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第七十六話 繰り返される過ち

 目を覚ませば、そこには天井があった。


「⋯⋯ベルはッ!?」

 寝起きでうまく働かない脳でなんとか直前の記憶を呼び覚ます。

 あたりを見渡すと今いる場所はいつの日かの、部屋だった。


「ここは、もしかしてバースの⋯⋯」

「ようやく、目が覚めたのですね」

「モモ⋯⋯。ベルと、ナガマサさんは⋯⋯?」

 その問いにモモは、俯いたまま答えてくれなかった。


「早く戻って、ベルたちに加勢しなくちゃ⋯⋯」

「それはだめです。皆さんの思いを無駄にするつもりですか」

「無駄にって⋯⋯まだ二人が死んだかなんてわからないだろ!!」

 モモの手を振り払って、ベッドから立ち上がるも、その前に巨漢が立ちふさがった。

 ボロボロになった道着、 襟には血が滲んでいる。


「⋯⋯そこを退いてください、ライゼン先生」

「そういうわけにはいかないな」

「もしかしたら、奇跡的に逃げ切れたかもしれないじゃないですか! あの二人がそう簡単にやられる訳が──」

「殺されたよ」

「⋯⋯え?」

 その一言で、俺の頭の中は真っ白になった。


「あの異世界人が会話するところを聞いていた。二人は確実に仕留めたそうだ」

「そんなの、うそ、ですよね? だって、学園にはあの学園長も、他の教師の方々もいるのに──」

「エドワード学園長も、モネも殺された。それなのに、こちら側は敵は誰一人として仕留められなかった。敵は全員揃って、王城の方に向かっていったさ」

「そん、な⋯⋯」

 俺は膝から崩れ落ちた。信じたくない。信じられるはずがない。でも、ライゼンの表情を見るだけで、それが揺るぎない現実だと突きつけられる。

 本当に、みんな死んだのか⋯⋯。こんな、あっけなく。


 頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。心が何かに押しつぶされる。息苦しい。目の前の光景が歪んでいく。


「──じゃあ、もう無理じゃないですか」

「⋯⋯それ、どういう意味ですか?」

 モモが静かに問い返してくる。その言葉に、俺の中でくすぶっていた何かが爆発しそうになった。胸の中に渦巻く苛立ちが抑えきれなくなっていく。


「どういう意味か、だって? こんな状況で、まだわからないのかよ!」

 俺の声は震え、かすかに嗚咽が混じった。ただの八つ当たりだと自分でもわかっている。でも、止められない。抑えきれず、どんどん溢れ出す。


「学園長やナガマサさんがいたのに、それでも敵わなかったんだぞ。そんな相手に、俺みたいなのが生き残ってどうするんだよ! まだベルがいるならどうにかなったかもしれない!」

「そこまでにしろ」

 ライゼンの制止も、今の俺には全く意味をなさない。口が勝手に動いて、止まってくれない。ぐちゃぐちゃになった感情が次々と言葉になって飛び出してくる。


「ベルなら、なんとかなった。ベルなら、こんな状況でも巻き返せる。だから、俺が残るって言ったのに! それなのに、俺を気絶させてまで自分たちが残って、結局誰一人として敵を仕留めることもできず、ただ犠牲になって、そんなのっ⋯⋯!」


『──ただの無駄死にじゃないか!!』

 言ってはいけない言葉だった。それに気づいたときには、もう手遅れだった。


「カイン、それ、本当に言ってるんですか⋯⋯?」

「いやっ、違う、これは──」

 慌てて言い訳をしようとして顔を上げた瞬間、目に飛び込んできたのは、涙で潤んだ瞳と、振り上げられたモモの手のひらだった。


「⋯⋯見損ないました」

 ──パンッ!!

 その一言ともに振り下ろされた一撃が、顔面に直撃した。ピリピリと痙攣する頬に手を当て、ゆっくりともう一度モモの方を振り向いた。しかし、彼女は俺を見ることなく振り返り、乱暴に扉を開け放ち、そのまま去っていった。


「少し、頭を冷やすといい」

 ライゼンもそう言い残し、静かに扉を閉めながら部屋を出ていった。木製の扉が軋む音が、部屋中に冷たく響く。

 その音が消えると同時に、一人残された部屋は、深い静寂に包まれた。

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