表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/110

第八十九話 最高戦力

「本当に⋯⋯心配したのよ!」

「ご、ごめんなさい!」

 勢い余って倒れそうになりながらも、母の抱擁をしっかりと受け止める。

 この柔らかい感触、この香り⋯⋯ああ、懐かしい。


「でも、どうして母さんたちがここに?」

「そんなの、手紙にあんなこと書いてあったら駆けつけないわけないじゃない!」

「手紙⋯⋯?」

 心当たりがなかった。

 冒険者だった頃は定期的に送っていたが、学園に入学してからはすっかり止めていた。それに、最近は手紙を書く暇さえなかったはずだ。


「ったく⋯⋯ほら、これだよ」

「これって⋯」

 父から差し出された紙には、俺のよく知る人物の名が綴られていた。


_______________________


 ベルが黒竜に殺された。

 原因は私にある。私が学園に彼らを、黒竜を招き入れた。

 本当にすまない。謝っても許されることではないのはわかっている。

 恨まれて当然だ。それでも、これを伝えないわけにはいかなかった


 これから私らは、ルドベキアを陥落させた後、シモウサに向かうだろう。

 カインたちが逃げた方向からして間違いない。

 私らの狙いはカインではないけど、あいつは絶対仲間を置いて逃げない奴だ。


 私はカインの敵側に立った。父の、復讐のためだった。

 だけど、こんなことになってしまうなんて予想もしていなかった。

 ベルを殺してしまったんだ。

 ルドベキアの第一王子もこの手で殺害した。

 もう後戻りできないところまで来てしまったんだ。


 だから、頼む。


 カインたちを守ってくれ。

 そして私を、殺してくれ。


 自分勝手なのはわかっている。

 でも、こんなことを頼めるのは二人しかいないんだ。



 私を、とめてくれ


              椿

_______________________



 手紙を読んだ俺は、思わず口を噤んだ。

 複雑な気持ちだ。うまく整理ができない。

 ベルが死ぬきっかけを作ったことは、到底許せることじゃない。

 でも、でも⋯⋯


「あいつ、本当に馬鹿だよな。ずっと馬鹿なんだよ──」

「父、さん⋯⋯?」

「だからよ。あいつが道を踏み外したときは、俺たちがぶん殴ってやらなきゃいけねえんだよ」

「──それに、ベルちゃんに痛い思いをさせた黒竜? と言ったかしら。私たちを怒らせたらどうなるか、身を持って教えてあげないといけないでしょう?」

「母さん⋯⋯」


 普段通りの穏やかな笑みを浮かべているつもりだろうけど、俺ですらはっきりと感じ取れる。

 ベルを失って怒っているのは、俺だけじゃない。

 父も母も同じ気持ちに決まっている。


 ──でも、相手はあの黒竜だ。

 ナガマサさんでさえ敵わなかった相手に、二人が勝てるイメージが悪いけど全く湧かない。

 それにそもそも母さんって戦えるのか?

 今まで一度だって戦う姿なんて見たことがないんだぞ。


「その前に、母さんって⋯⋯」

「ん? ああ、ルイのことね。安心して頂戴。近所のママ友に少しの間、預かってもらっているわ」

「いや、そのっ⋯そうじゃなくて!」

 たしかに、言われてみればルイの所在は重要なことだけど、俺が聞きたいのはそっちじゃなくて⋯⋯


「──母さんって、戦えるの?」

「あら、そんなことを心配してたのね。本当に優しい子に育ったのね」

 そう言ってルミアがまた俺を抱きしめる。その背後ではダインとライゼンが大笑いしていた。


「ハッハッハッ! ルミアの心配をするとは、お主の息子は将来が楽しみだな!」

「ああ、まったくだぜ。ミアの心配をするなんて百年早いっての」

「え⋯、え?」

 予想外の反応に思考が停止した。

 相手はあの漆黒の竜。母さんの心配をするのは当たり前のはずだ。

 それなのに、どうしてダインたちは笑っているのだろうか。


「カイン、私たちが冒険者だったことは話したわよね?」

「はい⋯⋯でも相手は、プラチナランクの冒険者パーティですら敵わなかった黒竜なんですよ!? 母さんと父さんはゴールドランク冒険者。プラチナランクならまだしも、どう考えても危険じゃないですか!」


 俺が必死にそう訴えると、母さんは静かな笑みを浮かべた。


「──たしかに私たちはゴールドランク冒険者として引退したわ」

「だがそれが⋯⋯もし一時でも『プラチナランク』だったとしたら話は別だろ?」

「えっ?」

 父さんの言葉に俺は一瞬固まり、ぽかんと口を開けてしまった。

 その言葉が示すことはただ一つ。

 もしかして、父さんと母さんたちは──


「私たちは、元プラチナランク冒険者だったの」

「あのときは大変だったなあ」

「あんな戦い方はもう懲り懲りよ」

「ハハッ、懐かしいな!」

 父さんはにやりと笑みを浮かべ、得意げに胸を張った。


「カイン、お前に教えてやるよ。俺たちのパーティ名は『不滅の狼牙』。

 人呼んで──」

 父さんは一拍置いて、誇らしげにその名を告げた。


『レブナンツ』


 ダイン、ルミア、ライゼン、シオン、そしてツバキ。

 その五人で構成された冒険者パーティが、それがまさか、カガミたちと同じ『プラチナランク』であった、と。

 こんな都合の良い話が、現実にあっていいのだろうか。

 だが、その『都合の良い話』が現に起きている。


「そしてだ、カイン。そんな俺たちが誇る最高戦力が、俺の妻だ」

「⋯⋯は?」

 意味がわからなかった。

 あのお淑やかで、優しくて、包容力があり、誰がどう見ても理想のママであるルミア・レリウットが、プラチナランクパーティの『最高戦力』だって?

 冗談もいいところだ。


 流石に嘘だろうと笑い飛ばそうとしたが、この場にいる誰一人、それを否定しない。


「はは、まじか⋯⋯」

「ま、つまりこういうこった」

 ダインは微笑みながら俺を見つめて言い放った。


「黒竜とあのバカは、俺たちに任せな」

 その時の二人の頼もしい姿を、俺はしばらく忘れられそうになかった。

作者コメント:母は偉大です


ここまで御覧いただきありがとうございます。

よろしければ、


・ブックマークの追加

・広告下の「☆☆☆☆☆」から評価


をしていただければ幸いです。


また、皆様からの感想やアドバイスを、いつでもお待ちしておりますので、ぜひお聞かせください。


次の話もぜひお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