第八十三話 形見
数十分程経ったのだろうか、ようやく気持ちも落ち着いてきた。
私はゆっくりと起き上がり、ローブについた枯れ草を払い落とす。
「お腹は減ってる?」
「⋯⋯先に帰ったんじゃなかったんですか?」
「そのつもりだったんだけど、途中でおいしそうな食べ物が売ってたから、一緒に食べようと思ってね」
そう言って、カインの手には二本の串焼きがあった。
「──それじゃあ、一本もらいますね」
「おう」
カインから一本を受け取り、そのまま一つの肉の塊を口に入れる。少し冷めていて、固くなっている。
不器用な優しさ──でも、それが彼らしい。
⋯⋯もう、これ以上、彼の足を引っ張るわけにはいかないですね。
「カイン、あなたに渡したいものがあります」
「俺に⋯⋯?」
/////
「こちらにきてください」
「お、おう」
モモの後をついていくと、彼女は隅に寄せていたバッグの中から何かを取り出した。
「モモ、それってまさか⋯⋯」
「はい、そうですよ。カイン」
モモの胸に大切そうに抱えられた、布で包まれた縦長の物体。ゆっくりと布を外すと、その正体が明らかになった。
それは、いつもナガマサさんが腰に携えていた、あのリンドウさんの──
「形見の刀⋯⋯」
「はい、そしてベルさんからはこちらを」
「これって──」
差し出されたのは、かつての自分が彼女にプレゼントした、琥珀色の宝石が装飾されたペンダントだった。
こんな明らかに偽物の宝石がついたものを渡していたなんて、今思うと呆れてしまう。
ペンダントにはところどころ傷があり、色も霞んでいる。でも、不思議なことに、その輝きだけは失われていなかった。
⋯⋯全く、ベルらしいな。こんなおもちゃみたいなのをずっと大切にして。
新しくて、もっと良いものなんて、いくらでもあっただろうに。
それでも彼女は、ずっと、ずっとこのペンダントを──
俺は二つの形見を静かに抱きしめた。
「──ああ」
二人の姿、二人の声、二人の温もり。時間が経てば、それらもきっと徐々に薄れていくのだろう。そう思うと、胸の奥が締め付けられるような恐怖と、どうしようもない寂しさが押し寄せてくる。
会いたい──でも、それは絶対に叶わない。
「ナガマサさん⋯⋯ベル⋯⋯!」
「カイン、今日ぐらいは、我慢しなくても良いと思いますよ」
その言葉を聞いた途端、感情が抑えきれなくなった。二人との思い出が次々と脳裏に浮かび、胸の奥から込み上げる感情が喉を詰まらせる。息が苦しい。瞳が熱くなり、視界がぼやけていく。
「──うああああああッ」
今まで溜め込んでいた思いが一気に溢れ出してきた。
俺は人目を気にせず、喉がはち切れんばかりに叫び声を上げた。
二人への思いを込めて、ただただ天を仰ぎながら泣き続けた。
/////
「⋯⋯ごめん。ありがとう」
「いいんですよ」
泣き疲れた俺は、ようやく涙も止まり、少しずつ、いつもの自分を取り戻してきた。
腕の中には、今もなお、大切に二人の形見を抱えている。
「大切に使わせてもらいますよ」
この刀、握ったただけで、魔力が刀先まで満遍なく均等に行き渡るのがはっきりとわかる。これなら、俺の全てを込めても耐えられる。
──ようやく、道が見えた。
静かに立ち上がり、琥珀色の宝石が輝くペンダントを首にかけた。
もう、迷いはない。覚悟も決まった。
あとは、ナガマサさんのもう一つの形見、「天衝」を完成させるだけ。
「⋯⋯それと、ベルの杖も弁償しなくちゃな」
「はい、ですがこれはカンナにオーダーメイドで作ってもらったものですので、カンナがいないと直せないのです」
「そう、だったんだ。それは、ごめん」
「いいんですよ。破壊されても仕方のない戦い方を選んだ私にも責任はありますから」
そう言いながらも、モモは悲しそうに壊れた杖を見つめていた。
治すにはカンナの技術が必要、でもカンナはたしか、ダンジョンのある街ニースにいるはず。こんなシモウサに偶然いるわけが⋯⋯
「ん? どうしてモモがここにいるのじゃ?」
「カ⋯⋯!」
灰色の髪に黄色の瞳。そして、モモと同じくらいの身長。
「カンナ!!」
「な、なんじゃ、いきなり叫びおって」
俺たちが求めていた人物が、何故か目の前に立っていた。
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