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間話 ルドベキアの王

 二日後にクラス対抗戦を控えた今日、俺はなぜか、人生二度目の王城にいます。


「──どういうことか説明してくれ、ウィル」

「説明と言われましても、最近の出来事を報告するだけですよ。でもまさか、友達を連れてここに来られるなんて、以前の僕だったら考えられませんでした!」

「⋯⋯それは、よかったな」

 正直、断ろうかとも思ったけど、こんなに目を輝かせて頼まれたら、拒否なんてできるはずがない。


「はあ⋯⋯」

 気分転換に辺りを見渡した。

 石造りの重厚な柱が規則正しく並び、柱の間からは柔らかな日差しが差し込んでいる。さらにその先には、手入れの行き届いた庭園が広がっており、その中心にある噴水は、絶え間なく水を湛えながら静かに佇んでいた。


「どこの国も、城の構造のは似たようなものなのか」

 精霊国アイルの記憶が、頭をよぎる。

 ただ、アイルの王城と決定的に違う点を挙げるのなら⋯⋯


「明かりは、魔法が使われているんだな」

 アイルでは、光源に火が使用されていたが、ここではおそらく、ダンジョン攻略でよく使われる初級魔法の『照明(ライト)』が使用されている。

 たかが初級魔法といってしまえばそうだが、それでも魔力は必要不可欠。それに、この広大な建造物を常時照らすとなると、それこそ膨大な魔力量が必要になる。仮に一般的な魔法使いが数十人いたとしても、保って一日が限界だろう。


 だから、この街に初めて足を踏み入れたときから疑問に思っていた。これほど過剰に魔力が使われているこの街では、一体どうやってその魔力を補っているのか。


「カインさん、準備はよろしいですか?」

「⋯⋯ああ、うん。大丈夫だよ」

 まあ、ここでいくら考え込んでも仕方がない。これから、この国の王様と対面するんだ。そっちに集中しないと。


「それでは、行きますよ」

 ウィルが軽く頷くと同時に、二人の前に立ちはだかる大扉が重々しく開かれていく。ギィィィ、と低く響く音が空気を揺らし、扉の向こうに広がる広間が徐々に露わになる。


 広間は荘厳な造りで、高くそびえる天井からは見事なシャンデリアが吊るされ、壁には数々の歴史的な絵画や紋章が飾られている。そして、中央にはひと際高い玉座が据えられ、その玉座に一人の男性が悠然と座っていた。

 ウィルと同じ、金色に輝く髪に瑠璃色の瞳。顔には年月を刻んだしわがいくつも見て取れる。


「来たか」

「⋯⋯ッ!」

 王の風格。王だからなのか、風格があるからなるのか。

 ウィルは「気楽に」と言っていたけど、それで本当に気楽にできるやつがこの世にいるわけがない。


「お久しぶりです、父上」

「ああ。そして、その隣にいる者は⋯⋯」

「カイン・レリウットと申します」

 俺は、胸に手を当て、跪いた。


「なに、そんなに畏まる必要は無い。今日は一人の親として、君に礼を言おうと思っていただけだからね。我が息子が世話になっている」

「いえ、そんな⋯⋯。私もウィル様にはお世話になっていますので」

「ちょっと、ウィル様だなんて⋯⋯! いつも通り、ウィルって呼んでくださいよ!」

「馬鹿っ、王の眼の前で呼び捨てなんてできるわけ無いだろ!」

 すると、そのやり取りを見ていた王は、ハッハッハ!と朗らかに笑った。


「良き友を持ったな、ウィルよ! カインと言ったな。本当に畏まる必要は無いのだ。我としてもウィルの友人に気を使われるのは少し心苦しい。何か聞きたいことがあるなら、何でも聞いてくれて構わないぞ」

「分かりました。それでは⋯⋯」

 俺はゆっくりと視線を上げ、王の玉座のさらに奥を見つめる。


 この部屋に入ったときから、ずっと気になっていた。圧倒的な存在感を放つ、あの人物像の彫刻が。

 大きさは、見たところ自分の背丈と同じくらいだろうか。素材は透き通った深紫色の宝石のようなもので構成されており、膝をつき、微笑んでいるようにも見える表情は、まるで今にも動き出しそうなほどで、リアルというより、生々しいと言った方が近いだろう。


「その後ろの彫刻は一体⋯⋯」

「ああ、これかい。これは、ある無名の冒険者パーティーが献上してくれたものなのだが、すべて『魔核』で形成されているのだ」

「これが全部『魔核』で!?」

 俺は思わず立ち上がってしまった。

 昔倒したダンジョンの主ですら、拳一つ分の魔核だったのに、一体どれほどの魔獣を倒せばこれほど巨大な魔核が手に入るのか。


「これがあるおかげで、この国は発展し、我々は豊かに暮らせている。あの冒険者パーティーには今でも返しきれないほどの恩があるよ」

「そう、だったのですね⋯⋯」

 ようやく合点がいった。この国の過剰な魔力消費は、すべてこの魔核一つで賄っていたんだ。

 規格外の魔核で作られた、あの彫刻物で。


 なら、なおさら疑問が湧く。なぜ、その無名の冒険者パーティーは、わざわざ『彫刻』などにしたのか。削らなければ、より大きな魔核として保管できたはずだ。それほどまでに、この人物が慕われていたということだろうか。


 もっとこの魔核のことについて詳しく聞きたいところだが⋯⋯


「さて、すまないがここでお開きにしよう。まだ仕事が残っていてな」

「はい、それではまた来ます。父上」

 相手はこの国の王。わがままを言える相手じゃない。

 ここは素直に諦めよう。


 端的に別れの挨拶を済ませ、俺たちは王城を後にした。

 新たな疑問が生まれたが、今はそれを気にしている場合ではない。二日後には、いよいよベルとの対決が控えている。


 もう、時間は残っていないんだ。

ここまで御覧いただきありがとうございます。

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