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第八十二話 覚悟

 カインの声が響いた瞬間、私の体は自然と動いていた。

 流れるように杖を振りかざし、魔法を発動する。


『炎嵐』

 巨大な炎が渦を巻き、轟音とともにカインに向かって襲いかかる。少し離れていても感じる熱気。手を抜いたつもりはない

 それなのに、彼は笑みを浮かべ、腰にかけていた刀に静かに手を添えた。


 ”一閃”


 目の前で彼が放った一太刀、その軌跡が地面と水平に伸び、私の魔法を一刀両する。まるで蝋燭の火が吹き消されたかのように、炎は瞬時に霧散し、跡形もなく消えてしまった。


 やっぱり、これでは歯が立ちませんか。けれど、それは織り込み済み。私はすでに次の魔法陣を展開している。


『雷槍』

『風刃』

 無数の稲妻の槍が地を駆け抜け、風の刃がカインに迫る。


「⋯⋯さすが、モモだよ」

「くっ──!」

 そう言い残したカインは、地面すれすれに体を伏せ、一気に走り出してきた。

 魔法が着弾し、砂埃が激しく舞い上がる。しかし、砂が晴れると同時に、速度そのままで、一切の傷を負っていないカインが姿を現した。


「⋯⋯すこしは、止まってくださいよ!!」

『氷牢』

 魔法陣が輝き、瞬く間に氷の檻がカインを包み込む。冷気が辺りを覆い、氷壁が一瞬で彼の動きを封じ込めた。


 魔法使いは基本的に中距離から遠距離でしか有効な攻撃手段がない。

 だが、この距離、この威力では近接戦闘を得意とする彼にはすぐに対処されてしまう。

 できれば、彼でも防げない至近距離で魔法を放ちたい。でも、それは自殺行為だ。何の策もなく彼の間合いに飛び込めば、勝負は一瞬で決まってしまう。


 ⋯⋯だから、チャンスは一度きり。


「ドンッ」という鈍い音とともに氷にヒビが入ったのを確認すると、私は杖を手に握りしめ、地面を思いっきり蹴って走り出した。


「想像以上に硬かっ⋯⋯」

 ようやく、彼の表情がわずかに崩れた。

 思ってもいなかったでしょう、魔法使いが自ら間合いに入ってくるなんてね。

 カインの反射的に振られた刀なら、私でも受け止められる。

 反射的に振られた、手加減されたものなら。

 長年愛用してきた杖を間に挟み、刀の刃先が食い込む。樹木で作られたこの杖は、急いで抜こうとしてもすぐには離さない。


「──これなら防げませんよね?」

 すでに背後には、発動寸前の魔法陣が準備されている。

 炎、水、雷、風──四属性同時発動。

 魔法陣の輝きが最大限に達し、放たれる瞬間が迫る。


「これで終わりです」

 勝利を確信したその瞬間、視界にカインの顔が映った。


「⋯⋯これじゃあ、ベルのこと悪く言えないな」

「え?」

 その言葉が理解できないまま、突然、カインの刀が赤く輝き始めた。


「これは、『刀気』⋯⋯」


 気づいた時には、私の杖の上半分が宙を舞い、背後に展開していた魔法陣は、たった一振りで全て砕け散っていた。そして、反射的に身体をのけぞらせた私はそのまま尻をつき、地面に座り込む。


「俺の勝ちだな」

「⋯⋯そう、ですね」

 正直、心のどこかでこうなることはわかっていた。

 それでも──もしかしたら、という一縷の望みにすがり、ほんの少しだけ期待していた。

 でも、結果は変わらなかった。想像していた通り。


 私はそのまま地面に仰向けに倒れ込んだ。

 空は青く澄み渡り、心地良い風が静かに頬を撫でる。


 ⋯⋯やっぱり、私では、あなたの隣には立てないのですね。


「それで、どうして対決を申し込んだんだ?」

「カインの覚悟を、試してみたかったんですよ」

「⋯⋯そっか、確かにあんな情けない姿を見せちゃったんだから、当然だよな」

 そして、カインは一呼吸置いて、遠くを見つめながら静かに言った。


「覚悟は決まったよ」

「それなら──よかったです」

 もし、本当の理由を伝えてしまえば、それが彼の足かせになってしまうかもしれない。だから、これでいいんです。これで⋯⋯


「先に、戻ってもらってもいいですか? もう少し、この風を浴びていたいので」

「──たしかに、ここ最近はこんなにゆっくりする時間は無かったしね。それじゃあ、お言葉に甘えて、先に戻ってるよ。ちなみに杖はしっかり弁償させてもらうからな」

 そう言い残し、彼は背を向けて去っていく。その姿が完全に見えなくなったのを確認すると、私は静かに手のひらを顔に当てた。


「⋯⋯こんなに、つらいんですね」

 誰にも気づかれないように、誰にも聞こえないように、私は押し殺すように呟いた。

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