第9話 新たな住民
「……さて、これからどうしようか」
夜明け前の静まり返った森。王都から出た私たちはその中にある少し開けた場所に集まっていた。
助け出した吸血鬼たちは「ここ、どこ……?」とキョロキョロと忙しなく視線を彷徨わせている。
なお、私に助けを求めにきた少年吸血鬼は遠い目をして「やっぱそういう反応になるよな……俺がおかしいんじゃない、あのひとたちがおかしいんだよ……」と呟いていた。
……解せぬ。そんな異端者を見るみたいに見ないでほしい。
パンッと手を叩き、混乱している吸血鬼たちの意識を引き戻す。
「先に自己紹介をしておく」
私、ハイゾラ、ソウガの順に名乗る。
それでもまだぽかんとしている彼らに、一番大切なことを告げた。
「突然連れ出され、状況が把握出来ていないだろう。だが、貴方たちを悪いようにするつもりは全く無い。私たちは奴隷へと落とされた者たちを助けているだけだ」
「じゃ、じゃあ、私たちは、助かったのでしょうか……?」
一際痩せている、子供を抱きしめていた女性が掠れ、震えた声で恐る恐る尋ねる。それに頷くと、みるみる彼女の目に涙が溜まっていく。
彼女だけではない。幼い子どもたちや、その兄妹、母親も、お互いを抱きしめ、涙を浮かべ笑い合っていた。
その光景に、私へ助けを求めに来た少年が「よかった……」と小さく呟き、自身の妹と母親と見られる女性をキツく抱きしめていた。
しばらくし、落ち着いた彼らに詳しく事情を説明する。
「――私たちは貴方たちの里長の息子から助けを求められ、それに応えたにすぎない。礼なら、彼に」
一斉に視線が少年へ向いた。そのタイミングあまりにも揃っていて、少年がビクッとビクついていた……凄いシンクロ率だな……
「ありがとう……っ、おかげで、子供たちが生きてる……本当にありがとうっ!」
「えっ、いや、俺は何も……助けたのは〈カリヴィア連邦国〉の方たちだから……」
再び賑やかになってく会話に、不意に懐かしさを覚える。
今はもう、見ることの無い――
『『『『『ありがとうございました!!!』』』』』
「「「!?」」」
急な感謝に私だけでなく、ハイゾラとソウガも驚く。見れば、いつの間にか吸血鬼全員が頭を下げていた。
「あなたが他のおかげで、私たちは逃げ出すことが出来ました。本当に、ありがとうございます!」
深く頭を下げ、感謝を述べる女性。その背に、そっと手を添えた。
「助けられてよかった」
∮
「これから、どうするんだ? もと居た里に帰るのか?」
「いえ……里は焼かれてしまって……お恥ずかしながら、帰れる場所はないのです」
「なら、私たちと一緒に来るか?」
「えっ!?」
「私たちが連れ出したんだ、責任は持つ」
「いいんですか?」
申し訳無い、といった様子の女性にソウガが笑いかけた。
「気にすんな。〈カリヴィア連邦国〉は困ってる奴らを見捨てねぇ。それだけだよ」
「っ、ありがとうございます!!」
またも頭を下げる女性に、ハイゾラが確認を取る。
「じゃあ、全員町に来る、ということで良いのかしら」
「はい、お世話になります」
「なら、私は先に行って準備をしておくわ」
「サンキュ」
「助かる」
「そういえばぁ、ソウガ〜? さっき、何であんなのに動揺してたのぉ?」
「え、いや、それは……」
「私いつも、仕事とプライベートは切り替えろって言ってるよねぇ?」
「……………」
言い負かされ、黙り込むソウガ。微妙に耳と尻尾が垂れている気がしなくもない。お頭、ドンマイっす……と部下の狼に尻尾でポンポンされている…………
言い負かしたハイゾラは「じゃあ後で」と残し、走っていった。
「町に入る前に、これを食べておいてくれ」
ひとり一個、赤い珠を配る。
「あ、これ、俺が昨日食べたやつ……?」
「これを食べないと、町に入れないんだ。溶けるから、口の中で転がすだけでいい」
私の言葉を受け、各々、珠を食べてくれた。
「今から移動する。少し足場の悪い森の中を移動するから、歩けない者は狼に騎獣してくれ。町に着いたら、まず宿に案内する。そこで身体を綺麗にし、食事を取って、十分な休養を取るように。明日の昼に改めてこれからの説明をする。それまでに起きておくように」
必要事項を伝えてから、移動を始めた。
その日の真夜中。シャワーを浴び、しっかり食事を取り、少し体力が回復した青年たち。
彼らはこれまで寝たことのないフカフカの寝具にテンションが上り。興奮して寝付けなかったこともあり、枕投げをしだした。
その結果。宿の管理人が盛大に雷を落としたそうだ。




