間話 シュヴァン・トゥールース
何かカードが必要だった。
「⋯⋯また失敗か」
「はい、これで3人目です。対象を他の種族に変えた方が良いのかもしれません」
「──それなら、精霊族、小人族及び、異世界人を対象者に追加しろ」
「かしこまりました」
種族を問わず、人体を使用した実験は当然固く禁じられている。
だが、迷っている時間などない。
昨年の餓死者は全人口の一割、約五千人にも達した。
国家存亡の危機に瀕しているというのに、誰もそれを自覚しようとしない。
家柄だけで重職を与えられた大臣たちのもとでは、国が腐るのも必然だ。
彼らにあるのは無駄なプライドと私腹を肥やす欲望のみ。自分の利益に繋がらなければ動こうとしない。
今すぐにでも罷免したいところだが、相手は腐っても大臣だ。悪知恵だけはよく働く。
正当な理由があろうとも、一筋縄ではいかないであろう。
──ならば、その悪知恵を利用するまで。
『世界最大規模の魔核』
魔核はいわば魔力の増幅器。
もし、そんな代物があれば、膨大な魔力を必要とし、これまで現実的でなかった産業が、この国でのみ可能となる。
そして、それは同時に金となり、害虫共に切れる必殺のカードとなる。
飢えて死んでいく数千の命を救えるのならば、そのためならば⋯⋯
「──この魂など、喜んで差し出してやろう」
焦りを抑えきれなかった。
だが、そういう時に限って結果はいつも理想とは程遠くなる。
──実験は失敗。全滅だった。
さらに犠牲者が出た。人族が一名、精霊族が二名、小人族が一名。
魔法陣上の極限まで凝縮された魔力密度に、誰一人耐えることができなかったのだ。
この魔法は、十数名の魔法使いの魔力を一点に集約する。
それは例えるなら、ダンジョン最奥の膨大な魔力を、たった一人の人間に強引に注ぎ込むようなもの。
並の魔法使いどころか、熟練の術者ですら、その負荷に耐えられはしない。
加えて、このような実験をしていると知られぬよう、人手も十分に用意できない状況だ。
研究を始めて数年。そろそろ情報が漏れ出てもおかしくない頃だろう。
成果が先か、それとも極刑が先か。
それでも──
「我が息子二人に、ひもじい思いをさせるわけにはいかぬからな」
──成功させなければならなかった。
しかし現実は、犠牲者の遺体ばかりが積み上がっていく。
ただ、すべてが無駄だったわけではない。
対象となった異世界人三名のうち、一名の身体に、わずかながら『魔核』が形成される兆候が確認された。
それこそが、曖昧な情報しか存在しなかった『禁忌の魔法』の実現に向け、大きく前進した瞬間だった。
我はその要因を探るため、異世界人の『解剖』を命じた。
本来、この国に限らず『解剖』とは死者への冒涜にほかならない。
だが、禁忌に手を染めた時点で、もはや引き返す道など存在しない。
禁忌魔法を試みた者と、試みなかった者、その両方を調べた結果──
「⋯⋯それは、本当か?」
「はい。魔法を使用する前の身体にも、『魔核』が存在しておりました」
眼前の布が開かれる。
そこには確かに存在していた。
指先ほどの大きさしかない、透き通った淡い紫色の結晶が。
でも、それは本来ありえないはずのことだった。
魔核とは通常、魔力濃度が一定以上の環境に適応するため、生物が誕生する際に自然と生成されるものだ。ゆえに魔獣は森の奥地やダンジョンの深部など、特に魔力濃度が高い場所でのみ見られる。
一方、異世界人が発見されるのは、主に一般的な街中や行商人の通る交易路のような、魔力濃度の低い場所ばかり。
稀にダンジョン内部で発見されることもあるが、生存していたという事例は今まで一度もない。
つまり、異世界人は平均的な魔力環境において出現したのにもかかわらず、なぜか魔核が形成されていることになる。
「それはつまり、異世界人というのは──」
「おそらく、魔力がない世界、もしくは極端に魔力が少ない世界からきたものと考えられます」
「本当に、異なる世界から来たというのか⋯⋯」
だが、その仮定があれば納得できる。
異世界人の体内に確認された魔核は、この世界に適応するため、短期間で急速に形成されたもの。
そしてその魔核が、まだ『発達途中』の状態だとしたら⋯⋯
「十数人分の魔力を、一つの人体に極限まで凝縮させ、その成長を促せば──」
──全身を侵食し、人の形をした『世界最大の魔核』が誕生する。
たしかに、これは禁忌とされて当然の魔法だ。
人の身体を魔核が侵食するなど、正気を疑われても仕方がない。
──だが、これで活路が見えた。
恨まれても構わない。
その果てに、我が身が滅ぼうとも。
「この国で最も強い異世界人を探し出せ!」
──もはや、猶予はないのだ。
作者コメント:俺は好きよ
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