間話 手紙
バースからは、時間にして一週間ほど。東に真っ直ぐ、ほぼノンストップで走り続ければ、シモウサに到着できる。
ただし、不安定な足場と密集する木々のせいで、馬車は使えない。
だから、移動手段は一つだけ──自分の足で進むしかない。
「みんな、疲れは大丈夫?」
「ええ、なんとか」
「僕もまだ大丈夫ですよ」
二人の返事が聞こえたが、その表情を見れば相当無理をしているのがわかる。
無理もない。俺が気絶していた間、二人は夜通しで俺をバースまで運んでくれたのだから。
「今日はここで野宿しよう」
「ええ、そうして頂けると──ありがたいです」
今日で三日目。流石にここが限界だろう。
ウィルとモモの二人は止まるやいなや、地面に手をついて大きく息を吐いている。
その点、ライゼンさんはさすがだ。周囲の警戒や戦闘回数も比較的多いはずなのに、呼吸一つ乱れていない。
俺は魔法で火を起こし、今日はウィルとモモを休ませるために、ライゼンと交代で見張りを務めることにした。
今のところ、ペースとしては順調だ。ただ、均衡はいつ崩れてもおかしくないほどギリギリの状態。
こういうときは、必ずと言って良いほど、何か問題が起こるものだ。
そして、その予想は見事に的中した。
「カインさんっ、モモさんの様子が──!」
「ワシに見せてみろ」
急いで駆け寄ると、ライゼンの腕に抱かれたモモは、息苦しそうに肩で息をし、顔が赤く火照っていた。
「モモっ、大丈夫か!」
「──熱があるな。今は大丈夫だが、このままではどんどん免疫が落ちていくだろう。こんな森の中じゃ、適切な処置もできない。となると、方法は一つだ」
「──今以上に急がなくてはいけない」
「そうだ」
今でさえ、限界に近いペースで進んでいるのに、それが本当に可能かどうか。
「カイン、私のことは気にしないでください。こんなのすぐに治りますよ──」
「モモ──」
か細い声で、こんなにもつらそうな顔をしているのに、俺はなんて馬鹿なんだ。モモに気を使わせてしまうなんて。
ここに来るまで、どれだけモモに助けられてきたと思っている。
「モモは俺が背負います。ライゼンさんはウィルをお願いします」
「ああ、わかった」
「ちょ、ちょっと」
「僕はまだ走れますよ」
弱々しく抵抗するモモを無理やり担ぎ上げ、ライゼンもウィルを抱えあげる。
「少しは俺にも、モモの力にならせてくれ」
「──わかりました」
「ウィルもだ。今はゆっくり休んでくれ」
「カインさんが、そうおっしゃるなら──」
その言葉を聞き、俺はゆっくりと前を向く。
息を整えて、モモがずれ落ちないようにしっかりと支える。
「さて、それじゃあ──」
ここからシモウサに着くまで、休めると思うなよ、俺。
できるかどうかじゃない、やるしかないんだ。
「行くよ」
/////
「お母さん!」
「どうしたの?」
ハーフエルフの女性は庭に出て、まだ幼い少女のもとに駆け寄った。
「これあげる!」
「あら、いいの?」
少女の手から小さな赤い花を受け取ると、少女はまた笑いながら、女性の足元に抱きついた。
「そういえば、べるお姉ちゃんはいつ帰って来るの? また遊びたいよ」
「そうねえ、それじゃあ、お手紙を書いちゃいましょうか」
「うんっ! 書く!」
無邪気に笑う少女の手を引いて家の中に戻ろうとしたその時、突然、男の声が響いた。
「ミア!」
「ちょっと、どうしたの? そんなに大きな声出さなくても──」
「──これ、見てみろよ」
その男の手には一枚の手紙が握られていた。
「それが、どうしたのよ」
「いいから、中身を見てみろよ」
「もう、わかったわよ」
彼女は手紙を受け取り、数秒間、そこに書かれた文字を見つめた。
「──うそ、そんなっ」
彼女の顔から血の気が引き、手元から手紙が滑り落ちた。手紙はゆっくりと宙を舞い、静かに地面に着地する。その差出人の欄には彼女らの見知った名が記されていた。
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