第七十七話 原点
──俺の、今までやってきたことは一体何だったんだろう。
大切な人を失い、大切な仲間の信頼も失った。過程は違えど、結果は前世と大差ない。
その事実が、壊れかけの俺の心を修復不可能にする。
⋯⋯何が後悔の無い人生をだよ、笑わせてくれる。後悔だらけじゃないか。
精一杯あがいてきて、結局これか。
もう、ベルはこの世にいない。ナガマサさんとも二度と会うことはない。
そして、敵は強大すぎる。ベルですら勝てなかった。 あのエドワード学園長でさえ敵わなかった。俺が勝てるはずがない。
つまり、全てが無駄だったんだ。
この異世界での人生。後悔のない生き方をするために、前世の怠惰な自分を変えようとしてきたのに、だ。
前世の俺は、何もしなかったせいで人に見限られた。そして最期の瞬間まで、後悔しか残らなかった。
だが、今回は違う。俺は必死に抗った。だからこそ、今のこの現実に耐えられない。必死にあがいても、結局このざまだ。
何も成し遂げられない。守りたいものも、救いたい人も、何一つ手に入らない。
手を伸ばしても、全てが指の間からこぼれ落ちていく。
どこまでいっても、どうして俺はこんなにも無力なんだろう。
足掻いても結果は変わらないのなら⋯⋯
──もう、いいんじゃないか。
心の中で、そんな声が囁く。立ち上がる意味なんてあるのか? もう、俺には何も残っていない。
ベルもいない、ナガマサさんもいない。仲間の信頼も失った。俺に残されたものは、何かあるのか?
これ以上何を望む? 何を求めて足掻く?
俺は、そのまま膝を抱えて座り込んだ。
何も考えたくなかった。ただ、空虚な時間が過ぎていくだけでいい。立ち上がる理由なんて、どこにもない。
目を閉じれば、深い闇が広がっていく。何も考える必要がない。ただこの心地の良い空間に身を委ねればいいんだ。
「⋯⋯なんて、できたら楽なんだけどな」
どんなに一寸先もわからないような暗闇の中でも、光り輝くものがある。
その一等星が俺が進むべき方角を教えてくれる。
「後悔の無い人生、か」
それは、かつて自分に誓った言葉。
あの瞬間、俺は誓ったはずだ。前世のような無為な生き方はしないと。
確かに、俺は失った。全てを失ったかもしれない。
だけど⋯⋯
「まだ、終わっていない」
声が震えている。負けを認めてしまえば、確かに楽かもしれない。全てを投げ出せば、あの闇に飲み込まれてしまえば、と。
でも、そんな生き方を選べば、正真正銘、前世と同じになる。また後悔の連続だ。何も変わらない。
俺は拳を強く握りしめた。痛みが、微かに感覚を戻してくれる。
それに、俺はあの輝きの正体を確かめないといけない。俺を奮い立たせ、立ち上がらせてくれるその正体を。
これからどうすればいいのか、その答えをナガマサさんは教えてくれた。
後は、自分次第だ。
ここで立ち止まるか、それとも先の見えない道を往くか。
「──そんなの答えは決まってるよな」
これ以上何を望むかだって?
何を求めて足掻くかだって?
俺が欲しいものは、あの瞬間からずっと、『変わっていない』。
「モモに、謝らなくちゃな」
俺はゆっくりと立ち上がり、重く閉ざされていた目をゆっくりと開いた。
今も、心が壊れかけていることに変わりはない。それが完全に治ることもないだろう。ただ、少しの間、延命させるだけだ。
⋯⋯覚悟は決まった。
部屋の扉を開けると、まるで「待っていました」と言わんばかりのいつもの表情で、彼は俺を出迎えてくれた。
「やっぱり、カインさんはすごいです」
「そんなことないよ。ウィル、モモはどこに?」
「隣の部屋にいますよ」
俺はその言葉に従って、隣の部屋の前に立った。
コンコンコン、とノックをすると、中から物音が聞こえたが、返事はない。
それでも構わず、俺は話し始める。
「さっきはごめん。もう、大丈夫」
「⋯⋯」
沈黙が続いた後、キィィと扉がゆっくり開かれた。
そこには、髪はボサボサで、目元が赤く腫れ、涙の痕が頬に残っているモモが立っていた。
「それ、本当ですか」
「ああ、だから行こう」
「⋯⋯はいっ!」
俺たちは急いで支度を整え、階段を降りると、入口の前にはライゼンが待っていた。
「いい表情になったな」
「おまたせしてすみませんでした」
「なに、気にするな。それに、ここからは時間との勝負だからな。早く解決してよかった」
ライゼンの言う通り、今の俺たちには時間がない。
ナガマサさんが話していた『煉転』という技を完成させなければならないし、何か対抗策を見つける必要がある。
ただ、今の目標は決まっている。
「行きましょう。次の目的地は異世界人が集まる街『シモウサ』に」
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