第六十八話 対面する二人
「開始!!」
「全員、放て!」
ルークの指示とともに、魔法が一斉に放たれ、一点を目掛けて飛んでいく。
それはAクラスの生徒ではなく、その手前。
──そう、カインの元に。
「悪く思わないでくれよ、これも職務を放棄したあのクソ教師のせいなんだから」
「⋯⋯そう来るよな」
視界がまばゆい閃光で包まれた。
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遠くで爆発音とともに観客のどよめく声が会場に響いた。
その様子をみて、Aクラス陣地に構える水晶の前で一人盛大に高笑う存在。
「あはははっ、ざまあねえな! 弟の味方なんかしてオレに歯向かうからこうなるんだよ。それにお前もひどいよな、たしか一緒に薄汚え冒険者をやってたんだろ? 助けに行ってやったらどうだ」
「必要ない」
「ははっ! さすが我らがエース、無慈悲なこった! さて、今頃ビビり散らかしているであろう出来の悪い弟をこのカルロ様が慰めに行ってあげなきゃなあ。お前も行くだろ、ベル?」
「行かない。ここで待つ」
「はあ? ここにはもう誰も来ないのにか? お前の仲間は馬鹿なDクラスのやつらに背後から魔法を打たれたんだ。もしそれで無事だとしても眼の前にはオレら以外のAクラスの精鋭がいる。ここに来るのは不可能だ。お前には万が一に備えて水晶の護衛を任せたが、もう必要ないだろ」
「⋯⋯?」
「ふっ、まあいいさ、それならお前以外で楽しんでくるとするよ。でもほんと最高だな、対抗戦ってやつは。大衆の前であいつに恥を欠かせられるなんて」
気だるそうに身体を起こすと、カルロは満足げな表情で爆心地に歩き出した。
しかし、水晶の前にただ一人残ったベルは静かに感覚を研ぎ澄まし続ける。木々を通り抜ける風、葉がこすれる音。一瞬たりとも、その来たるべき瞬間を逃さないように。
「行っちゃった。いいのかな、たとえみんなが束になったとしても⋯⋯」
──ベルは不思議だった。
「カインの相手に、なるわけ無いのに」
ただベルとしてはありがたい状況だった。足手まといがいない今、これで何も気にせず全力でやり合える。
「待ってるよ、カイン」
///////
「おい、これはどういうことだ。どうして⋯⋯誰もいないんだ」
Dクラスの水晶までの道のり。それは想像とは全く違う道だった。ウィルに加担したせいで、ボロボロにされて、今頃、許しを請っているはずなのに。それなのに、ボロボロになっていたのは精鋭のAクラスと騙されたDクラスのやつら。
それどころか本来の目的であったウィルですら、なぜ無傷なんだ。たった二人でこの人数を無双したっていうのか。いや、あのウィルに限ってそれは無いはずだ。
だとすると、あいつが一人で⋯⋯
「当然ですよ。カインさんは自己評価が低いせいで勘違いされがちですけど、紛れもなく彼は『最強』と呼ばれるにふさわしい人ですから」
「⋯⋯いつからそんな生意気言うようになったんだ。ずっとオレ様にぺこぺこしてたくせに」
「残念ながら、もうその時の僕はいませんよ。それに今日は、僕もカインさんと同じように自分の因縁と決着をつけにきたのですから」
「それは、どういう意味だ⋯⋯」
あまりにも予想外の言葉に理解が追いつかなかった。あのゴミが決着をつけにきただあ?
まさかそんなふざけたことをあいつが言うわけ──
「聞こえませんでしたか? 今日僕は、あなたを倒すと言ったんです」
「どうやらオレにぶち殺されたいようだな、ウィルっ!」
「⋯⋯もう終わりにしましょう。僕は、あなたの言いなりじゃない」
////////
「話が違うじゃないか! 何が同じDクラスだ、あんな化け物!! 数十人はいたはずだ。Dクラスだけじゃない、Aクラスの生徒もいた。それなのに⋯⋯!」
「始まる前までの威勢はどうした。一矢報いるんじゃなかったのか?」
「うるさいな! これも全部、あのナガマサとかいうクソ教師のせいだ。あいつが責務を放棄しなければ⋯⋯」
「じゃあ、なんでナガマサさんに抗議しに行かなかったんだ? なぜあのとき学園長に抗議しに行くといってその後、彼の元に来なかったんだ?」
「⋯⋯そ、それは」
結局、こいつらは人任せだったんだ。学園に行けば、学園側が勝手に教えてくれる。教師は生徒に教えるのが当然だ。教えないほうがおかしいと。
「あの人はこう言っていた。『学ぶ気があるやつは自分から頭下げても教えを請いに来る。オレは学ぶ気がないやつにも指導する気はない』と。おまえらがナガマサさんの元にも抗議にいっていれば指導してくれていたはずだ。おまえらの行動のせいでこうなったんだ。それをいつまで人のせいにしているんだ」
「違うっ、あいつが悪いんだ! 僕たちは悪くない!」
「そう、ならいい」
「見逃して、くれるのか?」
「⋯⋯そうだな。おまえが──」
ルークの顔に一瞬、安堵の表情が浮かんだ。
「ナガマサさんのことを悪く言っていなかったら、そうしてた」
「中級まほっ」
近接戦闘を専門にしている人に対して、それは悪手だろう。
ルークは魔法名を言う前に、ゴッという鈍い音ともに地に伏せる。
刀を抜くまでもない。これで邪魔者はいなくなった。
ようやく辺りは静まり返り、歓声もいつの間にか一切聞こえなくなった。聞こえるのは木々がこすれ合う雑音と草が踏み倒される音だけ。
「⋯⋯待たせたね」
「ううん、それよりよかった。かすり傷一つでもあったら、不公平になっちゃうから」
「良い準備運動になったよ」
この時を待ちかねたかのように、両者は対面する。ベルが立ち上がると、カインも呼応するように立ち止まった。
「こうして戦うのはダインといっしょに訓練してたとき以来だな」
「うん、あのときはカインに勝てなくて、守られてばっかだったね。このマフラーもペンダントも、カインにもらってばっかで、私からは、何もあげられかった」
ぼろぼろになったマフラーを握りしめ、彼女は誓う。
「だから、これからは私がカインを守る。何があってもカインを守る。これが私がカインにしてあげられる唯一のお返し。もう、無力で何も出来なかった私じゃない。家族を見殺しにする弱い私じゃない。それを証明するために今日、私は負けるわけにはいかない」
「⋯⋯どうして、どうして守られなきゃいけないんだ。そんなに俺が情けなくみえるのか」
「情けなくない。大事だからこそ、私が守らないといけない」
「だからどうしてベルに守られなくちゃいけないんだ!」
それをベルに言われたことが、俺はなにより許せなかった。悪気がないこともわかってる。情けなく思ってないこともわかってる。
でも、それを我慢できるほど俺は大人じゃなかったようだ。精神年齢はもう40を過ぎてるだろうに。恥ずかしい話だ。
「⋯⋯これ以上の話は必要ないな、ベル」
「うん、カイン」
俺達は互いに歩みを進める。間合いまであと一歩、あと数センチ。
そして、その瞬間が訪れた。
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