる。

 普段は町の警備をし、たまに外へ商いをしに行く時に、護衛するくらいだ。

 それでも、戦闘部門(ここ)に志願するものは絶えない。何故なら、力をつけることが出来るから。その理由は様々だが、別に理由を咎めることはない。

 ――〈カリヴィア(ここ)〉は、どこかに傷を負った者たちの集りだから。


 淡々と、けれど最後だけは感情を滲ませ、語った。


「私からは以上だ。これを聞いて、残るのも去るのも自由だ。返事はまた後日聞く機会を設ける。······どうか、後悔のない選択をしてくれ」


 それだけ残し、3人で部屋から出た。去り際に見えた表情は、誰もが考え込むような、そんな顔だった。



「……あいつら、どうすると思う?」


 部屋から離れ、私の執務室に入った途端、ソウガが聞いていた。それにハイゾラが「どうもこうもないでしょ」と返す。


「里は人間たちに場所を知られ帰れない。族長もいない。そんな状況で飛び込んできためちゃくちゃ条件のいい話、飛びつかないほうがおかしいわ。それに、新しい里を興すにしても、縄張り問題とかがあるでしょうし」

「あー、そっか。下手すりゃ全員狩られちまうもんな」


 若干ソウガの声に喜色が混じったのは気のせいじゃないだろう。それはハイゾラも同じようで、「そうねぇ」と呟いていた。


 この双子、纏う雰囲気に反して、かなりの戦闘好きなのである。戦場に立てば、必ずふたり揃って先陣を切る。

 強敵が居れば、喜々として向かっていく、待ての出来ない猛獣のようだ。


 ちり、と漏れ出る魔力が鋭さを帯びたふたりの頭を軽く小突いた。


()って!? なにすんだよ!」

「なんでって、此処で戦闘時の魔力漏らしてるからだ。鬱憤晴らしたいなら、()か訓練場でやれ」


 同じ表情がふたつ、私を睨む。気にせず、椅子に座って卓上の書類を捌いていく。


 不貞腐れながら、ソファに腰を下ろしたソウガが思い出したように口を開いた。


「……なあ。吸血鬼(ヴァンパイア)たちのことがあって忘れてたけどさ、人間の国からのアレ、どうすんの?」

「あぁ、『属国』の件か?」


 訊き返せば、ぴくりとその肩が揺れた。


「どうもこうも。一度出向く、とだけ書いた紙を使者の(ふところ)に突っ込んである。そのうち解決するから、問題ない」

「……ふぅん。いつの間にんなもん用意してたんだよ?」

「その場で創造し(作っ)た」

「またそれやったの? 能力()あんまり使わないほうが良いって言ったよね?」


 ジト目でハイゾラが咎めるように言ってくるのを、笑って(かわ)す。


「大丈夫だって。前も言ったろ? 使い過ぎに気を付ければ問題は無いって。ほら。現に今、元気だろ?」


 片手を挙げひらひらと振れば、はぁ、と溜め息を()かれた。


「とか言ってた誰かさんが前倒れたことがあるから、心配してるんでしょうが。も一回やるのはやめてよね。あのときは心臓止まるかと思ったのよ?」

「ごめんって。前はちょっと制限が効かなくってさ。昔の話だし、今ほじくり返す必要無いだろ」

「……まあいいわ。それで? オリバリスだっけ? そこに行ってどうするつもりなの? まさか属国になりに行くわけじゃあないでしょ?」

「いや? まさか。あそこって奴隷売買が盛んだから、潰しておこうかなと思ってて。そこにこの提案が飛び込んで来たから、下準備に使う」

「下準備? 何するつもりなんだ?」

「……交渉次第では、奥に入り込めそうじゃないか?」

「「なるほど」」


 にやり、悪い顔で笑い合う。と、そこに勢い良く扉を開け入ってきた者がいた。


「スカイ様〜、ハイゾラ様〜、ソウガ様〜! ――って、うわっ!? 何してんすか!? 何か怖いっす!」


 書類を持った犬の獣人が扉を開けた姿勢のままで固まり、ドン引きした顔で見てきた。気の所為(せい)だろうか? 心なしか尻尾が垂れて、脚の間に入っているように見える。

 対する私たちは何事もなかったかのように、すっと表情をもとに戻した。


「その顔の変化が怖いっす……って、そうじゃなくって。ちょっと気になる噂を聞いたんすけど、御三方にも意見を頂きたいんすよ」

「噂?」


「はい。どうやら、最近貴族や商人たちが各地から傭兵や冒険者を集めているらしいんすよ。で、まあそれ自体は不思議じゃないんすけど、問題が、その貴族や商人たちが()()()()()()()()()()()()()ってことなんすよ」

