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第七十九話 長老

 外に出ると、街は活気に包まれていた。

 行き交う人々、屋台が立ち並び、賑わいは絶えないが、注目すべきはそこではなかった。


「やけに、異世界人が多くないか」

「ええ、噂には聞いていましたが、ここまでとは⋯⋯」

 すれ違う人々の半分以上が、異世界人というより、正確には日本人だろう。

 服装も、着物が多い印象を受ける。これほどまでに日本人のような顔立ちが並ぶと、俺たちの方が異世界人のように感じてしまう。


「ただ、本当にこんなところに黒竜に対抗できるだけの兵器なんてあるんですかね」

「⋯⋯まあ、たしかにな」

 ミリアがそう疑問に感じるのも無理はない。街は確かに人が多く、活気に溢れているが、ルドベキアのように文明が発達しているようには見えなかった。


 ⋯⋯本当に、そんなものがあるのか?

 そう思いながら、周囲を見渡していると、ふと目に入ったものがあった。


「ん? どうしたんだ、少年。もしかしてこいつが気になるのか?」

「⋯⋯あ、はい。もしかしてそれって──」

 明らかに見つめすぎて、店主のおっちゃんに気づかれてしまった。しかし、それでも俺の視線はその一つの物から離れない。

 それはまさに、屋台の定番とも言える代表的な食べ物だった


「『チョコバナナ』、ですか?」

「おう、そうだぜ! よく知ってるな!」

 黒いチョコソースがたっぷりとかかった棒状の食べ物。その艶やかなコーティングが光に反射して、見るからに甘く濃厚なチョコレートの香りが漂ってくる。

 まさかこの世界で出会えるとは思ってもいなかった。


「それ一つ、もらえますか」

「おう! 銅貨2枚だ」

 決して、いやらしい気持ちなんて微塵もないよ?

 微塵もないけど店主からチョコバナナを受け取ると、そのままミリアに差し出した。


「え、いいんですか」

「ああ、せっかくこんなに屋台があるんだし、一つくらい堪能しとかないとね」

「では、お言葉に甘えさせていただきますね」

 ミリアはそれを受け取ると、早速、小さな口を精一杯開けて、ゆっくりと黒い棒状のチョコバナナを近づけていった。

 そして──


 パクッ!


「んー! すごく美味しいです! カインさん、ありがとうございます」

「うん、それならよかった」

 俺は微笑みながらゆっくりと前を向いた。


「さ、寄り道はこれぐらいにして行こうか」

「はいっ!」

 ⋯⋯まあ、普通はそう食べるよな。

 ミリアは口元にチョコがついているのにも気づかず、いつもの笑顔を見せていた。それを見た俺は心の中で誠心誠意、反省した。



 /////



「さ、着きました。ここに、長老様がいるはずです」

「なるほどね、まさに『ザ・日本の屋敷』って感じだな」

 屋敷の前に立ち、俺は無意識に染み付いた癖で、軽く戸を叩こうとした。すると、手が触れる寸前で、その戸が開かれた。


「おや、お客さんとは珍しいね」

「⋯⋯貴方がここシモウサの長老様ですか?」

 そこに立っていたのは、年老いた女性だった。


「なに、人より少し長く生きているだけの、ただの老いぼれさ。それで、このわしに何の用かね?」

「ここシモウサには黒竜に対抗できる兵器があると聞いています。それについて、どうか私たちに教えていただけないでしょうか」

「──だめだ」

「えっ⋯⋯」

 即答だった。


「そこをなんとかなりませんでしょうか!」

「どこで知ったのかは知らんが、部外者に教えるわけにはいかない。力になれなくてすまんな」

 一瞬で纏う雰囲気が変わった。ミリアはなんとか食い下がろうとしているが、おそらく無理だろう。


 だが、こちらもそう簡単には引き下がれない。


「そこをなんとかお願いします」

「すまんが諦めてくれ。これ以上引き下がらぬようなら、穏便には済まなくなるぞ」

「⋯⋯っ」

 老婆の目を見ればわかる。これはハッタリではない。

 俺は一呼吸置き、再び老婆と視線を合わせた。


「【お願いします。俺はどうしても、ナガマサさんの仇を取らないといけないんです】」

「お主、その言葉⋯⋯それより今、ナガマサと言ったな?」

「はい。ナガマサさんは俺たちの逃げる時間を稼ぐために、黒竜と戦闘して、そのまま⋯⋯」

「──そうか」

 老婆は深く息を吐くと、回れ右をして屋敷の中へと入っていった。


「ついてこい」

「カインさん、今のは⋯⋯」

「行こう」

 老婆の後を追い、長い渡り廊下を抜けると、床一面に畳が敷き詰められた大広間へと出た。


「そこに座りなさい」

 老婆の指示に従い、足を揃えて座ると、彼女も正座で向かい合った。


「わしも覚悟を決めよう。『生きる災厄』、黒竜に対抗できるその兵器とやらの存在を」

「では、本当にあるんですね?!」

「ああ、あるとも。そして、わしらはそれをこう呼んだ⋯⋯」

 老婆は静かに頷き、一瞬の沈黙が場を包んだ。張り詰めた空気の中、彼女は静かにその口を開く。



「──『煉転』と」



ごめんなさい

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