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第八十一話 理由

 寄宿に戻った俺は、一人で悩んでいた。


「さて、強がってみせたはいいものの、どうするかな⋯⋯」

『煉転』についてようやく進展があったというのに、今の俺には大きな問題がある。

 それは、ベルとの戦闘で武器を失ったことだ。


 まさかベルの拳で破壊されるとは思ってもみなかった。少しとはいえ、ミスリルで作ってもらったのに。


 おそらく、ここシモウサなら刀は売っているだろう。

 ただ、生半可な刀では『天衝』の威力には耐えられない。

 今、求めるのは、俺の全魔力を込めてもびくともしないほどの、より強固な刀。

 そんなものが果たして見つかるだろうか⋯⋯


 ──コンコン。

 ドアがノックされた。


「誰だろう⋯⋯?」

 静かにドアを開けると、視界の隅に小さな頭の先だけが見えた。

 視線を下げると、その正体がはっきりとわかった。


「──モモ! 体調は大丈夫?」

「ええ、おかげさまで」

 いつものモモの姿を見て、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 しかし、確かにいつもの姿なのだが、どこか違和感があった。


「病み上がりなのに、どこか出かけるのか? そんな荷物まで持って⋯⋯」

「はい、実はそれで、カインにお願いがあってきました」

「俺に?」

 いつものローブを羽織り、大きめのバッグを背負っている。まるでダンジョンにでも行くかのような風貌だ。

 モモは一呼吸置いてから、再び俺の目を見つめて言った。


「私と対決してください」

「なっ⋯⋯」

 まさか、モモからそんな提案をされるとは、全く予想していなかった。

 冗談かとも思ったが、モモの目を見た瞬間、すぐにそれが本気だと理解した。


「理由は?」

「今お伝えしなければ受けていただけないのなら、お答えしますが⋯⋯」

「──わかったよ。それで対決するって言ったって、どこでやるんだ?」

「ここから数十分ほど歩いたところに、開けた場所があるそうなので、そこで。あと、武器は以前のものと比べると劣りますが、これを──」

 モモが背負っていたバッグから一本の刀を取り出し、俺に手渡した。

 俺はそれを受け取り、一度鞘から抜いて、状態を確かめた。


 ⋯⋯うん、これなら少しは戦えそうだ。

 俺は刀を鞘に戻し、腰にかけた。


 モモがなぜこんなことを言い出したのかはわからない。けれど、きっと何か理由があるはずだ。そしてその理由は、おそらく対決すれば明らかになる。


「行きましょうか」

「ああ」



 //////



 ──あの日、私は二人から託されたものがある。

 それは、とてもとても大事なもの。

 でも、これをカインに渡してしまったら、きっと彼の覚悟が固まってしまう。

 そして、もう二度と、彼と会えなくなってしまう気がする。


 カインは言った。

 ベルさんが生きていれば、どうにかなったと。

 それはつまり、私では力不足ということ。私では、戦況を変えることができないということ。私では⋯⋯


 ──頼りにならないということ。


 彼の目には、ベルさんしか映っていない。

 私なんて、最初から眼中になかったんだ。


 今も彼は、彼女の影を追い続けている。

 それが、私には彼の死へのカウントダウンに見えてしまう。


 止めたい。

 だけど、その資格が私にはない。

 だから、こうするしかなかった。


 ──私は⋯⋯正直、仇なんて取らなくてもいいと思っています。

 私は、このまま逃げたいです。

 このまま逃げて、今まで通り、平穏に暮らしたいです。


 だって、相手は黒竜だけじゃない。

 無音に、精霊国の元国王様もいる。そして何より──姉さんがいる。


 無事に済むわけがない。全滅だって十分にあり得る。

 そうなるなら、逃げた方がまだ未来があると、私はそう思ってしまいます。


 ベルさんやナガマサさんのおかげで、今私たちはこうして生きている。

 だからこそ、この命を大切にするべきなんじゃないですかって──。


 でも、カインはきっと、そうは考えないでしょう。

 カインは必ず立ち向かう。

 それが──それこそが、私が惚れた「カイン」という人なのだから。


 ──ほんと、好きになるって辛いですね。


 言葉では止められないのはわかっています。だから、無理やり止めます。

 この対決に勝って彼を止める。

 たとえ、彼がそれを望んでいなくても。


「準備はできましたか?」

「もちろん」

 彼は優しく微笑んで、私と向かい合った。

 さわやかな風が吹き、髪が少しなびく。


 私は大きく息を吸い、ゆっくりと時間をかけて吐いた。

 激しく鼓動する胸の前に杖を掲げ、中央にある魔核に意識を集中させる。


「⋯⋯カインは知らないかもしれませんが、私だって強くなったんですよ」

 彼に聞こえないように小さく呟き、私はゆっくりと顔を上げた。


「それでは、行かせてもらいますね!!」

「ああ、こい」

 こうして、私と彼の勝負の火蓋が切られた。

ここまで御覧いただきありがとうございます。

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