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第七十二話 託される思い

 ナガマサは学園の裏門を抜け出し、カインとベルを腕に抱えながら、喧騒に包まれたルドベキアの街路を縫うように進んでいた。やがて、ルドベキアの正門を抜け出すと、広がる草原が視界に飛び込んでくる。


 しかし、ほんの少し進んだところで、ナガマサは突然足を止め、両脇に抱えていたカインとベルをモモとウィルに向けて投げ飛ばした。


「⋯⋯ここまでだな」

「──え?」

 ナガマサが静かに呟いた言葉を聞いて、俺は正気に戻った。


「──それって、どういうことですかナガマサさん」

「どうもなにも、俺がここに残って時間を稼ぐと言ってんだ。お前らはここから東にある『シモウサ』に向かえ。わかったな?」

「でも、それじゃあ⋯⋯」

 いくらナガマサといっても、無事では済まないのは明白だった。


 あのカリオスが敵にいるだけでも絶望的なのに、グラジオを殺した無音(サイレント)までいる。

 それに、あの『黒い竜』。あんなのに、どうやったらあんな相手に勝てるんだ。

 モモの姉らしき人も、カガミも、きっと俺たちの味方じゃない。


 ──そして、師匠も。


「⋯⋯全員で逃げましょうよ。ここに誰かが残る必要なんて⋯⋯」

「それは、無理な話だ」

「──ッ、どうしてですか!」

「お前はあれから全員が無事に逃げられると思うか?」

 ナガマサが視線を後ろに移すと、そこにはどんな建物よりも高く、翼を広げて君臨する黒い竜の姿があった。


『グオオオオオオオ!!!』

 遥か遠くで轟いたはずの咆哮が、ここまで響いてきた。大地が震え、身体が痺れる。


 ──無理だ。


 本能がそう告げた。俺たち人間は、あれに対抗する術など持っていない。蹂躙されるのをただ待つしかない。勝ち目がないどころか、戦うことすら無意味だと思わせる圧倒的な迫力。


 すると、俺の横で一人の少女がゆっくりと立ち上がった。


「──私も、ここに残る」

「⋯⋯何を、言ってるんだ、ベル」

 意味がわからなかった。理解できない。

 だが、困惑する俺をよそに、少女はナガマサの前に一歩進み出て、続けた。


「あなた一人じゃ、時間稼ぎにならない。でも、私が加われば、カインたちが逃げる時間なら十分に稼げる」

「──確かに、お前の言う通りだが⋯⋯いいんだな?」

「うん。もう、覚悟は出来てる」

 ベルはその言葉を発する際に、一瞬の迷いも見せなかった。躊躇いなど微塵もない。

 その姿を見て、俺は震える足を無理やり押さえつけて、立ち上がる。


「なら、俺も⋯⋯!」

「ダメだ」

 ナガマサの声が、俺の言葉を即座に打ち消した。


「どうしてですか!」

「今のお前じゃあ、力不足だ。足手まといになる」

「⋯⋯そん、な」

 一番言われたくない人に、一番言われたくない言葉を投げかけられた。


「──確かに俺はベルに敗けたし、ナガマサさんには一度も攻撃を当てたことがない。でも、時間を稼ぐくらいなら、精霊国で第二王子相手にだってやってみせた。二人が犠牲になる必要なんてない。弱い俺が犠牲になったほうが良いに決まっている。なあ、ベルも、そう思うだろ?」

 自分でも、どれだけ無茶を言っているかはわかっている。でも、このままじゃ、本当に二人が犠牲になってしまう。

 それだけは耐えられない。もう、目の前で大切な人を失うのは二度とごめんだ。


「なあ、モモもウィルもそう思うだろ! ここは俺のほうが適任だって! それに、仮にシモウサに行けたとして、俺たちは一体どうすればいいっていうんだ。あんな化物達を相手に、どうしろって言うんだよ!」


 俺の叫びに、誰も答えはしなかった。静まり返った空気の中、ナガマサが静かに口を開いた。


「⋯⋯お前がツバキの見様見真似で習得した技の名は『煉転』。ずっと不思議だった。どうして、異世界人の血縁じゃないお前が、不完全ながらも使えていたのか。だが、さっきの異世界人の名を呼んだ時、ようやく理解した」


「──お前、【日本人】だろ?」

「⋯⋯え?」

 それは、十年ぶりに聞いた、懐かしい言語だった。


「⋯⋯やっぱりな。なら、なおさらお前はシモウサに行かなきゃならない。後ろの二人もだ。そこで技を完成させろ。俺たちから教わった秘技を。そして、『煉転』をッ!」


 ナガマサはニッと笑いながら言った。


「それで、俺たちの仇を取ってくれ」

「⋯⋯ッ!」


 ──どうして、みんな、そんな顔をするんだ。死ぬのが怖くないのかよ。


「それなら、ベル⋯⋯ベルも一緒に⋯⋯」

「──カイン」

 ベルが、優しく俺を抱きしめた。


「ありがとう」

 その瞬間、腹部に衝撃が走った。


「カハッ⋯⋯」

「──元気でね」

 意識が薄れていく。ぼやける視界の中、二人の後ろ姿が映る。

 手を伸ばして止めようとするが、身体が言うことを聞かない。二人の姿がどんどん遠ざかっていく。


 嫌だ、嫌だ⋯⋯


 そう思っても、溝内に入った拳によって酸素が足りなくなった脳は、俺の視界を完全に閉ざした。

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