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第六話 新しい家族

 ベルが俺にくっつくようになってから、せっかくだから一緒に訓練することになった。


 さすがは獣人といったところだ。

 獣人特有の爪を使った戦い方は、非常に戦いづらい。

 今はなんとか経験と魔法のおかげで勝てているが、戦いのセンスにおいては正直、俺よりもベルのほうが優れている。

 このままでは越されるのも時間の問題なのかもしれないな。


 魔法の授業では意外にもベルは魔法が苦手なことが判明した。

 特に炎系が苦手なようだ。

 ルミアの熱い応援を受けながら今も発動させようと試みている。

 ベルのふぐぐ⋯⋯と力む顔はいつ見ても癒やされるな。


「⋯⋯はぁ」

 実は最近、俺は伸び悩んでいる。

 特に魔法だ。中級魔法になると、周囲にも被害が出てしまうこともあり、容易に練習ができないのだ。

 そのため最近は初級魔法の精密な操作ばかり練習している。

 ミリアいわく、こっちのほうが重要だそうだが。


「まあ、気にしていても仕方ないな。それより準備しなくちゃ⋯⋯」

 今日はベルもこちらの生活に慣れてきたようなので街につれていく約束をしている。

 あのベルと出会った森の近くにある街ノリッジで、だ。

 あの森に近づくのはまだ怖いだろうから、これで少しずつ克服していけたらいいな。


 ///


 街にはいると、辺りは活気に包まれていた。

 行き交う人々。

 一直線に並ぶ屋台の数々。

 腕にしがみついているベルも美味しそうな匂いにつられて辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 どうやらうまくいきそうだ。


「よし、じゃあ早速あれ食べてみようか」


 指差した店では、おじちゃんがその場で一個一個の肉が大きい焼き鳥のようなものを美味しそうに作っている。

 その光景を見て、ベルのよだれが洪水のように溢れ出す。


「おじちゃん、それ一個ください」

「まいどあり!今日はデートかい僕」


 どの世界でも屋台のおじちゃんはからかうのが好きなようだ。

 ベルも困って⋯⋯。

 そう思い、ベルの様子を確認すると、耳の先まで真っ赤に染まってしまっている。


「⋯⋯ふんっ!」

 グーで思い切り自分の頬を殴る。

 いきなりの行動にベルはあたふたしてしまっているがすまない、許してくれ。

 こうでもしないと勘違いしてしまうからな。

 ベルが──俺のこと好きなんじゃないかって!


 男っていうのはな、挨拶されるだけで自分のこと好きなんじゃないかって勘違いするんだ。

 そのせいでどれだけ女の子にドン引きされてきたか。

 せっかく馴染んできたというのに俺のせいで気まずくさせるわけにはいかない。


「いえいえ、違いますよ〜」

 そう店主に答えた。

 これでいいんだ。これで⋯⋯


 一応、反応を確認するためにベルの方を見ると明らかにしょぼんとしてしまっていた。

 俺は何を間違えたのだろうか。

 もはやなにもわからない。


 そっぽを向くベルの機嫌を治そうと何度も話しかけてみるがことごとく無視されてしまった。

 どうしようかと悩んでいたら、ある屋台の前でベルは足を止めた。


 何が置いてあるのか見てみるとそこにはいくつものアクセサリーが並んでいた。


「これが気になるのか?」

 そう聞くとベルはコクコクとうなずく。

 街に行きたいと言ったら何故かルミアがたくさんお金をくれたし、テーブルに並んでいる商品の値段を確認してみたけど、どれもお手頃な値段ばかり。


「せっかくだし、どれか一つ買っちゃおうか」


 ベルはその言葉を聞くと一気に目を輝かせて物色し始めた。

 女の子だし、一個ぐらい持っておいて損はないだろう。


 一通り見終わるとベルは振り向いて真剣な顔でこちらを見る。

「カインは、どれが良いと思う?」


 これほどまでに真剣なベルは初めて見た。

 お願いされたからにはどれか選ばなきゃいけない。


 ──でも困った。

 俺はこれまで一度も女性と付き合ったこともなければ、こういった経験もない。

 女性はどういったものが好きなんだろうか。


 どれも良いとは思うが⋯⋯


「おっ⋯⋯」

 一つだけ、これはベルに絶対似合うだろうなと思ったネックレスがあった。

 小さい琥珀色の石がついているだけのシンプルなものだが、逆にそれがベルに合っていると感じた。


「これかな」

「じゃあそれにする」

 ベルはそのネックレスを手に取ると、即決した。

 さっきまであんなに悩んでいたのに、と思ったが、ベルがこれでいいと言うなら俺がとやかく言う必要はない。

 お金もちょうど足りたのでそのまま買うと、ベルは背を向けて「ん」とだけ言う。

 これはさすがの俺でもわかる。


「これからもよろしくな、ベル」

 そう言って首にそのネックレスをつけてあげた。


 帰り道、ベルはずっと大事そうにつけたネックレスを見ていた。

 家について、ベルから話を聞いたダインとルミアは一日中ニヤニヤしながら俺を見た。


「なんですか」といっても、「いやなんでも」とだけ。

 その日はずっと、二人はニヤついたままだった。


 ///


 それから一ヶ月も立たないうちにルミアの出産が始まった。

 一昨日辺りから出産のお手伝いをする人が頻繁に家を出入りしていたので、近々あるだろうとは感じていた。ただ、心の準備はしていても出産に立ち会うのは初めてだから、流石に緊張する。

 まあ、それ以上に落ち着いていなかったのはダインの方だったが。


 いたら邪魔になってしまうと部屋の外に追い出されても、ダインは扉の前をぐるぐると忙しなく動き続けている。

 ルミアの痛みに耐える声を聞く度、扉の向こうに向かって激励の言葉をかけ、数時間たったぐらいでは一切その場から離れようとしない。


 俺とベルももちろんその横でただ無事に生まれるように祈り続ける。

 このときベルがいてくれて本当に良かった。

 そばにいてくれるだけで不安がすごく和らいだ。


 始まってから十時間以上、あたりは静まり返り、深夜と呼べる時間帯になった。

 未だに俺たちは扉の前から一ミリたりとも動いてなかった。


 流石にベルはうとうとし始めているが、ここまでよく頑張ってくれている。

 5歳の俺にとっても眠気はピークに達しているが、ルミアがまだ奮闘しているんだ。

 俺にはこれくらいしかできないのだからせめてその時まで踏ん張ろう。


 ──そう思った矢先そのときは突然やってきた。


「ぉ、おぎゃあ!」

 扉の先から産声が聞こえた。

 すぐさまダインと俺は扉を開け、ルミアのもとに。


 さすがに疲れたのだろう。

 ルミアは少しやつれてしまっているが、問題はなさそうだ。

 そして、ルミアの腕の中で今も大きな声で泣き続ける赤子の姿。

『うわぁ』と親子揃って声が漏れる。


「女の子よ」

 そう言ってルミアはダインにそっと優しく赤子を渡す。


「俺の、娘か⋯⋯」

 ダインは感極まったようにその後は無言で、ただじっと娘の顔を見つめている。


「カインもこれでようやくお兄ちゃんね」

 ルミアに言われるまですっかり忘れていた。

 そうか、俺がお兄ちゃんか⋯⋯


 前世では妹なんていなかったから、どうやったら良いおにいちゃんなれるのかなんて俺にはわからない。

 でも、少しは胸を張って自慢できるぐらいのお兄ちゃんにはなってやろうと心の中で決心した。


 そして、家族で話し合った結果、名前はルイに決定した。

ここまで御覧いただきありがとうございます。

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次話もぜひ読んでください。

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