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初めての飲み会

 依存というのは、恐ろしいものである。

「それ」があることを当たり前のように思ってしまい、その為「それ」がなければ生きていけないと考えるようにさえなってしまう。

 第三者から見たら、明らかにおかしな状況であっても、だ。


 かくいう俺も、現在あるものに依存しているわけで。それが何かというと……


「なぁ、京。今日の晩飯は何だ?」


 恋人の作る絶品料理に、俺の胃袋はがっしり掴まれているのだった。


 京と付き合う前は、基本コンビニ弁当かカップラーメンというなんとも不摂生な食生活を送っていた。

 忙しくて時間がないというのも理由だけど、それ以上に、一人暮らしだと料理する気になれないんだよね。そもそも、料理出来ないし。


 そんな俺の食生活に、京は警鐘を鳴らした。


「ご飯なら私が作ってあげるから、ちゃんと栄養価のあるもの食べなさい!」


 それからというもの、京はほぼ毎日食事を作りに来てくれた。


 締切前は流石に通えないみたいだけど、その場合事前に作り置きして、対応してくれている。

 知ってるか? カレーって、一晩寝かせた方が美味しかったりするんだぞ。


 京の手料理は、控えめに言って最高だ。

 あまりの美味しさに「お前の味噌汁を毎日飲みたい!」と叫んでしまい、「それってプロポーズ? 数年後にやり直し」と呆れられたくらいである。


 兎にも角にも。

 仮にも彼女の絶品手料理を口にしてしまったら、もう二度とコンビニ弁当生活には戻れないのだった。


 だから今日も俺は、さも当たり前のように京に夕食のメニューを確認する。しかし、


「あっ、ごめん。今夜は用事があって、ご飯作れないの」


 なん……だと……。

 俺の頭は、真っ白になった。


 京の料理が食べられない。たった1食であるけれど、その事実に俺は思いの外ショックを受けていた。


「今更お前の料理なしで、生きていけると思っているのか!?」

「ラブコメとしては最高のセリフだけど、言って欲しいのは今じゃない!」


 事情を聞くと、どうやら京は今夜飲み会に誘われているようだ。

 ゼミ長主催の飲み会らしく、電話で直々に誘われた為、断り切れなかったらしい。……俺も同じゼミ所属だが誘われていないことについては、敢えて触れないようにする。


 しかし、ゼミの飲み会ねぇ。

 そう言われて思い出すのは、俺と京が初めて参加した飲み会のことだった。

 確かあの時、京は……


「楽しむのは良いけど、あまり飲み過ぎるなよ。初めての飲み会の時みたいな醜態を晒したら、洒落にならないぞ?」


 初めての飲み会でやらかした京に、俺は彼氏として注意喚起をする。しかし、


「……は?」


 京から返ってきたのは、なんともまぁドスの効いた声だった。


「あなたには、カップラーメンすら贅沢だわ。生ゴミでもあさってなさい」

「どうして唐突に悪口!?」


 心配してあげたというのに、何だよ、その言い草は。

 女という生き物は、やっぱり複雑怪奇である。





「……バカ」


 飲み会の会場に向かいながら、私・芦屋京は吐き捨てた。


 初めての飲み会の時のことは、私もよく覚えている。

 女の子たちに囲まれてデレデレしている彼氏(当時はまだ彼氏じゃなかったけど)の顔を、忘れるわけがないじゃないか。


 人気漫画家という肩書きは、モテる。

 知名度はあるし、金もあるし。将来有望な男に媚びを売りたい気持ちは、同じ女として理解出来た。


 だけど、なんか面白くない。


 私は一刻も早く、その場から立ち去りたかった。

 一刻も早く、彼を立ち去らせたかった。


 両方の目的を果たす手段として、私は酔い潰れたのだ。

 私が理性を失うまで飲めば、きっと真太郎は介抱してくれるから。そうすれば、私も彼も帰宅せざるを得ないから。


 単に飲み過ぎて潰れたわけじゃない。苦肉の策として、あんな醜態を晒したのだ。


 だというのに。


 あまり飲み過ぎるな? 醜態を晒したら、洒落にならない?

 あなたのいない飲み会で、あなたの彼女である私が、酔い潰れるわけないじゃない。

 たとえ超イケメンな石油王が私を口説いてきたとしても、指一本触れさせてやるものですか。

 

 飲み会の会場に着く。

 私以外の参加者は、既に到着していた。


 全員揃ったところで、皆が最初の一杯を注文し始める。


「芦屋さんは、何飲む?」


 尋ねられた私は、こう答えるのだった。


「それじゃあ、ビールをお願い。ノンアルコールのやつ」

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