「へえ? 貴族や商人たちが、ねぇ」


 すぅっとハイゾラの目が細められる。ソウガも同じく。ソファに座り直し、脚を組み、続きを促した。


「そのことで、一部の冒険者たちの間で囁かれている噂が『近々、大規模な奴隷狩りがあるんじゃないか』」


 一瞬にして部屋の空気が張り詰めた。


 『獣人』と聞くと多くが獰猛で喧嘩っ早い種族だと思い浮かべるだろう。別にそれは間違っていない。ただし、一部の奴らだけと注釈がつくが。

 獣人の殆どは比較的温厚だ。――――自身や身内に害が加えられなければ。


 その『比較的温厚』筆頭のハイゾラとソウガが隠すことなく殺気を洩らしていた。耳や尻尾の毛が逆立ち、瞳孔が縦にきゅっと(すぼ)まっている。


「最近大人しくしてると思ったら、そんなことを企んでいたのね……ほんっと、懲りない奴ら。学習能力がないのかしら?」

あいつら(莫迦)にそんな高度な知性、備わってるわけ無いだろ。あるのはせいぜい、自分の欲求を満たす衝動だろ」


 ふふふ、ははは、と双子が笑い合う。が、目が笑っていない。

 美人が凄むと迫力あるっすね、と呟く犬の獣人(カリム)の頬には一筋の冷や汗が流れていた。


「ハイゾラ、そんなに殺気を垂れ流して、どうしたんですか? 可愛い顔が台無しですよ」

「ソウガ、格好いい顔が怖くなっていますよ?」


 突如割って入った声に殺気が霧散する。

 2つの影がふたりを背中側から顔を覗き込んでいた。


「アルル!」

「シャルル!」


 名を呼ばれ「只今(ただいま)戻りました」と同時にお辞儀をする影の正体はふたりの男女の獣人だった。

 顔立ちの似たふたりはソウガ、ハイゾラと同じく双子だ。男の子がアルル、女の子がシャルル。

 柔らかそうな栗毛の髪から同色の(うさぎ)耳が生え、背中側には同色の尻尾がある。桜の花のような色をした瞳は小動物系の獣人特有の柔らかさを纏っている。

 髪の長さは殆ど変わらないものの、結び方に個性が出ている。そしてアルルは左眼を、シャルルは右眼を前髪で隠している。

 顔を上げた拍子に前髪が流れ、合間から水色の瞳が見えた。


「お帰り、ふたりとも」

「お帰り、アルル!! 待ってたわ!」

「お帰り、シャルル!! 寂しかった!」


 即座に反応し、ハイゾラはアルルに、ソウガはシャルルに抱きついていた。ふたりは大人しくし抱きつかれている。

 この行動からそれぞれの関係がわかるだろう。カリムは明後日の方を見ながら「相変わらずこのカップルはどこにいようががスキンシップが凄いっすね……」と遠い目をしていた。


 これは、暫く離れないな……


「……ハイゾラ、ソウガ。今日は休みをやる。呼ぶまで待機だ。アルル、シャルルも同じく……存分にいちゃついてこい」


 苦笑しながら言うと、満面の笑みと感謝の言葉が2つ、微笑と謝罪が2つ返ってきた。


 二組のカップルが一方をお姫様抱っこで抱え出ていき、室内には私とカリムが残された。


「ハイゾラ様もソウガ様も、恋人に会えずよっぽど溜め込んでたみたいっすね……」

「仕方ない。あいつらの愛情は重すぎて、一ヶ月でも会えないのは耐えられない」


 ざあっと風の音がカリムの声を遮る。けれど、獣人の良い耳は風音に紛れたその言葉をしっかりと聞き取った。


「――――は、そういうものなんすかね?」










「…………さあな。私は体験したことがないから、わからない」








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